NewsHub.JP
NewsHub.JP

JERA可児会長が語る有事対応のLNG調達網構築

by 田中 健司
URLをコピーしました

JERA可児氏のLNG有事対応戦略

中東の軍事衝突が激化し、ホルムズ海峡を通じたLNG出荷に混乱が生じる中、世界最大級のLNG調達量を誇るJERAの可児行夫グローバルCEO兼会長の手腕が問われています。JERAは年間約3,500万トンのLNGを取り扱い、うち約2,700万トンを国内で消費する日本最大のLNG輸入企業です。

可児氏は2023年4月にグローバルCEO兼会長に就任して以来、調達先の多様化と緊急時対応体制の構築を一貫して推進してきました。設立10年を迎えるJERAが、有事にいかに備え、日本のエネルギー安全保障を守ろうとしているのか、その戦略の全容を解説します。

調達先多様化の具体策

カタールとの超長期契約

2026年2月、JERAはカタールエナジーとの間で27年間・年間300万トンのLNG売買契約を締結しました。ドーハで開催されたLNG 2026国際会議の場で、可児氏自らがカタールエナジーのアルカービ社長兼CEOと調印しています。

カタールはノースフィールド拡張プロジェクトにより生産能力を大幅に増強しており、長期安定供給の確実性が高い供給元です。27年という契約期間は、短期的な市場変動に左右されない安定調達の基盤となります。

米国産LNG比率を30%へ

JERAは米国からのLNG調達を大幅に拡大しています。シェニエール・エナジーとの長期契約(2029〜2050年、年間約100万トン)に加え、追加調達も進めた結果、米国からの調達比率は従来の約10%から約30%へと引き上げられる見通しです。

米国産LNGの拡大は、中東依存度を低下させる戦略の核です。米国のシェールガス革命により安定した供給源が確保され、太平洋航路で直接日本に輸送できる地理的優位性もあります。

韓国ガス公社との連携

2026年3月14日、JERAは韓国ガス公社(KOGAS)と覚書を締結しました。日韓両国の経済産業省・産業通商資源部の大臣が立ち会う中で署名されたこの協定は、LNG船舶運航の最適化、ターミナル設備の相互活用、カーゴスワップによる調達柔軟性の向上を目指しています。

東アジアの二大LNG需要国が連携することで、緊急時の相互融通体制が構築されます。これは一社単独では実現できない、地域レベルのエネルギー安全保障の強化です。

中東リスクへの実践的対応

ホルムズ海峡の危機

現在、米国とイランの軍事衝突によりホルムズ海峡を通じたLNG出荷が混乱しています。世界のLNGの約2割がこの海峡を経由しており、封鎖が長期化すれば国際エネルギー市場に深刻な影響を及ぼします。

JERAは2026年3月時点で、少なくとも3月と4月は十分な在庫を確保していると報告しています。同時に、長期契約下にあるサプライヤーとの間で追加調達の協議を進めており、供給途絶リスクへの備えを重層的に講じています。

緊急供給の三者協力体制

カタールとの売買契約に併せて、JERAは経済産業省・カタールエナジーとの三者間で緊急時のLNG追加供給に関する覚書も締結しました。政府を巻き込んだ緊急供給体制は、「有事における勝敗は事前の備えで大半が決まる」という可児氏の信念を具現化したものです。

2026年の壁と脱炭素化の課題

「2026年の壁」と企業としての自立

JERAにとって2026年は経営上の大きな転換期です。親会社の東京電力・中部電力との長期電力販売契約が2025年度で終了し、2026年度からは市場価格での競争と独自の顧客開拓が求められます。

この「2026年の壁」を乗り越えるため、持ち株会社化や株式上場の検討も始まっています。2026年3月期の連結純利益は2,300億円と当初目標の2,000億円を上回る見通しで、財務基盤は堅調です。設立10年を機に、JERAは名実ともに独立したグローバルエネルギー企業への脱皮を図っています。

脱炭素とLNGの両立

長期のLNG契約を結ぶ一方で、世界的な脱炭素の潮流にどう対応するかは重要な課題です。天然ガスは石炭に比べてCO2排出量が少ないものの、化石燃料であることに変わりはありません。JERAは水素・アンモニアへの燃料転換技術の開発も並行して進めており、LNGを「橋渡し燃料」として位置づけながら、段階的な脱炭素化を目指しています。

カタール・米国・韓国三極調達網

JERA可児会長が推進する調達戦略は、カタール・米国・韓国という三極体制を軸に、緊急時の政府間協力まで含めた多層的なものです。中東リスクが顕在化する中で、事前の備えがいかに重要かを実証しています。

設立10年を迎え、上場も視野に入るJERAは、日本のエネルギー安全保障の最前線に立ち続けています。有事対応と脱炭素化の両立という難題に、世界最大級のLNG調達力でどう挑むか、今後の動向が注目されます。

参考資料:

田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

関連記事

原油急落で供給過剰観測、なぜガソリン安は家計に届きにくいのか

WTIは70ドル前後まで下げ、ホルムズ海峡の交通回復で供給過剰観測も浮上しています。それでも米ガソリンは1ガロン3.878ドルと前年を上回る水準。原油安が小売価格に届くまでの時間差、精製・物流・税の構造、在庫再構築の重さ、日本が警戒すべき中東リスクと今後の指標を、EIAやIEAの最新データから解説します。

最新ニュース

EV失速論を覆す低価格車競争、世界再編で問われる日本勢の勝機

IEAは2025年の世界EV販売が2000万台を超え、4台に1台が電動車だったと報告しました。米国の税額控除終了だけで「失速」と見るのは危うい状況です。中国、欧州、東南アジアで進む低価格EV競争と、電池コストや現地生産の差、ハイブリッドで稼ぐ日本勢が急ぐべき開発・調達戦略と収益力への影響を読み解く。

秋田巨大AIデータセンター構想、再エネとUAE資金の地方現実解

秋田市のAIデータセンター構想は、300〜500MW級の電力需要と50ヘクタール用地を前提に、UAE系資金や国内投融資を呼び込む地域産業戦略です。再エネ工業団地、GPU液冷化、国の地方分散政策を重ね、建設費2兆円規模とされる大型計画が秋田の風力資源を競争力へ変え、地域雇用と新産業を生む条件を読み解く。

消費税減税「実質ゼロ」案の財源と家計・外食・地方財政影響を総点検

飲食料品の消費税を1%に下げ、1%分を所得連動給付で補う「実質ゼロ」案が動き出した。年5兆円級の財源、地方税収1.6兆円減、家計への年8.8万円軽減、外食・テイクアウトの税率差、レジ改修、給付付き税額控除の実務まで、物価高対策としての限界と自治体予算や中小店に残す負担を含め、制度設計の成否を読み解く。

CSRD域外基準案、日本企業に迫る開示統治とサプライチェーン改革

EUのCSRD域外基準案ESRS-40aは、日本企業を含む約1200社に2029年からサステナビリティ報告を迫る。適用条件、影響重視の開示、SSBJとの重複、ISSB報告の参照可能性、取締役会が備えるべき統制課題を詳しく整理。保証、子会社免除、法務部門とサプライチェーンデータまで実務リスクを読み解く。

中国製ルーターのバックドア疑惑、世界10万台に広がる供給網リスク

VulnCheckが中国Zbtlink製ルーターの遠隔操作機能を指摘し、同社は対象機種の販売とファームウェア配布を停止した。20機種超、世界10万台規模とされる疑惑は、家庭用機器の問題にとどまらず、米中安保、OEM供給網、企業調達を揺さぶる。日本企業が今すぐ点検すべき検知と防衛の具体策まで読み解く。