JERA秋田沖洋上風力に巨額投資、逆風下の勝算
三菱商事撤退後のJERA秋田沖投資
日本の洋上風力発電市場が大きな転換期を迎えています。2025年8月に三菱商事が第1ラウンドの3海域から撤退を表明し、業界全体に衝撃が走りました。コスト高騰による採算悪化が主因であり、「洋上風力は本当にビジネスとして成り立つのか」という疑問が業界関係者の間で広がっています。
そうした逆風のなかで、JERAが秋田県沖の洋上風力プロジェクトへの大規模投資を取締役会で正式に決議しました。ラウンド2の最速稼働を目指すこの決断は、日本の洋上風力市場の将来を左右する重要な転機となる可能性があります。本記事では、JERAがなぜこのタイミングで巨額投資に踏み切ったのか、その背景と戦略を解説します。
三菱商事撤退が残した衝撃と市場の混乱
ラウンド1の挫折
三菱商事は2021年12月、洋上風力第1ラウンドで秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖の3海域を落札しました。当時は「価格破壊」とも評された低価格での入札が話題となりましたが、その後の事業環境の激変が計画を根底から覆すことになります。
新型コロナウイルスの世界的流行やウクライナ危機を契機として、サプライチェーンのひっ迫、インフレ、為替変動、金利上昇が相次ぎました。建設費全体は入札時から約2割上昇し、コスト全体の約2割を占める風力タービンの価格は倍増したとされています。最終的に建設費は当初見込みの2倍以上に膨らみ、2025年8月に三菱商事は3海域すべてからの撤退を正式に表明しました。
業界に広がった動揺
三菱商事の撤退は、日本の洋上風力発電の推進政策そのものへの信頼を揺るがす事態でした。経済産業省をはじめとする関係省庁にも大きな衝撃を与え、制度設計の見直しを求める声が高まりました。他のラウンド2事業者にも「撤退ドミノ」が起きるのではないかという懸念が広がり、市場は不透明感に包まれたのです。
JERAの秋田沖プロジェクトの全貌
ラウンド2での落札と事業体制
JERAは2023年12月、洋上風力第2ラウンドの公募で秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖の海域を落札しました。事業主体は「男鹿・潟上・秋田Offshore Green Energy合同会社」で、JERA、電源開発(J-POWER)、伊藤忠商事、東北電力の4社がコンソーシアムを組んでいます。
発電容量は31.5万キロワット(1.5万キロワット×21基)で、デンマークのヴェスタス社製の大型風力タービンを採用します。2028年6月の運転開始を目指しており、ラウンド2の中で最速の稼働スケジュールとなっています。
コスト5割増でも前進する覚悟
プロジェクトの投資額は当初見込みから約5割増加したと報じられています。資材価格や人件費の高騰、円安の影響が重なり、事業環境は入札時と大きく変化しました。しかしJERAはこの状況下でも事業を推進する方針を固め、取締役会での承認を取り付けました。
風車の早期発注もJERAの戦略の要です。ヴェスタス社との契約を早期に確定させることで、さらなる価格上昇リスクを回避し、確実な工期の確保を図っています。秋田港を建設・撤去作業の拠点港とし、男鹿市の船川港をメンテナンス港として活用する計画で、陸上の送電・変電工事はすでに本格化しています。
JERAが強気を貫ける3つの理由
グローバル洋上風力のトッププレイヤーとしての知見
JERAの最大の強みは、グローバルな洋上風力事業で蓄積した実績と知見です。2024年12月、JERAは英国の石油大手bpと洋上風力事業を統合し、合弁会社「JERA Nex bp」を設立しました。約58億ドルの出資規模で、開発中を含む発電容量は約1,300万キロワットに達し、世界第4位の洋上風力事業者となっています。
JERAは2019年に英国や台湾のプロジェクトへの投資で洋上風力市場に参入し、台湾では「フォルモサ1」(12.8万キロワット)と「フォルモサ2」の2つのプロジェクトに出資しています。さらに2023年にはベルギーの洋上風力企業パークウインドを買収し、欧州での事業基盤も確立しました。この豊富な海外経験が、国内プロジェクトのコスト管理やリスク低減に活かされています。
