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レアアース6事業優先指定、日豪重要鉱物協力と供給網再編の焦点

by 中村 壮志
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日豪6事業優先指定と重要鉱物安保

レアアースやニッケル、ガリウムなどの重要鉱物をめぐり、日本とオーストラリアの協力が新しい段階に入っています。焦点は、鉱山や精製設備を単なる民間投資案件ではなく、両政府が経済安全保障上の優先事業として位置づける点です。

日本にとって重要鉱物は、自動車、半導体、防衛装備、再生可能エネルギーの土台です。供給が止まれば、完成品の輸出競争力だけでなく、同盟国との防衛・技術協力にも影響します。一方の豪州は、豊富な資源を持ちながら、下流の精製・加工や長期需要の確保で同盟国の資金と市場を必要としています。

この記事では、日豪の重要鉱物協力がなぜ6事業の優先指定に向かうのかを、公開資料で確認できる個別案件と国際的な供給網リスクから読み解きます。焦点は、許認可、政府金融、販売先、精製能力を束ねた資源安全保障の設計です。

優先指定が変える日豪資源協力

政治合意から案件管理への転換

日豪の重要鉱物協力は、突然出てきた構想ではありません。2022年10月、経済産業省と豪州の産業科学資源省・外務貿易省は「重要鉱物に関するパートナーシップ」を締結しました。この枠組みは、日豪間で安全な重要鉱物サプライチェーンを構築し、投資や商業的取り決めを促すことを目的としています。

当時の合意は、研究開発、情報共有、共同投融資、環境・社会・ガバナンス基準での協力を広く掲げるものでした。重要だったのは、許認可手続きの迅速化や企業間の連携促進も協力項目に入っていたことです。つまり、今回の優先指定は、2022年の抽象的な枠組みを、具体的な鉱山・精製・回収プロジェクトに落とし込む動きとみるべきです。

資源開発は、探鉱から生産までに長い時間がかかります。鉱量があっても、環境影響評価、先住民コミュニティとの協議、インフラ整備、価格変動、買い手の確保がそろわなければ、事業化には進めません。政府が優先事業として扱う意味は、鉱山を「国策で無理に掘る」ことではなく、複数の行政窓口や金融支援を束ね、民間投資が判断しやすい状態をつくることにあります。

豪州側にも明確な狙いがあります。豪州政府の「重要鉱物戦略2023-2030」は、2030年までに同国を原料だけでなく加工済み重要鉱物の有力供給国にする目標を掲げています。そこでは、戦略的に重要な案件への支援、同盟国からの投資誘致、下流加工能力の育成、ESG基準の強化が柱です。日本は、豪州にとって長期の買い手であり、技術・資金・商社ネットワークを持つ相手でもあります。

中国依存を前提にした供給網設計

重要鉱物問題の本質は、埋蔵量だけではありません。採掘、分離、精製、金属化、磁石や電池材料への加工という工程のどこが集中しているかが、安全保障上の弱点になります。国際エネルギー機関(IEA)は、2024年時点で主要エネルギー鉱物の需要が強く伸び、リチウム需要は約30%増、ニッケル、コバルト、黒鉛、レアアース需要も6〜8%増えたと分析しています。

同時に、価格は下落しました。リチウム価格は2023年以降で8割超下がり、黒鉛、コバルト、ニッケルも2024年に10〜20%下落しました。需要が伸びているのに価格が弱いという状況は、民間企業にとって投資判断を難しくします。ここに政府支援が入る理由があります。市場価格だけに任せると、将来必要な供給網が整う前に、有望な案件が資金難で止まるためです。

IEAは、精製工程の集中も警告しています。2024年には主要鉱物の上位3精製国の平均シェアが86%に達しました。2035年時点でも、中国は精製リチウムとコバルトの6割超、電池用黒鉛と磁石用レアアースの約8割を供給する見通しです。最大供給国を除いた場合、2035年の黒鉛とレアアースの供給は需要の35〜40%しか満たさず、ニッケルも55%未満にとどまるという試算も示されています。

この数字が示すのは、世界全体では資源が足りそうに見えても、地政学的な分断や輸出管理が入ると一気に不足するという現実です。日本企業が求めているのは、単年度のスポット調達ではなく、政治リスクの低い国から長期にわたり確保できる供給線です。豪州案件の優先指定は、その供給線を「見える形」にする試みです。

6事業の輪郭と日本企業の役割

レアアースで先行する双日・JOGMEC連合

公開資料で最も進捗が確認しやすいのは、双日とJOGMECが関わるレアアース供給網です。双日は2025年10月、豪州Lynas Rare Earthsが西豪州マウント・ウェルド鉱山で採掘し、マレーシアで分離・精製した重希土類について、日本向け輸入を始めたと発表しました。豪州由来の鉱石から得た重希土類としては、初の輸入事例とされています。

