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ホルムズ海峡を支配するイラン「友好国」選別と米IT企業攻撃の狙い

by 田中 健司
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はじめに

2026年2月末に始まった米国・イスラエルによるイラン攻撃を受け、ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ世界最大のエネルギー輸送路・ホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に陥っています。イランは海峡の通航を完全に遮断するのではなく、「友好国」を選別して通過を認めるという前例のない管理体制を構築しました。さらに4月に入り、イラン革命防衛隊(IRGC)はバーレーンにあるAmazonのクラウド施設を攻撃し、戦争が物理的な領域からデジタルインフラにまで拡大しています。

本記事では、イランの友好国選別制度と通航料の仕組み、米IT企業攻撃の背景、そしてこれらが世界経済と日本に与える影響について解説します。

イランの「友好国」選別制度とその仕組み

封鎖から選別通航へ

2026年2月28日の米国・イスラエルによる大規模攻撃の直後、IRGCはホルムズ海峡のすべての船舶の通過を禁止しました。それまで1日あたり約120隻が通航していた海峡は、事実上のゼロ通航状態に陥りました。

しかし3月中旬以降、イランは方針を転換し、「友好国」と認定した国の船舶に限って通過を認める選別制度を導入しました。イランのアラグチ外相は、中国、ロシア、インド、イラク、パキスタンの5か国を友好国として公式に通航を許可すると発表しました。その後バングラデシュも加わり、公式通航対象は6か国となっています。

通航料と審査プロセス

ブルームバーグの報道によれば、イランは原油1バレルあたり少なくとも1ドル程度の通航料を課しています。タンカー1隻あたりでは約200万ドルに相当するとされます。支払いには中国人民元または暗号資産(仮想通貨)が用いられているとの情報があります。

通過を求める船舶は、仲介者を通じてIRGCに船の所有者や目的地などの情報を連絡し、審査を受けます。許可が下りた船舶はイラン側の護衛のもと、指定された航路を進む仕組みです。イラン議会の安全保障委員会はこの通航料を法制化する法案を委員会段階で承認しており、本会議での立法化が進む可能性があります。

友好度による差別化

報道によれば、イランは友好度に応じて国を複数の段階に分類し、通航料にも差をつけているとされます。マレーシアは外交交渉の結果、通航料を免除されています。タイも3月25日に自国タンカーが通航料なしで海峡を通過しました。フィリピンも通航許可を取得しています。一方、米国およびイスラエルの船舶は完全に通航を禁じられており、最近これらの国の港に寄港した船舶も審査で拒否される可能性があります。

米IT企業への攻撃拡大

Amazon施設への攻撃

4月2日、IRGCはバーレーンにあるAmazonのクラウドコンピューティング施設(AWS データセンター)を攻撃したと発表しました。さらに翌3日には、アラブ首長国連邦(UAE)ドバイにあるOracleのデータセンターも攻撃したと主張しています。ただし、UAE政府はイラン側の発表を否定しており、実際の被害状況は確認されていない部分もあります。バーレーン政府は民間防衛部隊が火災に対応中であると発表しました。

攻撃の背景と18社への警告

IRGCがIT企業を攻撃対象とした直接的な契機は、4月1日にテヘランでカマル・ハラジ元外相の自宅が攻撃を受け、夫人が死亡した事件です。IRGCは「米国のICT・AI企業がイラン要人の標的選定や追跡に関与している」と主張し、これらの企業を「正当な軍事目標」と位置づけました。

3月31日の時点でIRGCは、Apple、Google、Microsoft、Meta、Intel、Nvidia、Tesla、Boeing、JPMorgan Chaseなど18社の米企業を名指しし、「今後新たな暗殺攻撃があれば、これらの企業の関連施設を破壊する」と警告していました。さらに関連施設の従業員と周辺1キロメートル以内の住民に退避を求めています。

世界経済と日本への影響

エネルギー市場の混乱

ホルムズ海峡は世界の石油消費量の約20%が通過する最重要の海上輸送路です。封鎖の影響は即座にエネルギー市場に波及し、ブレント原油は3月8日に1バレル100ドルを突破しました。これは約4年ぶりの水準です。ピーク時には126ドルまで上昇し、2月27日から3月9日までの約2週間で原油価格は27%上昇、LNG(液化天然ガス)価格は74%上昇しました。

日本関係船舶の状況

原油輸入の約9割を中東に依存する日本への影響は深刻です。ホルムズ海峡以西のペルシャ湾内には45隻の日本関係船舶が停泊を余儀なくされていました。しかし4月3日、商船三井がオマーン企業と共同保有するパナマ船籍のLNG船「SOHAR(ソハール)LNG」が海峡を通過し、日本関係船舶として封鎖後初めてペルシャ湾からの脱出に成功しました。

国際社会の対応

日本や英国、フランス、ドイツなど40か国以上がオンライン会合を開催し、イランに対して海峡の即時かつ無条件の開放を要求しました。国連海洋法条約(UNCLOS)では、国際航行に使用される海峡での通過通航を妨げることは認められていません。米海軍大学の国際海事法専門家も「通航料の徴収は通過通航の規則に違反する」と指摘しています。ただし、イランはUNCLOSに署名はしているものの批准はしていません。

注意点・展望

ホルムズ海峡の「友好国」選別制度は、イランが軍事的な劣勢をエネルギー供給路の支配力で補おうとする戦略的判断の表れです。通航料の法制化が進めば、海峡管理が恒久的な制度として定着する可能性があります。

一方で、米IT企業への攻撃は、現代の紛争がデジタルインフラを標的にする新たな段階に入ったことを示しています。18社への攻撃警告が現実化すれば、中東に展開する米テック企業のデータセンターやクラウドサービスに深刻な影響が生じます。

停戦交渉の見通しは不透明であり、ホルムズ海峡の通航制限が長期化すれば、原油の供給ルートの多様化や備蓄の放出が急務となります。

まとめ

イランはホルムズ海峡の通航を「友好国」に限定する選別制度を構築し、通航料の徴収と法制化を進めています。さらに、米IT企業のデータセンターを軍事目標として攻撃するという新たな戦線を開きました。

日本にとっては、45隻もの関係船舶がペルシャ湾に留め置かれる事態となっており、商船三井のLNG船が初めて脱出に成功したものの、エネルギー安全保障上の脆弱性が改めて浮き彫りになっています。中東依存度の高い日本のエネルギー政策について、供給源の分散や備蓄体制の強化など、構造的な見直しが求められる局面です。

参考資料:

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