JERA・BP合弁が狙う洋上風力の国内産業化戦略
はじめに
日本の洋上風力発電が正念場を迎えています。2025年には、ラウンド1で3海域を落札していた三菱商事が建設費の高騰を理由に事業撤退を表明し、業界に衝撃が走りました。資材価格や人件費の上昇、円安の影響など、洋上風力を取り巻く事業環境は厳しさを増しています。
こうした逆風の中で、JERAの可児行夫会長が打ち出したのが、英石油大手BPとの合弁会社「JERA Nex bp」を軸にした洋上風力の国内産業化戦略です。可児会長は「BP合弁は最終形ではない」と語り、さらなる再編と国内での産業育成を見据えています。世界規模の調達力と欧州の知見を武器に、日本の洋上風力はどこへ向かうのでしょうか。
JERA Nex bpの全容と世界戦略
世界4位の洋上風力事業者が誕生
2024年12月にJERAと英BPが基本合意し、2025年8月に正式発足した「JERA Nex bp」は、両社が50対50で出資する合弁会社です。本社はロンドンに置かれ、CEOはJERA側から、CFOはBP側から選出されています。
注目すべきはその規模です。保有・開発中の設備容量は合計約1,300万キロワット(13GW)にのぼり、デンマークのオーステッド、ドイツのRWE、スペインのイベルドローラに次ぐ世界第4位の洋上風力事業者となりました。2030年末までの最大投資額は58億ドル(約8,800億円)が設定されています。
ベルギーParkwind買収がもたらした転機
JERA Nex bpの基盤を形づくったのが、2023年に行われたベルギーの洋上風力企業Parkwindの買収です。総額約15.5億ユーロ(約2,200億円)を投じたこの買収により、JERAは欧州での洋上風力開発・運営の知見と人材を一気に獲得しました。
Parkwindが蓄積してきた欧州での開発実績と技術者ネットワークは、日本国内のプロジェクトにも活用されています。欧州で培われた建設管理のノウハウやコスト最適化の手法を国内に導入することで、日本特有の高コスト構造に対抗する狙いがあります。
秋田沖ラウンド2の最速稼働への挑戦
男鹿・潟上・秋田市沖プロジェクトの概要
JERAが中心となって進める秋田沖ラウンド2のプロジェクトは、男鹿市・潟上市・秋田市沖に出力31.5万キロワット、21基の風車を建設する計画です。事業主体は「男鹿・潟上・秋田Offshore Green Energy合同会社」で、JERA、電源開発(J-POWER)、東北電力、伊藤忠商事の4社が参画しています。
2028年6月の運転開始を目指し、すでに陸上工事が本格化しています。2025年8月には海底地盤調査が完了し、国内CTV(作業員輸送船)の長期チャーター契約も締結済みです。秋田県との立地協定も締結され、着実に前進しています。
欧州人材とグローバル調達で建設費を抑制
洋上風力の最大の課題はコストです。三菱商事がラウンド1から撤退した背景には、建設費が当初計画から倍増したという事実があります。鋼材や銅、レアアースなどの資材価格高騰に加え、円安による輸入コストの増加、建設期間の長期化に伴う人件費の膨張が重なりました。
JERAはこの課題に対し、JERA Nex bpを通じた欧州人材の活用で対応しています。Parkwind買収で得た欧州の技術者を国内プロジェクトに投入し、ゼネコンの見積もりを精査・抑制するノウハウを持ち込んでいます。さらに、世界規模の調達ネットワークを活かして風車メーカーとの交渉力を強化し、調達コストの低減を図っています。
日本の洋上風力が直面する構造的課題
三菱商事撤退が突きつけた現実
2025年の三菱商事の撤退は、日本の洋上風力政策に根本的な再考を迫る出来事でした。公募開始の2020年11月から撤退表明までの間に、物価指数は上昇し、為替は大幅な円安に振れ、金利も上昇しました。固定された売電価格のもとでは事業の採算が取れなくなったのです。
資源エネルギー庁の資料によれば、洋上風力は発電設備の中でも特に資材使用量が多く、建設期間が長いことから、コスト変動の影響を受けやすい事業です。多くの部材を海外から調達するため、為替や国際物流コストの変動リスクも大きくなります。
制度改革の必要性
英国ではCfD(差金決済契約)の上限価格引き上げや新規資金支援制度の導入など、事業環境の改善に向けた施策が進んでいます。日本でも同様の制度改革が急務とされており、売電価格の見直しや建設費の変動に対応する仕組みの整備が求められています。
JERAの可児会長が「BP合弁は最終形でない」と語る背景には、今後の業界再編を見据えた長期戦略があります。事業環境の改善に合わせて、パートナーシップの形態やプロジェクトの規模を柔軟に変えていく構えです。
注意点・展望
JERAの戦略は野心的ですが、リスクも存在します。まず、秋田沖プロジェクトの2028年稼働という目標は、気象条件や許認可手続きの遅延により変動する可能性があります。洋上風力は陸上と比べて工事の不確実性が高く、スケジュール管理が難しい分野です。
また、浮体式洋上風力については、着床式の約2.76倍のコストがかかるとされており、将来的な深海域への展開にはさらなる技術革新とコスト低減が必要です。
一方で、JERAが目指す国内での洋上風力産業の育成は、エネルギー安全保障と地域経済の両面で大きな意義があります。部品の国産化や人材育成が進めば、長期的にはコスト競争力の向上も期待できます。政府の制度支援と民間の投資が噛み合えば、日本の洋上風力は新たな局面を迎える可能性があります。
まとめ
JERAとBPの合弁会社「JERA Nex bp」は、世界第4位の洋上風力事業者として、グローバルな調達力と欧州の技術力を日本市場に持ち込む戦略を描いています。秋田沖ラウンド2の最速稼働を目指すとともに、可児会長は今後のさらなる再編と国内産業化を見据えています。
三菱商事の撤退で浮き彫りになった高コスト構造をどう克服するか。その答えの一つが、JERAが進める国際連携と国内産業育成の両立戦略です。日本の洋上風力の行方を左右する取り組みとして、今後の展開に注目が集まります。
参考資料:
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