イラン情勢で原油120ドル台突入、市場への影響を読む
はじめに
米国・イスラエルとイランの軍事衝突が長期化するなか、原油市場は歴史的な混乱に見舞われています。WTI原油先物は一時1バレル120ドルを突破し、ドバイ原油の3月平均価格は124.3ドルと前年比約1.8倍に達しました。国際エネルギー機関(IEA)が「世界石油市場の歴史上、最大の供給寸断」と表現するほどの事態です。
週明けの日本株市場も引き続き不安定な動きが予想されるなか、週後半から本格化する2月期決算の発表にも原油高の影が忍び寄っています。本記事では、イラン情勢の最新動向と原油価格の見通し、そして日本の企業業績や家計への具体的な影響を整理します。
ホルムズ海峡「事実上の封鎖」がもたらした衝撃
封鎖の経緯と現状
2026年2月28日、米国とイスラエルによるイラン軍事作戦「エピック・フューリー」が開始されました。これに対しイラン革命防衛隊(IRGC)は3月2日に「ホルムズ海峡は閉鎖された。通過しようとする船は燃やす」との声明を発表しています。
実際の物流面では、大手海上保険会社が3月5日に一斉に「戦争リスク保険」の引き受けを停止し、日本郵船・川崎汽船を含む主要海運各社がホルムズ海峡通過を見合わせる事態となりました。封鎖前に1日平均24隻が通過していた原油タンカーは、3月以降ほぼゼロが続いているとされています。
世界の原油供給の2割がストップ
ホルムズ海峡は世界の原油輸送量の約20%が通過する要衝です。この事実上の封鎖により、CNBCの報道によると、4月末までに約10億バレル(原油6億バレル超+石油製品約3.5億バレル)が市場から消失する見通しとなっています。IEAはこの状況を「史上最大のエネルギー安全保障上の危機」と位置づけています。
原油価格の動向と今後のシナリオ
乱高下する価格
WTI原油先物は3月中旬に一時114ドル近辺まで上昇し、ブルームバーグによると4月1日にはトランプ大統領のイラン攻撃激化発言を受けて110ドルを突破しました。一方で停戦交渉への期待から一時的に下落する場面もあり、市場は不安と楽観の間で大きく揺れ動いています。
OANDAの市場分析によると、4月2日にはトランプ大統領が2〜3週間以内にイランへの軍事攻撃を終了する可能性を示唆したことで一時下落しましたが、翌3日にはイランの報復姿勢が伝わると再び上昇に転じるなど、停戦交渉の進展次第で日々の値動きが激しい展開が続いています。
120ドル超えの持続リスク
東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授は、時事通信の取材に対し、イスラエルが対イラン攻撃をやめない限りホルムズ海峡の事実上の封鎖状態が数年続く可能性があるとの見方を示しています。封鎖が長期化すれば、1970年代の石油ショック時を超える「歴史的な原油供給の混乱が起きる」と警告しています。
三井住友DSアセットマネジメントのシナリオ分析では、原油価格が数カ月以内に75ドル水準に落ち着くベースケースと、長期的に100ドル超が続くリスクシナリオの両方が提示されています。
IEA協調放出と各国の対応
過去最大の4億バレル放出
IEA加盟国32カ国は3月11日、過去最大となる4億バレルの石油備蓄の協調放出で全会一致の合意に達しました。ジェトロの報道によれば、日本は約8000万バレルを放出する計画で、3月16日に民間備蓄の放出を、26日に国家備蓄の放出を開始しています。
日本には2025年末時点で国内需要の約254日分に相当する石油備蓄(民間101日分+国家146日分+産油国共同備蓄7日分)があるとされています。しかし、ホルムズ海峡の封鎖が長期化した場合、この備蓄がどこまで持つかが焦点となります。
代替ルートの模索
時事通信によると、日本政府や海運各社はホルムズ海峡を経由しない代替ルートとして喜望峰回りのルートを検討しています。ただし、この場合は輸送コストが倍増するとの試算もあり、原油調達コストのさらなる上昇は避けられない見通しです。
