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中国洋上風力が世界最安に、供給網支配で変わる新電力覇権の行方

by 田中 健司
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ホルムズ危機で浮上した電化インフラの価値

洋上風力発電は、脱炭素の象徴からエネルギー安全保障の実務装置へと位置付けが変わっています。2026年の中東危機では、ホルムズ海峡を通る石油とLNGの脆弱性が改めて露呈しました。燃料を運び続ける発電ではなく、国内の風況と送電網を使う電源をどれだけ持てるかが、産業競争力の土台になりつつあります。

そのなかで存在感を強めるのが中国です。2025年末時点の中国の洋上風力容量は42.3GWに達し、世界の稼働容量の過半を占めます。単に発電所を多く建てたという話ではありません。タービン、基礎、海底ケーブル、施工船、運転保守までを国内でそろえる供給網が、発電コストと建設速度の両方を押し下げています。

本稿では、中国がなぜ洋上風力で先行したのかを、製造業とインフラ建設の視点から読み解きます。焦点は、発電コストの低さを生む供給網、世界市場に広がる輸出力、そして調達リスクを抱える日本企業への示唆です。

世界容量の過半を握る中国沿岸部の集積

42.3GWへ拡大した稼働容量

世界の洋上風力は、まだ発電市場全体から見れば小さな領域です。IEAは2023年時点で、世界の風力容量の大半が陸上風力であり、洋上風力は導入国も限られる早期拡大段階にあると整理しています。それでも洋上風力は、沿岸の大都市圏や工業地帯に近い場所で大規模電源を造れる点に強みがあります。土地制約が重い国や地域ほど、この価値は大きくなります。

WFOの「Global Offshore Wind Report 2025」によると、世界の稼働済み洋上風力容量は2025年末に84.5GWへ拡大しました。このうち中国は42.315GWで、英国の16.071GW、ドイツの9.931GWを大きく引き離しています。新規導入は2024年の11.1GWから2025年は6.0GWへ落ち込みましたが、中国は4GW超を追加し、建設中容量でも11GW超を抱えています。

中国政府の発表でも、2024年第3四半期時点で同国の系統接続済み洋上風力は3910万kWに達し、世界首位とされています。2018年には500万kW未満だったため、数年で8倍近くに増えた計算です。2023年時点では3770万kWで世界の約50%を占めており、2025年には過半を明確に超えました。

この拡大は、単発の大型案件ではなく、沿岸省に連続して案件を積み上げる開発モデルによって生まれました。江蘇、広東、福建、浙江、山東などの沿岸部では、港湾、造船、重電、鉄鋼、海洋土木の既存産業が洋上風力に転用されています。大型部材を海上へ運ぶには、深水岸壁、重量物クレーン、特殊船、施工経験が必要です。中国はこれらを個別企業の投資ではなく、地域の産業基盤として増強してきました。

沿岸省が形成した産業集積

洋上風力の難しさは、発電機を造るだけでは終わらない点にあります。タービンは大型化するほど効率が上がりますが、ナセル、ブレード、タワー、基礎構造物は巨大化し、陸上輸送が難しくなります。港湾に近い場所で部材を造り、施工船で一気に据え付ける一連の流れが必要です。この「造る場所」と「建てる場所」の距離が、最終的なコストを左右します。

中国の強みは、設備メーカーだけでなく周辺産業が厚いことです。国家能源局系の発表では、中国の洋上風力タービンの国産化率は90%を超えています。設計、製造、建設、運転保守まで比較的完結した技術・産業チェーンが形成されたことも明記されています。輸入部材や海外船隊に頼る比率が低いほど、為替、物流、納期遅れの影響を受けにくくなります。

GWECの供給側データでも、中国メーカーの厚みは際立ちます。2024年の世界上位15社のうち10社が中国勢で、Goldwind、Envision、Mingyang、Windeyが上位を占めました。中国市場ではGoldwindが21%、Envisionが16%、Mingyangが14%、Windeyが13%を握り、上位メーカーが国内需要を吸収しながら量産効果を高めています。

ただし、この段階では海外展開より国内市場依存が大きい点も重要です。GWECは2024年の中国OEMの設置容量の94%が国内向けだったと説明しています。裏返せば、中国メーカーはまず巨大な自国市場で製品を磨き、部材価格を下げ、施工標準を固めたうえで海外へ出る順番を取っています。太陽光パネルや蓄電池で見られた量産学習の構図が、洋上風力にも広がりつつあります。