この案件の意義は、ジスプロシウムとテルビウムにあります。どちらもネオジム磁石の耐熱性や性能を高めるために使われ、EVモーター、産業ロボット、防衛装備、風力発電機に欠かせません。双日とJOGMECは2023年、日豪レアアース株式会社(JARE)を通じてLynasに2億豪ドル相当を追加出資し、マウント・ウェルド由来のジスプロシウムとテルビウムの最大65%を日本向けに供給する契約を結びました。

さらに2026年3月には、JAREとLynasの長期供給契約が更新され、Lynasが生産する中重希土類の最大75%が日本向けに供給されることになりました。対象品目も、ジスプロシウムとテルビウムに加え、サマリウム、イットリウム、ルテチウム、ガドリニウムへ広がります。これは、レアアースの「量」だけでなく、用途別に必要な元素を細かく押さえる段階に入ったことを意味します。

このレアアース協力は、日豪の資源安保で象徴的です。日本は2010年代からレアアースの中国依存を減らしてきましたが、重希土類の分離・精製ではなお脆弱性が残ります。豪州の鉱山、マレーシアの分離、JOGMECの公的支援、双日の販売網を組み合わせることで、中国外の商業規模供給を育てる狙いがあります。

ニッケルとガリウムに広がる安全保障案件

ニッケルでは、住友金属鉱山と三菱商事が参画する西豪州のKalgoorlie Nickel Project - Goongarrie Hubが重要です。三菱商事の発表によると、両社はArdea Resourcesと合意し、確定的実行可能性調査(DFS)に最大9,850万豪ドルを拠出します。事業化に向けて段階的に権益を取得し、最終的にKalgoorlie Nickel Pty Ltdの50%持分を得る枠組みです。

このプロジェクトは、年間約3万トンのニッケルと約2,000トンのコバルト相当の中間製品を40年以上にわたり生産する構想です。ニッケルは電池材料だけでなく、ステンレスや特殊鋼にも使われます。日本企業にとっては、EV需要の伸びだけでなく、インドネシアに集中しつつあるニッケル供給への対応という意味もあります。

Ardeaの資料では、同プロジェクトは豪州最大級のニッケル・コバルト資源を抱えるとされ、豪州政府のInvestor Front Door制度の対象にも選ばれています。これは、複数省庁の許認可調整や政府金融へのアクセスを円滑にする仕組みです。優先指定が実際に効果を持つかは、こうした制度が事業スケジュールの遅れをどこまで抑えられるかにかかっています。

ガリウムでも日豪協力は動いています。双日は2025年8月、JOGMECと設立したJapan Australia Gallium Associatesを通じ、米Alcoa傘下の豪州法人と西豪州のアルミナ精錬所でガリウム生産に向けた共同調査を始めました。事業化する場合、2026年の生産開始と安定供給を目指し、生産物は日本を中心とする需要国に販売する計画です。

ガリウムは高効率半導体やレーダー、通信機器に使われる小さな鉱物ですが、軍民両用性が高い素材です。豪州の戦略備蓄制度でも、アンチモン、ガリウム、レアアースが初期対象に選ばれています。これは、鉱物の市場規模ではなく、供給が止まったときの産業・防衛上の影響で優先順位を決める発想です。

ミネラルサンドに見る第三の供給源

もう一つ注目されるのが、JX金属と丸紅が関わるRZ ResourcesのCopiプロジェクトです。JX金属は2025年6月、豪州ニューサウスウェールズ州のミネラルサンド鉱床開発に段階的に2,000万豪ドルを拠出し、5%権益を取得する契約を結びました。追加拠出や権益転換付ローンも選択肢に含まれます。

丸紅も2025年11月、RZ Resourcesと契約し、同プロジェクトの開発を進めるため1,500万豪ドルを拠出することを決めました。事業化時には最大5%の権益と一定の販売権を得る可能性があります。対象はニューサウスウェールズ州の鉱山開発と、クイーンズランド州ブリスベンの鉱物分離・処理プラントです。

ミネラルサンドは、ルチル、イルメナイト、ジルコン、モナザイトなどを含む砂状鉱床です。ルチルやイルメナイトはチタン、ジルコンはジルコニウム、モナザイトはレアアースの供給源になります。RZ ResourcesはCopiプロジェクトについて、2024年の掘削後に重鉱物品位1.4%で30億トン規模の資源を掲げ、20年以上の操業期間を支える資源確保を目指しています。

この案件が重要なのは、鉱山だけでなく既存の分離プラントを組み合わせている点です。重要鉱物の供給網では、鉱石を掘るだけでは足りません。どこで濃縮し、どこで分離し、誰が引き取り、どの国の金融機関が支えるかまで設計しなければ、実際の供給にはなりません。Copiは、豪州、米国、日本をつなぐ供給網案件として位置づけられています。