日本経済と企業業績への波及
マクロ経済への影響
野村総合研究所の木内登英氏の試算によれば、原油価格が100ドルを超えて推移した場合、日本の実質GDPは年0.1〜0.2%程度押し下げられるとされています。第一生命経済研究所は2026年4月号の四半期見通しで、緩やかな景気回復を見込みつつも「原油価格がリスク要因」と位置づけています。
ニッセイ基礎研究所の分析では、原油価格が10%上昇した場合、法人企業全体の経常利益は2.8%減少し、特に非製造業への影響が大きく3.4%の減少となるとされています。小売業やサービス業など、エネルギーコストの価格転嫁が難しい業種ほど利益圧迫は深刻です。
今週の日本株市場
日経平均株価は4月4日時点で5万3123円と前週末比249円安で推移しています。3月30日にはブルームバーグが報じたところによると、原油高を嫌気して朝方に前営業日比5.3%急落し年初来安値を付ける場面もありました。
週後半からは2月期決算企業の決算発表が本格化します。原油高に伴う輸送コストや原材料費の上昇が小売業を中心とした企業の業績見通しにどう反映されるかが、市場の大きな関心事となっています。
家計への直接的な影響
nippon.comの報道によると、原油価格の倍増により家計負担は年間約5万円増加するとの試算が示されており、低所得層ほどその影響が深刻です。ガソリン価格だけでなく、プラスチック原料や肥料、物流コストの上昇を通じて、あらゆる日用品の価格が押し上げられる構図となっています。
注意点・展望
今後の原油価格を左右する最大の変数は、米国・イスラエルとイランの停戦交渉の行方です。トランプ大統領は軍事攻撃の終了可能性に言及する一方で、イランに対する攻撃激化も辞さない姿勢を見せており、市場参加者は発言一つひとつに振り回される展開が続くと見られます。
投資家が注意すべき点として、原油価格が短期的に下落した場合でも、ホルムズ海峡の保険・物流面での正常化には相当の時間を要する見通しです。停戦合意が成立しても、すぐに元の水準まで原油価格が下がるとは限らないという点は押さえておく必要があります。
OPECプラスが日量200万バレル規模の協調減産を2026年末まで維持する方針を再確認していることも、供給面での回復を遅らせる要因です。
まとめ
イラン情勢の激化を受けてホルムズ海峡が事実上封鎖され、原油価格は120ドル台に突入するなど、エネルギー市場は1970年代の石油ショック以来ともいわれる混乱に直面しています。IEA加盟国による過去最大4億バレルの備蓄放出が進むものの、封鎖の長期化リスクは拭えません。
今週の日本株市場は、原油動向と2月期決算の発表という二つの不確定要素を抱え、ボラティリティの高い展開が予想されます。停戦交渉の進展度合いと、企業が原油高をどの程度業績見通しに織り込むかを注視していくことが重要です。
参考資料:
- 原油市場:イスラエルとイランとの間での事実上の戦闘状態突入により跳ね上がる原油価格
- イラン攻撃で高まる原油価格上昇リスクと日本経済への影響試算
- IEA加盟国、石油備蓄の緊急放出で合意―過去最大の4億バレル
- IEAの32加盟国が石油備蓄放出で合意、日本は3月16日にも放出する方針
- ホルムズ封鎖、数年継続も―石油危機超える混乱警告
- 原油輸送、代替ルートを模索―ホルムズ封鎖で喜望峰回り
- WTI原油見通し:中東情勢の悪化懸念が影響し原油価格は3営業日ぶりに上昇(2026年4月3日)
- 原油価格を踏まえた日本株のシナリオ分析
- 原油高が企業収益に与える影響
- 原油価格倍増で家計負担は年5万円アップ:低所得層ほど深刻な影響
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