JERA全方位戦略で問う火力と再エネ両立の現実解と選択肢とは
JERA全方位戦略が必要な日本の電力事情
日本最大の発電会社JERAが、LNG、再生可能エネルギー、水素・アンモニア、CCSを同時に進める「全方位」戦略を取っているのは、一見すると焦点のぼやけた経営にも見えます。脱炭素を急ぐなら再エネに集中すべきだという声もありますし、安定供給を優先するなら既存火力を磨くほうが合理的だという意見もあります。
それでもJERAが両方を捨てないのは、日本の電力事情が単純な一本足打法を許さないからです。再エネは拡大必須ですが、出力変動があります。火力は安定供給に強い一方、脱炭素への対応が不可欠です。しかも日本ではデータセンターや半導体工場の増設で電力需要が増加方向にあります。この記事では、JERAの全方位戦略がなぜ必要とされるのか、何が強みで何が弱点なのかを公開情報から整理します。
なぜJERAは火力も再エネも捨てないのか
背景にあるのはエネルギーの三重課題です
JERAは2024年に公表した2035成長戦略で、LNG、再エネ、水素・アンモニアを三つの柱に据え、2035年までに計5兆円を投資すると打ち出しました。狙いは、サステナビリティ、安定供給、手頃な価格の三つを同時に追う「エネルギートリレンマ」への対応です。可児行夫会長も同戦略の発表で、変動する世界情勢のなかで脱炭素と供給安定を両立する現実的な経路を強調しています。
この発想は、日本の需給構造を見れば理解しやすくなります。OCCTOの2026年度見通しでは、日本の電力需要は今後10年で5.3%増える見通しで、主因はデータセンターと半導体工場です。再エネを増やすだけでは、天候次第で出力が大きく変わる時間帯の調整力が足りません。原子力は再稼働の進展に時間がかかり、蓄電池や送電網もまだ十分ではありません。こうした条件下では、火力を急に捨てるより、低炭素化しながら使い方を変えるほうが現実的になります。
JERAの戦略を「全方位」と呼ぶと優柔不断に聞こえますが、実際には選択肢を残す戦略です。筆者の見立てでは、次世代に経営の選択肢を残すとは、技術や政策の勝者がまだ確定していない段階で、再エネ偏重にも化石燃料依存にも賭け切らないことを意味します。LNG価格、炭素価格、水素・アンモニアのコスト、送電網整備、原発再稼働の進捗が読みにくい以上、複数の経路を持つこと自体が経営資産になります。
再エネ拡大だけでは埋まらない調整力の空白
JERAは2035年に再エネ20GWの保有・開発を目指しています。洋上風力、陸上風力、太陽光を組み合わせ、英国を中核にグローバル展開を広げる方針です。これは脱炭素の主戦場として妥当ですが、JERA自身も、再エネだけでは必要な時に必要な量を出せないと説明しています。出力変動に対処するためには、調整力を持つ火力や蓄電池、燃料調達網が必要です。
その意味でLNG事業を維持する判断も重要です。JERAは2035年に3500万トン超のLNG取扱量を目標に掲げています。LNGは石炭より排出が少なく、出力調整にも使いやすいため、再エネの変動を吸収する橋渡し電源として機能します。脱炭素を進めるほど、実は柔軟な火力の価値が高まる局面があるのです。
アンモニア混焼は象徴だが、それだけで答えにはならない
JERAがアンモニアにこだわる理由
JERAの全方位戦略で最も注目されるのが、碧南火力発電所でのアンモニア混焼です。2024年の実証では、大規模商用石炭火力で世界初となる20%アンモニア混焼を実施し、定格出力1GWでNOx増加を抑えつつ稼働できることを確認しました。JERAはその後、商用化へ向けた設備建設を進め、2029年度に20%混焼の商用運転開始を目指しています。
さらに同社は、米ルイジアナ州のBlue Point計画で年産約140万トンの低炭素アンモニア製造に参画し、日本政府の価格差支援制度でも認定を受けました。生産、輸送、受け入れ、発電までをつなぐサプライチェーンを一社で束ねようとしている点が特徴です。JERAにとってアンモニアは、単なる燃料実験ではなく、火力の脱炭素化と新しい事業収益を同時に狙う中核テーマなのです。
ただしコストと排出削減効果には厳しい論点がある
