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中東緊迫下で問うJERA戦略日本の電力とLNG安保の再編と実像

by 田中 健司
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はじめに

2026年春の中東情勢緊迫化は、日本のエネルギー安全保障の弱点を改めて浮かび上がらせました。資源エネルギー庁は3月14日に燃料油や石油製品の供給情報受付を始め、3月下旬からは国家備蓄原油の放出にも踏み切っています。危機が深まるほど問われるのは、日本が何に依存し、どの企業がその穴埋めを担うのかという現実です。

その中心にいるのがJERAです。同社は日本最大の発電事業者であるだけでなく、LNGの調達、輸送、販売、需給最適化までを一体で担っています。本稿では、ホルムズ海峡リスクの実像、日本の脆弱性の中身、そしてJERAが進める調達再編の意味を整理します。

JERAが担う日本電力の重み

発電量3分の1という基盤

JERAは2026年2月の対外公表で、自社が日本の電力の約3分の1を生み出していると説明しています。日本の一次エネルギー供給に占める天然ガスの比率は2023年度で20.6%に達し、その57.1%は電力向けに使われています。LNG火力はなお日本の電力システムの中核にあり、その最大プレーヤーであるJERAの調達力は、停電回避の力そのものです。

しかも、再生可能エネルギーが増えるほど、天候で変動する出力を埋める調整電源の価値は高まります。JERAが同じ公表で触れたように、データセンターや半導体工場の増設も今後の電力需要を押し上げる見通しです。脱炭素を進める局面でも、LNG火力を一気に脇役にはできないという現実があります。

ホルムズ海峡と日本の脆弱性

日本の弱さは、石油とLNGで形が異なります。資源エネルギー庁によると、2023年度の原油輸入に占める中東比率は94.7%でした。石油は今も中東依存が極めて高く、情勢緊迫はすぐに燃料価格や物流コストを通じて日本経済に跳ね返ります。

一方、LNGは表面上は分散が進んでいます。2023年度の日本のLNG輸入に占める中東依存度は9.4%で、豪州比率は41.0%まで高まっています。これだけを見ると、日本は中東リスクからかなり距離を置いたように見えます。しかし、米EIAによれば、2024年には世界のLNG貿易量の約20%がホルムズ海峡を通過し、その83%はアジア向けでした。日本が中東から直接買う比率が1割前後でも、アジア市場そのものがホルムズに左右される以上、価格急騰やカーゴ争奪から自由ではありません。

S&P Globalも2026年3月、ホルムズ経由のLNGタンカー停滞が近接市場を急速に引き締めたと指摘しました。日本と韓国は比較的厚めの在庫で当面のスポット需要を抑えられる一方、混乱が長引けば価格シグナルと再配分競争が強まります。脆弱性の本質は、直接の輸入比率より、アジア市場で最後にどれだけ調達の選択肢を残せるかにあります。

中東依存の再定義とJERAの調達戦略

脱中東ではなく二重化する供給網

ここで見えてくるのが、JERAの戦略の特徴です。2026年2月、JERAはQatarEnergyと27年契約で年300万トンのLNGを2028年から受ける長期契約を結びました。さらに同日、METIとQatarEnergyとの3者で、緊急時に追加供給を協議できる枠組みも整えています。中東情勢が不安定だから中東を切るのではなく、非常時に頼れる相手として関係を深める判断です。

ただし、JERAの手はそれだけではありません。2025年6月には米国から年最大550万トンのLNGを20年契約で確保し、全量を行き先制限のないFOB条件で受ける設計にしました。2026年1月には豪州由来を含むWoodsideの冬季向け供給を追加し、3月にはフランスのDunkerque LNGで年20億立方メートル、LNG換算で約150万トンの再ガス化能力も押さえています。供給源の多角化だけでなく、契約条件、季節、受け入れ拠点まで分散している点が重要です。

この構図は、日本政府のエネルギー政策とも重なります。資源エネルギー庁は第7次エネルギー基本計画の解説で、ガス安全保障を強化する方法として「ガスを貯蔵する」「余剰LNG容量を確保する」「調達契約を柔軟に活用する」の三つを挙げました。JERAが進めるカタールの長期契約、米国の柔軟契約、欧州基地の確保は、その三要素を企業レベルで組み合わせる試みと読めます。

在庫と現場運用の実像

足元の耐久力も一定程度はあります。資源エネルギー庁によると、2026年3月1日時点で日本の電力・ガス会社は400万トン弱のLNG在庫を持ち、これはホルムズ海峡を経由して日本に届くLNG輸入量の1年分に相当します。石油でも2025年12月末時点で約8カ月分の備蓄があり、4月2日時点では約850万KLの国家備蓄原油の放出スケジュールが公表されました。政府が石油で時間を稼ぎ、事業者がLNGで在庫と追加調達を回すのが、いまの日本の危機対応です。

それでも、LNGは石油ほど国家備蓄で守りやすい資源ではありません。だからこそ、巨大な需要を束ね、長期契約、スポット調達、カーゴの振り替え、受け入れ基地の使い分けを一体で回せる事業者の価値が増します。JERAの役割は、単に大量に買うことではなく、危機時に動かせる燃料をどれだけ確保できるかにあります。調達力とは、数量だけでなく、選択肢の厚みです。

注意点・展望

誤解しやすいのは、LNGの中東依存度が石油ほど高くないなら安心だという見方です。実際には、ホルムズを通る世界のLNGの多くがアジア向けである以上、日本は直接輸入だけでなく、市場価格と船腹逼迫を通じても強く影響を受けます。もう一つの誤解は、長期契約が多ければ安全だという発想です。危機時に差がつくのは、契約数量の大きさだけでなく、FOBかDESか、スワップができるか、受け入れ能力に余力があるかといった運用の自由度です。

今後の焦点は、電力需要増と脱炭素を両立しながら、LNGをどこまで移行期の安定電源として使いこなせるかにあります。JERAの覚悟とは、中東を捨てることではなく、中東、米国、豪州、欧州をつなぐ冗長な調達網を平時から維持することです。安全保障の世界では、効率だけを追った供給網は危機に弱いという教訓が、いま改めて重みを増しています。

まとめ

中東情勢の緊迫化が示したのは、日本の弱点が単純な中東依存ではなく、アジアLNG市場全体の不安定さに組み込まれているという現実です。その中でJERAは、日本の電力の約3分の1を支える発電会社であると同時に、契約、船、基地、販売先を組み合わせて危機を吸収する調整役でもあります。

JERAの戦略は、脱中東でも全面依存でもありません。カタールとの長期契約を維持しつつ、米国の柔軟なFOB契約、豪州の季節供給、欧州の受け入れ能力を重ね、余剰と選択肢を買うことです。日本のエネルギー安全保障の砦は、単なる備蓄ではなく、こうした冗長性を平時から設計し続ける意思にあります。

参考資料:

田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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