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レアアース攻防で読む日米中対立と日本の重要資源供給網防衛戦略

by 田中 健司
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はじめに

レアアースを巡る緊張は、単なる資源価格の話ではありません。2025年4月4日に中国商務省が7種類のレアアース関連品目を輸出管理の対象に加え、2026年1月には日本向けの両用品目輸出管理も強化されました。これにより、企業が直面するリスクは「高値で買う」段階から、「必要な時に届くか分からない」段階へ移っています。

重要なのは、レアアースの問題が採掘量だけで決まらないことです。分離・精製、合金化、磁石化までの工程が中国に偏っているため、輸出規制は数量の不足だけでなく、認可の遅れや審査強化という形でも効きます。この記事では、中国規制の実像、米中・日中対立との接点、日本の供給網防衛策を公開情報に基づいて整理します。

供給リスクの正体

7元素規制とボトルネックの所在

レアアースは17元素の総称ですが、全てが同じ重要度ではありません。2025年4月4日の中国商務省公告18号は、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの関連品目を輸出管理対象に追加しました。特にテルビウムやジスプロシウムは高温環境でも磁力を保つ高性能磁石に使われ、EVモーター、風力発電、軍需用途で重要度が高い素材です。

ここで見落としやすいのが、支配力の中身です。IEAは2023年時点で、中国がレアアース採掘の約60%、精製の91%、磁石生産の94%を担っていると整理しています。さらに上位3カ国の精製シェアは98%に達します。つまり、鉱山が中国の外にあっても、分離や磁石製造が中国を通る限り、供給網全体の交渉力は中国側に残ります。レアアース・リスクは「鉱石不足」より「工程集中」のリスクとして見る方が実態に近いです。

需要拡大と地政学の重なり

需給をさらに難しくしているのは、需要の伸びです。IEAの2025年見通しでは、クリーンエネルギー分野のレアアース需要は2023年の16キロトンから2030年に46キロトンへ増える見通しです。電動車、風力、データセンター向け冷却・電源設備、防衛用途が同じ供給網を奪い合う構図が強まっています。

その上で、米中対立は中国の輸出管理を制度化する方向へ進めています。米国地質調査所の2026年版レポートによると、中国は2025年10月に一部の中・重レアアース関連品目や技術・設備にも規制を拡大しました。その後、同年11月に一部措置を1年間停止し、一般許可の発給も始めていますが、4月の規制は維持されました。ここから分かるのは、中国が全面停止ではなく、相手国や用途に応じて圧力を細かく調整できる段階に入ったことです。

日本の対応策と限界

在庫確保と調達先分散の積み上げ

日本は2010年の対中摩擦以降、レアアースを短期ショックに備える対象として扱ってきました。JOGMECによる国家備蓄制度は1983年に始まり、現在も短期の供給途絶に備える仕組みとして維持されています。これは危機時の緩衝材として重要ですが、数年単位の構造転換を代替するものではありません。

そのため、日本は長期契約と非中国ソースの育成も並行して進めています。象徴的なのが2011年のJOGMEC・双日と豪Lynasの契約で、総額2億5000万ドルの融資・出資と引き換えに、年8500トンの供給枠を確保しました。当時のJOGMECは、これが日本市場の約30%に相当すると説明しています。さらに2025年3月には、経産省が仏Caremagの重レアアース分離・磁石プロジェクトへの支援を決定し、日本の将来需要の一部を欧州で賄う構想を打ち出しました。2026年3月の日米重要鉱物協力でも、ナミビアのLofdal鉱床や米ReElementによる分離・リサイクル案件が支援対象に入り、友好国圏での供給網形成が鮮明になっています。

日本向け規制強化と残る脆弱性

ただし、代替調達は進んでも脱中国は簡単ではありません。ジェトロは2026年3月のレポートで、2025年4月の7種レアアース規制以降、多くの日本企業が輸出許可申請への対応に追われたと指摘しました。さらに2026年1月6日には、日本向けの両用品目輸出管理強化が即日施行され、磁石や関連部材の手続き負担が一段と増しました。供給リスクは禁輸だけでなく、審査の長期化、最終用途確認、通関遅延として表れます。

日本は協力先も増やしています。2025年2月の日韓ハイレベル経済対話では、備蓄、共同生産、オフテイク契約を含む重要鉱物協力が議題に上りました。JAMSTECも2026年2月、南鳥島周辺の水深約5500メートルからレアアース泥を回収したと公表しました。ただし、海底資源は技術実証から商業化まで長い時間が必要です。足元の供給不安をすぐ解消する切り札とは言えません。

注意点・展望

このテーマで避けたい誤解は、輸出管理と供給断絶を同一視することです。中国は規制を「全面停止」ではなく「選別的な許可制」として運用しており、企業側には価格上昇より先に事務負担と納期不確実性がのしかかります。レアアースそのもの、酸化物、金属、磁石、製造装置ではリスクの出方が異なるため、同じ言葉で一括りにしないことが重要です。

今後の焦点は3つあります。1つ目は、日本企業が数カ月単位の在庫管理と長期オフテイク契約をどう組み合わせるかです。2つ目は、分離・精製や磁石リサイクルといった中流工程を友好国圏で採算に乗せられるかです。3つ目は、米国、豪州、欧州、韓国との連携を単発支援で終わらせず、継続購買と価格保証まで設計できるかです。レアアース問題は、資源争奪戦というより、供給網を平時から維持する覚悟の問題になっています。

まとめ

レアアース・リスクの本質は、中国が鉱山を多く持つこと以上に、精製と磁石の要所を押さえていることにあります。2025年4月4日の7元素規制と2026年1月の日本向け管理強化は、その支配力を地政学の道具として使えることを改めて示しました。米中対立が激しくなるほど、日本企業にとっての不確実性は高まりやすくなります。

日本は備蓄、Lynas、Caremag、日米協力、海底資源調査と手を打っていますが、短期で中国依存を置き換える段階にはありません。重要なのは、禁輸の有無だけを見るのではなく、許認可、精製能力、磁石製造まで含めた供給網全体を監視することです。レアアースは、先端製品の部材というより、経済安全保障の実力を測る試金石になっています。

参考資料:

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