一方で、アンモニア混焼にははっきりした限界もあります。IEAは2025年、低炭素水素は依然として化石燃料由来より高コストで、需要の立ち上がりも遅いと指摘しました。Reutersも2026年1月、JERA幹部の発言として、水素、アンモニア、再エネの投資環境が停滞していると報じています。燃料コスト、補助金依存、供給網整備の難しさは、まだ解消されていません。
加えて、気候ネットワークなどの批判的分析では、20%混焼ではライフサイクル全体の排出削減が限定的で、コスト負担が大きいという問題が指摘されています。ここは冷静にみる必要があります。アンモニア混焼は、既存火力を直ちにゼロエミッション化する魔法ではありません。あくまで、火力を使わざるを得ない期間に排出強度を下げる過渡的な技術として見るほうが実態に近いでしょう。
5兆円投資を左右する再エネ20GWと商業性
JERAの全方位戦略を評価する際に重要なのは、「何に投資しているか」だけでなく、「どこまで柔軟に組み替えられるか」です。JERAは5兆円投資の配分を固定せず、市場環境や技術進展に応じて三本柱の間で調整するとしています。これは裏を返せば、同社自身も将来の勝ち筋を一つに決め打ちしていないということです。
今後の焦点は三つあります。第一に、再エネ20GWへの拡大が計画通り進むかです。第二に、アンモニアやCCSが補助金頼みではなく商業性を持てるかです。第三に、需要増のなかでLNG火力をどこまで低炭素電源へ置き換えられるかです。もし再エネと送電網の整備が想定以上に進めば、アンモニア混焼の役割は縮むかもしれません。逆に系統制約や需給逼迫が続けば、火力の延命ではなく「低炭素化して使い切る」現実路線が強まる可能性があります。
JERAの選択肢を競争力に変える成功条件
JERAの全方位戦略は、脱炭素への迷いというより、不確実性への対応として理解したほうが実態に近いです。再エネは主役ですが、足元の日本ではそれだけで安定供給を支えるのは難しい。だからこそJERAは、LNG、再エネ、水素・アンモニア、CCSを組み合わせ、将来の技術・政策・価格変動に備えています。
ただし、その戦略が成功する条件は明確です。再エネを本当に伸ばすこと、火力の低炭素化コストを下げること、そして補助金依存の実証から商業段階へ進むことです。読者として注目すべきなのは、アンモニア混焼の話題性そのものではなく、JERAがどこまで「次世代に残す選択肢」を実際の競争力に変えられるかです。
参考資料:
- JERA Unveils 2035 Growth Strategy Leading Decarbonization as a Responsible Energy Solutions Provider | JERA
- JERA Growth Strategy | JERA
- Zero-Emissions Thermal Power | JERA
- Conclusion of Fuel Ammonia Substitution Demonstration Testing at Hekinan Thermal Power Station | JERA
- JERA Makes Final Investment Decision on “Blue Point” Low-Carbon Ammonia Production Project in the United States | JERA
- JERA Certified as a Low-Carbon Hydrogen and Derivatives Supplier under Japan’s Price-Gap Support Scheme | JERA
- Executive summary – Global Hydrogen Review 2025 | IEA
- JERA on track for 20% ammonia co-firing at Hekinan power plant | Hydrocarbon Processing
- Japan forecasts 5.3% rise in electricity demand over next decade | Investing.com
- Problems with Ammonia Co-Firing in Coal Power Generation in Japan | 気候ネットワーク
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