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JERAが進めるLNG調達多様化戦略の全貌と中東有事への備え

by 田中 健司
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はじめに

中東情勢の緊迫化により、日本のエネルギー安全保障が改めて問われています。2026年3月、ホルムズ海峡の通航リスクが現実味を帯びる中、日本最大の発電事業者であるJERAが長年にわたり構築してきたLNG調達の多様化戦略に注目が集まっています。

JERAの可児行夫会長(グローバルCEO)は「有事の勝敗は平時の備えで決まる」という信念のもと、調達先の地理的分散、価格指標の多角化、そして輸送・販売網の拡充を推し進めてきました。本記事では、JERAのエネルギー安全保障戦略の全貌と、その背景にある経営ビジョンを解説します。

中東有事が突きつけるLNG供給リスク

ホルムズ海峡の危機と日本への影響

2026年に入り、米国・イスラエルとイランの軍事的緊張が高まり、ホルムズ海峡の通航が事実上制限される事態に発展しました。ジェトロの調査によると、日本のLNG輸入量のうちホルムズ海峡依存度は約6.3%です。一見すると低い数字ですが、カタールがLNG生産を一時停止したことで、アジアのLNGスポット価格(JKM)は2月下旬の11.06ドル/mmBtuから3月上旬には24.80ドル/mmBtuへと2倍以上に急騰しました。

Bloombergの報道によれば、日本はインフレ加速のリスクに直面しており、電力・ガス料金への波及が懸念されています。短期的には国内のLNG在庫(約400万トン、年間輸入量の約1年分相当)で対応可能とされていますが、事態の長期化は日本経済に深刻な打撃を与えかねません。

JERAが備えてきた「平時の戦略」

こうした有事に対し、JERAは数年前から着実に備えを進めてきました。可児会長は東京電力出身で、入社以来LNG調達の最前線に立ってきた人物です。コロンビア大学でMBAを取得し、オーストラリアのウィートストンLNGプロジェクトにも携わるなど、国際的なエネルギー取引に精通しています。2011年の東日本大震災後には、原子力事業の分離と新会社設立を経営陣に提案し、これが後のJERA設立(2015年)につながりました。

米国産LNGの大型長期契約で調達基盤を強化

年間550万トンの新規契約

2025年6月、JERAは米国のLNG供給企業4社と年間最大550万トンの20年間にわたる長期調達契約を締結しました。契約相手はNextDecade、Commonwealth LNG、Sempra Infrastructure、そしてCheniere Marketingの4社です。

特にCheniereとの契約では、2029年から2050年まで年間約100万トンのLNGをFOB(本船渡し)条件で調達します。価格は米国のガス指標であるHenry Hub価格に連動し、固定の液化費用が加算される構造です。これにより、従来の原油連動型の価格リスクを分散できます。

FOB契約がもたらす柔軟性

すべての契約がFOB条件で締結されており、仕向地制限がありません。これはJERAにとって極めて大きな戦略的メリットです。需要の変動に応じてアジア太平洋地域内で柔軟にLNGを転売・融通でき、輸送ルートの最適化も可能になります。実際、日本はLNGの再販売比率が記録的な40%に達しており、グローバルなLNG取引ハブとしての地位を確立しつつあります。

既存の米国LNGポートフォリオ

新規契約に加え、JERAはすでにFreeport LNGとCameron LNGから年間計350万トンのLNGを調達しています。さらに2023年にはVenture GlobalのCP2プロジェクトから年間約100万トンの契約も締結済みです。米国からの調達量は合計で年間1,000万トン規模に達する見通しで、中東依存度の大幅な低減が実現します。

カタールとの27年契約で中東調達も再構築

年間300万トンの超長期契約

2026年2月、JERAはカタールエナジーと27年間にわたるLNG売買契約を締結しました。年間300万トンの供給を受け、2028年から開始される予定です。ドーハで開催されたLNG2026国際会議の場で、可児会長とカタールエナジーのアルカービCEOが署名しました。

JERAはかつてカタールから年間620万トンものLNGを調達していましたが、契約満了により年間70万トンまで減少していました。今回の新契約により、30年以上にわたる両者のパートナーシップが新たな章を迎えることになります。契約規模は年間約2,500億円と推定されています。

緊急時供給協力の覚書も締結

同日、JERA、経済産業省、カタールエナジーの三者間で緊急時供給協力に関する覚書(MOU)も締結されました。これは単なる商業契約を超え、国家レベルでのエネルギー安全保障体制を強化する取り組みです。日本の第7次エネルギー基本計画においても、天然ガスはカーボンニュートラル達成後も重要なエネルギー源と位置づけられており、長期安定調達の確保は国策とも合致しています。

洋上風力と企業価値向上への挑戦

JERA Nex bpの設立と課題

2024年12月、JERAと英石油大手BPは洋上風力発電事業を統合する合弁会社「JERA Nex bp」の設立を発表しました。出資比率は50:50で、本社はロンドンに置かれます。設備容量は約1万3,000メガワットで世界第4位の規模です。2030年末までに最大約8,700億円を投資する計画で、日本、欧州を中心に事業を展開します。

しかし、米国市場では逆風に直面しています。2025年10月、JERA Nex bpは米国での事業活動を実質的に停止する決定を下しました。マサチューセッツ沖で計画していた2.5ギガワットのBeacon Wind事業は、トランプ政権による洋上風力プロジェクトへの規制強化を受け、採算が見通せないと判断されたためです。リースは維持しつつ、より有利な環境を待つ方針です。

「2026年の壁」と上場への道筋

JERAは東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資する合弁会社ですが、2026年度に大きな転換点を迎えます。両親会社との電力売買契約が終了し、市場原理に基づく競争環境下での自立経営が求められるのです。

可児会長はIPO(新規株式公開)を「グリーントランスフォーメーション(GX)への大規模投資を実行するうえで不可欠な選択肢」と位置づけています。上場により市場から独自に資金を調達し、親会社依存から脱却した自律的なグローバル企業への変革を目指す構えです。時価総額は数兆円規模と見込まれており、日本のエネルギー業界にとっても大きなインパクトを持つ動きです。

注意点・展望

JERAの調達多様化戦略は着実に成果を上げていますが、いくつかの課題も残ります。まず、米国のLNG輸出政策はトランプ政権下で洋上風力には厳しい姿勢を見せる一方、LNG輸出促進には積極的です。この政策環境がいつ変化するかは不透明です。

また、カタールからの調達は中東リスクと切り離せません。ホルムズ海峡の通航が長期間制約される最悪のシナリオでは、カタールからの供給が途絶する可能性もあります。緊急時MOUの実効性が問われる場面が来るかもしれません。

今後の注目点は、JERAの上場時期と規模、そして「2026年の壁」後の事業モデルの変容です。LNG調達・トレーディング、再生可能エネルギー、アンモニア・水素など脱炭素技術の商業化を組み合わせた総合エネルギー企業としての真価が問われることになります。

まとめ

JERAが推進してきたLNG調達の多様化戦略は、現在の中東有事において、その先見性が証明されつつあります。米国からの年間1,000万トン規模の調達基盤、カタールとの27年間の超長期契約、FOB条件を活かした柔軟なトレーディング体制は、日本のエネルギー安全保障にとって重要な防波堤です。

可児会長が語る「有事の勝敗は平時の備えで決まる」という言葉は、エネルギー業界に限らず、リスク管理の本質を突いています。上場を見据えた経営改革と合わせ、JERAの今後の動向は日本のエネルギー戦略を占ううえで欠かせない注目ポイントです。

参考資料:

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