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JERA奥田社長が示す脱炭素と安定供給の現実解

by 鈴木 麻衣子
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はじめに

「世界の脱炭素化は止まらない」。JERA奥田久栄社長CEO兼COOは、2026年の年頭にこう明言しました。米国がガスシフトに舵を切る一方で、中国は再生可能エネルギーへの大規模投資を続けています。各国のアプローチは異なりますが、脱炭素の大きな潮流は不可逆的だと奥田氏は捉えています。

では、資源に乏しい日本はどのようなエネルギーの組み合わせで安全保障と脱炭素を両立させるべきなのか。世界最大級の発電会社JERAが挑む「現実解」を解説します。

アンモニア混焼という世界初の挑戦

碧南火力発電所での実証

JERAの脱炭素戦略の核心にあるのが、石炭火力発電におけるアンモニア混焼技術です。愛知県碧南市にある碧南火力発電所(総出力410万キロワット)では、世界初となる大規模アンモニア混焼の実証試験が進められています。

2026年3月までに、石炭使用量の20%をアンモニアに置き換える混焼試験が実施される計画です。アンモニアは燃焼時にCO2を排出しないため、20%混焼でも石炭由来のCO2排出を同比率で削減できます。この技術が確立されれば、既存の火力発電インフラを活かしながら段階的に脱炭素化を進めることが可能です。

段階的な燃料転換ロードマップ

JERAのロードマップは明確です。2030年までに亜臨界圧以下の石炭火力を全て閉鎖し、残る超々臨界圧石炭火力についてアンモニア混焼の実用化を進めます。2035年には混焼率50%以上を達成し、2040年代には100%アンモニア専焼への転換を目指しています。

この段階的アプローチこそが奥田氏の言う「現実解」です。再生可能エネルギーだけでは電力の安定供給は難しく、原子力も社会的合意の課題を抱えています。火力発電の燃料を転換することで、安定供給と脱炭素を同時に追求するという戦略です。

水素・アンモニアバリューチェーンの構築

5兆円の投資計画

JERAは2024年に発表した2035年成長戦略で、LNG・再生可能エネルギー・水素アンモニアの3事業を柱に、総額約5兆円のキャッシュフロー投資を計画しています。各柱に1〜2兆円を配分し、水素・アンモニアの取扱量として年間約700万トンを目標に掲げました。

水素・アンモニア分野はJERAが世界に先駆けて開拓してきた領域です。調達から発電利用まで一貫した国内初のバリューチェーンを2029年度までに完成させる計画で、日本の脱炭素インフラの基盤構築を担います。

グローバルな生産拠点

アンモニアの調達も多角化が進んでいます。米国ルイジアナ州では、CFインダストリーズおよび三井物産との合弁で低炭素アンモニア生産施設「ブルーポイント」への最終投資決定(FID)を行いました。インドでは再生可能エネルギー大手ReNewと共同で、年間約10万トンのグリーンアンモニア生産プロジェクトを推進しています。

2025年12月には、日本の価格差支援制度における低炭素水素・同誘導体のサプライヤーとして認定を受けました。政府の支援制度と連動した事業展開は、水素社会の実現に向けた重要な一歩です。

米中の脱炭素政策と日本の立ち位置

異なるアプローチ、共通する方向性

米国は天然ガスへのシフトを加速させ、シェールガス革命の恩恵を活かしたエネルギー政策を展開しています。一方、中国は2030年までのCO2排出ピークアウトと2060年のカーボンニュートラル達成を目標に、太陽光・風力発電への大規模投資を続けています。

日本は両国とは異なる制約を抱えています。国土が狭く再エネの適地が限られ、資源の自給率も極めて低い状況です。だからこそ、LNG・再エネ・水素アンモニアを組み合わせた多面的なエネルギーミックスが不可欠であり、JERAの戦略は日本の国情に即した現実的な解を提示しています。

産業への波及効果

JERAのアンモニア利用は発電にとどまりません。製造業や海運業など、電化が困難な産業分野への低炭素燃料供給も視野に入れています。特に中部地域では、産業集積地における脱炭素化を官民連携で推進するGXパートナーシップの取り組みが始まっています。

注意点・展望

アンモニア混焼技術はまだ実証段階であり、コスト面では課題が残ります。アンモニアの調達価格は石炭やLNGより高く、混焼率が上がるほどコスト増が見込まれます。これを消費者負担でまかなうのか、政府の支援制度で補うのかは、今後の政策議論の焦点です。

日本では2026年度からCO2排出量取引制度が本格稼働する予定であり、炭素に価格がつくことでアンモニア・水素の経済性が相対的に改善される可能性があります。脱炭素技術と政策環境の両面で、今後数年が勝負の時期です。

まとめ

JERA奥田社長が示す「脱炭素の現実解」は、世界初のアンモニア混焼実証から5兆円規模の投資計画、グローバルな生産拠点構築まで、包括的な戦略に裏打ちされています。米中がそれぞれ異なる道を進む中で、日本独自のエネルギーミックスを具現化するJERAの取り組みは、産業政策としても注目に値します。

世界の脱炭素化が止まらない以上、日本もその流れの中で最適解を見つけなければなりません。JERAの挑戦は、日本のエネルギーの未来を占う最前線です。

参考資料:

鈴木 麻衣子

企業経営・コーポレートガバナンス

企業経営・コーポレートガバナンスを専門に取材。経営戦略の成功事例から不正会計の構造的問題まで、企業の「あり方」を鋭く問う。

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