先行者利益の獲得戦略
JERAが秋田沖プロジェクトを急ぐ背景には、明確な先行者利益の獲得戦略があります。日本の洋上風力市場はまだ黎明期にあり、建設・運営のノウハウを持つ事業者は限られています。最速で商業運転を開始することで、施工技術やサプライチェーン管理の実績を積み、今後の入札で圧倒的な優位に立つ狙いです。
実際にJERAは2024年12月、青森県日本海側南側の海域でも61.5万キロワットの洋上風力プロジェクトを落札しており、秋田の実績を次の案件に直結させる構えです。「三菱商事とは違う」という言葉の裏には、一度の失敗で撤退するのではなく、長期的な市場支配を見据えた経営判断があるといえます。
電力会社としての事業シナジー
JERAは東京電力と中部電力が折半出資する国内最大の発電事業者です。洋上風力で発電した電力を自社の電力ポートフォリオに組み込める点は、純粋な投資ファンドや商社にはない強みです。再生可能エネルギーの拡大は脱炭素経営の観点からも不可欠であり、洋上風力は石炭・LNG火力からの移行を進めるJERAの中長期戦略の中核に位置づけられています。
海外調達リスクと2034年市場拡大
残るリスク要因
JERAの強気な姿勢にも、注視すべきリスクは残っています。第一に、日本には大型洋上風力タービンの国内メーカーが存在しないため、機材調達は海外メーカーに依存せざるを得ません。為替変動や国際的なサプライチェーンの混乱が再び起きれば、コストがさらに膨らむ可能性があります。
第二に、プロジェクトファイナンスの条件です。JERAが率いるコンソーシアムは2026年中の融資実行(フィナンシャルクローズ)を目指して銀行団と交渉を進めていますが、金利環境や市場リスクの評価次第では条件が厳しくなることも考えられます。
日本の洋上風力市場の今後
日本の洋上風力発電市場は2025年時点で約24億ドル規模とされ、2034年には104億ドルに達するとの予測もあります。2026年1月には長崎県五島市沖で国内初の浮体式洋上風力発電の商用稼働が開始されるなど、着床式に加えて浮体式の実用化も進んでいます。政府は2030年までに1,000万キロワット、2040年までに3,000〜4,500万キロワットの洋上風力導入を目標に掲げており、市場の成長余地は大きいといえます。
JERAの秋田沖プロジェクトの成否は、この市場全体の方向性を決定づける試金石となるでしょう。
2028年稼働へ進むJERAの先行者戦略
三菱商事の撤退で揺れる日本の洋上風力市場において、JERAは秋田沖プロジェクトへの巨額投資を決断しました。コスト5割増という厳しい環境下でも前進を選んだ背景には、bp との合弁による世界トップクラスの事業基盤、先行者利益の獲得による長期的な競争優位の確立、そして電力会社としての事業シナジーがあります。
2028年6月の運転開始に向けて陸上工事はすでに始まっており、風車の早期発注も決定しています。日本の洋上風力市場が本格的な成長軌道に乗れるかどうかは、JERAのこの挑戦の行方にかかっているといっても過言ではありません。エネルギー転換の最前線で展開される「背水の陣」の結末に、引き続き注目が集まります。
参考資料:
- bp and JERA joining forces to create top-tier global offshore wind joint venture
- Akita Offshore Wind Build Progresses as JERA Defies Cost Pressures
- 三菱商事 国内洋上風力発電事業に係る事業性再評価の結果について
- 洋上風力第2ラウンド 秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖 陸上工事が本格化
- 2025年、日本の洋上風力発電~今どうなってる?これからどうなる?~(資源エネルギー庁)
- Japan’s offshore wind sector: Down but not out(IEEFA)
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