世界最安を生む部材国産化と量産効果

LCOE低下を支える調達価格

洋上風力の競争力を測るうえで重要なのが、LCOE、つまり均等化発電原価です。IRENAの「Renewable Power Generation Costs in 2024」は、2024年の世界平均の洋上風力LCOEを0.079ドル/kWhとしています。地域差は大きく、中国は0.056ドル/kWhで最も低く、米国の0.123ドル/kWh、EUの0.080ドル/kWhを下回りました。

中国の低コストは、風況だけで説明できません。IRENAは、規模の経済、政府支援を受けた調達、国内製造の優位が中国の低いLCOEを支えていると整理しています。特に2023年から2024年にかけて、中国の新規洋上風力LCOEは0.072ドル/kWhから0.056ドル/kWhへ22%低下しました。同じ期間に総設置費も37%低下したとされます。

陸上風力のタービン価格にも、供給網の差ははっきり表れています。IRENAは2024年の新規風力タービン価格について、中国国内の平均が195ドル/kW、国外平均が998ドル/kWだったと示しています。これは陸上風力の数字ですが、鋼材加工、発電機、電力変換装置、ブレード材料、量産管理の差が、洋上風力にも及ぶことを示す指標です。

欧米の洋上風力は、2022年以降のインフレ、金利上昇、サプライチェーン逼迫で採算が悪化しました。IEAは2025年版の再生可能エネルギー見通しで、米国の政策変更、欧州や日本でのコスト上昇、供給網問題が複数の入札不成立や案件中止を招き、世界の洋上風力見通しを前年から27%下方修正したと説明しています。中国だけが例外的に低コストを維持した背景には、国内の量産基盤と資金調達環境があります。

大型タービンが変える施工経済

洋上風力のコストを下げる代表的な手段は、タービンの大型化です。1基当たりの出力が上がれば、同じ発電所容量に必要な基礎、海底ケーブル、据え付け作業の数を減らせます。沖合工事は船舶日数と天候待ちがコストを押し上げるため、基数削減の効果は大きくなります。

GWECによると、2024年に設置された洋上風力タービンの平均出力は9815kWに達しました。10MW超のタービン導入が増えたことが、世界平均を押し上げています。中国メーカーはこの大型化競争を積極的に進めています。Mingyangは2024年に海南で18.X-20MW級タービンを据え付け、最大ローター径を260-292mと説明しました。CRRCも2025年1月、山東省東営で20MW級の浮体式洋上風力タービン「Qihang」を設置したと発表しています。

大型化は単なる技術誇示ではありません。20MW級タービンは、ナセルやブレードの重量が増し、港湾設備、運搬船、据え付け船、保守手順をすべて更新させます。ここで重要になるのが、造船業と海洋土木の基盤です。中国は造船・港湾インフラの厚みを持ち、洋上風力向けの施工船や重量物対応岸壁を国内で整えやすい立場にあります。

中国三峡集団の福建沖プロジェクトも、技術蓄積の節目でした。中国政府系メディアは、2023年に16MWタービンを使う洋上風力発電所が稼働し、252mのローター径や軽量化技術が高水準の製造力を示したと伝えています。こうした大型案件を国内で繰り返せることが、設計、認証、施工、保守の学習速度を高めています。

一方で、巨大化には限界もあります。タービンを大きくすれば、部材故障時の交換コストも上がります。機種更新が速すぎれば、運転保守の標準化や部品在庫が追いつきません。欧米メーカーが近年、収益性重視へ転じたのは、大型化競争で品質リスクを抱えたためでもあります。中国の低コストが持続するかは、大型機の稼働率と保守費用が長期で確認されてから評価されるべきです。

輸出拡大を阻む安全保障と系統制約

海外受注に広がる低価格の衝撃

中国メーカーの輸出は、2025年に明確な転機を迎えました。BloombergNEFは、2025年の世界の風力新設が169GWに達し、中国メーカーが世界上位10社のうち8社を占めたと発表しました。Goldwindは29.3GWで首位、Envisionは20.9GWで2位です。中国メーカーの国内依存度はなお高いものの、海外での稼働容量は前年から大きく伸びました。

S&P Globalも、2025年の中国OEMの海外確定受注が17GWを超え、前年比でおおむね倍増したと分析しています。伸びた地域は中央アジア、東南アジア、インド、中南米、中東、アフリカです。これらの市場では、電力需要の増加、燃料輸入リスク、送電網整備の遅れが同時に存在します。短い納期と低い設備価格を提示できる中国勢は、政策が明確な国で受注を広げやすい位置にあります。