豪州が「資源の同盟インフラ」になる条件

許認可迅速化の意味

豪州は資源国として信頼性が高い一方、開発手続きが簡単な国ではありません。環境影響評価、地域社会との合意形成、先住民の権利、港湾・鉄道・電力といったインフラ整備が必要です。重要鉱物案件は小規模でも化学処理を伴うことが多く、環境面の審査も重くなります。

そのため、日豪の優先指定で注目すべきは、補助金の有無だけではありません。むしろ、許認可や政府窓口の調整をどこまで早められるかが実務上の鍵です。豪州の重要鉱物戦略は、環境保護を維持しながら、迅速で耐久性のある承認制度を整えることを掲げています。日本側からみると、操業開始時期が見通せることは、長期購入契約や設備投資の前提になります。

ただし、迅速化は「審査の省略」ではありません。鉱山開発では地域社会との摩擦が後から事業リスクとして表面化しやすく、短期的に手続きを急いでも、訴訟や反対運動で遅れる可能性があります。豪州が日本にとって信頼できる供給地であり続けるには、ESG基準を競争力として維持することが不可欠です。

価格低迷でも進む政府金融

重要鉱物の難しさは、戦略的には必要でも、足元の価格が投資を支えない場面があることです。IEAは、2024年の重要鉱物開発投資の伸びが名目で5%、インフレ調整後では2%にとどまったとしています。探索活動も鈍化し、ニッケル、コバルト、亜鉛では減少が目立ちました。

この状況で豪州は、重要鉱物戦略備蓄を通じて市場の歪みや価格変動で民間資金が入りにくい案件を支える方針です。制度は、豪州で生産される重要鉱物の権利を確保し、需要に応じて販売する仕組みを想定しています。初期対象はアンチモン、ガリウム、軽希土類、重希土類で、日本も国際パートナーに含まれています。

日本企業にとっても、政府金融は単なる資金補助ではありません。公的機関が関与すれば、長期供給契約、オフテイク、権益取得、価格下支え、在庫確保を組み合わせやすくなります。特にレアアースやガリウムのように市場規模が小さい鉱物では、民間だけで大規模な新規供給網を立ち上げるのは難しいため、公的支援が事業継続の保険になります。

一方で、政府支援には選別の問題があります。全ての案件を救済すれば、財政負担が膨らみ、競争力の弱いプロジェクトも残ります。優先指定された6事業が問われるのは、政治的な見栄えではなく、実際に日本の供給脆弱性を下げ、豪州側にも雇用と加工産業を残せるかどうかです。

中国依存低減に必要な工程別供給網設計

日豪協力を「中国から豪州へ置き換えれば解決」と理解するのは危険です。レアアースでは、採掘地、分離・精製地、磁石製造地が分かれます。ニッケルでも、鉱石の種類や精製方式により、電池向けに使える品質やコストが変わります。重要なのは国名ではなく、各工程の代替性と在庫、契約、技術の組み合わせです。

また、豪州案件は同盟国間の競争も伴います。米国、欧州、韓国も同じ鉱物を求めており、豪州政府は重要鉱物を外交資産として使います。日本が安定供給を得るには、早期の権益参加、長期購入、加工技術、人材育成への関与が必要です。買い手として待つだけでは、優先順位を確保できません。

今後の焦点は、首脳合意後に案件ごとの支援内容がどこまで具体化するかです。許認可の窓口一本化、JOGMECや国際協力銀行など日本側公的金融の関与、豪州のExport Finance Australiaとの連携、企業の最終投資判断が連動すれば、日豪協力は象徴から実装へ進みます。逆に、支援が声明だけにとどまれば、価格下落や審査遅延で案件は再び停滞します。

6事業優先指定が促す日豪産業基盤

レアアースなど6事業の優先指定は、日豪関係を資源貿易から経済安全保障の共同運用へ押し上げる動きです。双日・JOGMECのレアアース、住友金属鉱山・三菱商事のニッケル、双日のガリウム、JX金属・丸紅のミネラルサンドは、いずれも中国依存の高い工程を補完する意味を持ちます。

ただし、鉱山名を並べるだけでは供給網は強くなりません。許認可、精製能力、長期契約、公的金融、地域社会との合意を一体で進める必要があります。日本企業にとって次の課題は、豪州を「代替調達先」ではなく、同盟国と共同で育てる産業基盤として扱えるかどうかです。

参考資料:

中村 壮志

国際情勢・地政学・安全保障

中東・米中関係を中心に国際情勢を取材。地政学リスクが日本経済に与える影響を、現地の視点から分析する。

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