洋上風力でも同じ流れが始まっています。Mingyangは2025年、フィリピンのNorthern Luzon沖で計画される2GW級浮体式洋上風力について、BuhaWind側と共同実現可能性調査の覚書を結びました。フィリピンは2026年に洋上風力専用入札を進める計画を持ち、アジアの次の成長市場と見られています。中国勢にとって、浮体式を含む新興国市場は、欧州勢の実績がまだ薄い領域です。

ただし、輸出がそのまま市場支配につながるとは限りません。発電インフラは長期の安全保障資産です。タービンの制御ソフト、遠隔監視、変電設備、海底ケーブル、保守データは、単なる機械部品以上の意味を持ちます。通信機器や港湾設備と同じく、重要インフラとして調達審査の対象になりやすい分野です。低価格であっても、欧州、米国、日本、豪州ではサイバーセキュリティやデータ管理を含む審査が強まる可能性があります。

送電網とレアアースに残る脆弱性

中国自身にも制約があります。IEAは中国の電力需要が2020年以降、GDPを上回るペースで増えていると分析しています。2024年の中国の総電力需要は1万TWhに近づき、2025-2027年も年平均6%程度の増加が見込まれます。EV、空調、データセンター、5G、太陽光や蓄電池など新エネルギー製品の製造が、電力需要を押し上げています。

そのため、再エネ容量を増やしても、送電網が追いつかなければ価値を十分に引き出せません。IEAは、中国の再エネ導入が系統拡張を上回り、東部の需要地へ効率的に送れないケースや出力抑制の増加が生じていると指摘しています。中国政府は超高圧送電網を拡張しており、2025年には新疆ハミから重慶へ2260kmを結ぶ±800kV直流送電プロジェクトが運転を始めました。風力、太陽光、太陽熱を含む1420万kWの電源を支える計画ですが、系統投資は発電設備と同じ速度で進める必要があります。

もう一つの脆弱性は、供給網の集中そのものです。IEAは、風力タービン用永久磁石に使われるレアアースについて、中国が採掘の60%、精製の90%、磁石生産の約90%を占めるとしています。中国から見れば強みですが、海外の電力会社や政府から見れば調達リスクです。洋上風力の導入がエネルギー安全保障を高める一方で、別の素材安全保障への依存を生む構図があります。

ホルムズ危機は、燃料輸入依存のリスクを可視化しました。EIAは、2024年にホルムズ海峡を通過した石油が日量2000万バレル、世界の石油液体消費の約20%に相当すると示しています。世界銀行は2026年の中東危機で、エネルギー価格が前年比24%上昇すると見込み、ホルムズの混乱が過去最大級の供給ショックを生んだと分析しました。こうした環境では、国内再エネの価値が高まります。しかし、その再エネ設備を特定国の供給網に過度に依存すれば、リスクの形が変わるだけです。

日本企業が注視すべき調達戦略の分岐点

日本にとって、中国の洋上風力の台頭は脅威であると同時に、学ぶべき産業政策の実例です。日本の洋上風力は、海域占用、漁業調整、港湾整備、送電網、施工船、価格評価のすべてで課題を抱えています。中国のような規模の国内市場はありませんが、部材、工法、保守、人材を案件ごとに分断せず、地域クラスターとして育てる発想は不可欠です。

調達では、安いタービンを買うか買わないかという単純な議論では足りません。発電事業者は、初期価格、稼働率、保守費、サイバーリスク、部品供給、保険、金融機関の評価を一体で見なければなりません。メーカーの国籍よりも、長期保守契約、データ所在、予備品在庫、ソフト更新権限、撤退時の代替部品まで確認する必要があります。

政策面では、価格だけを競わせる入札から、実現可能性、地域産業、供給網の透明性、系統接続の確度を含めた評価へ移るべきです。IEAが指摘するように、洋上風力はマクロ経済と供給網の影響を受けやすい電源です。最安価格で落札しても、金利上昇や部材不足で建設できなければ、電力安定供給にはつながりません。

中国は、巨大な国内需要を使って洋上風力の学習曲線を前倒ししました。その結果、発電コスト、製造能力、施工速度で世界に圧力をかける存在になっています。日本企業が見るべきは、中国製か国産かの二択ではなく、どの工程を国内に残し、どの工程を国際調達し、どのリスクを契約で管理するかです。洋上風力は、発電所ではなく供給網を買うビジネスになっています。

参考資料:

田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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