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日豪レアアース共同開発の全貌と6優先事業の狙い

by 中村 壮志
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中国規制下の日豪レアアース共同開発

2026年5月4日、高市早苗首相はオーストラリアの首都キャンベラでアンソニー・アルバニージー首相と約1時間20分にわたる首脳会談を行い、「経済安全保障協力に関する日豪共同宣言」に署名しました。この宣言の柱となったのが、レアアースをはじめとする重要鉱物の共同開発です。

背景には、2026年1月に中国が発動した対日レアアース輸出規制があります。中国はレアアースの精製・加工工程で世界の約91%のシェアを握っており、日本の産業界にとって深刻な供給リスクが顕在化しました。こうした状況下で、資源大国オーストラリアとの連携強化は日本にとって喫緊の課題です。

本記事では、日豪首脳が合意した重要鉱物協力の具体的内容と、指定された6つの優先事業の実態、そして今後の課題について詳しく解説します。

日豪経済安全保障共同宣言の全体像

4つの共同声明が示す包括的連携

今回の首脳会談では、経済安全保障に関する共同宣言のもと、複数の分野にまたがる共同声明が発出されました。外務省の発表によれば、重要鉱物協力強化に関する共同声明、エネルギー安全保障協力に関する共同声明、日豪戦略的サイバー・パートナーシップ、そして強化された防衛・安全保障協力に関する首脳声明の4つが柱です。

特に注目すべきは、重要鉱物分野での資金規模です。オーストラリア政府はCritical Minerals Facility(重要鉱物基金)とExport Finance Australia(輸出金融公社)を通じて最大13億豪ドル(約9.4億米ドル)の支援を表明しました。一方、日本政府はすでに約3億7,000万豪ドルの投資・助成金を提供しており、今後もプロジェクトの進展に応じて追加支援を行う方針です。両国合計で約16億7,000万豪ドル(約12億米ドル)規模の資金が重要鉱物分野に投じられることになります。

中国の輸出規制を念頭にした「共同対処」

共同宣言では「輸出規制への強い懸念」が明記され、経済的威圧に共同で対処する方針が打ち出されました。これは明らかに中国を念頭に置いたものです。2026年1月6日、中国商務部は軍民両用品目の対日輸出を即日禁止する措置を発表し、レアアースを含む戦略物資の供給が途絶するリスクが一気に高まりました。みずほリサーチ&テクノロジーズの試算では、レアアース輸入の3カ月間停止で約6,600億円、1年間では2兆6,000億円の経済損失が見込まれるとされています。

日本のレアアース調達先は、2010年時点で中国が89.8%を占めていましたが、2024年には62.9%まで低下しました。それでも重希土類(ジスプロシウム、テルビウムなど)はほぼ100%を中国に依存しており、採掘だけでなく精製・加工段階で中国を経由せざるを得ないという構造的な脆弱性が残っています。

6つの優先事業の詳細と戦略的意義

ガリウム回収:半導体サプライチェーンの弱点を補う

優先事業の一つが、アルコアが西オーストラリア州ワジェラップのアルミナ精錬所に併設する形で進めるガリウム回収プロジェクトです。双日と日本政府の合弁体であるJAGA(Japan Australia Gallium Associates)と連携し、年間100トンの生産能力を目指しています。これは世界需要の約10%に相当する規模です。

ガリウムは半導体、LED、太陽電池に不可欠な材料であり、中国の輸出規制で最も影響を受ける品目の一つです。アルミナ精錬の副産物としてガリウムを回収する手法は、新規鉱山開発と比べてコストと環境負荷を大幅に抑えられる利点があります。投資判断を経て、2026年後半の生産開始が見込まれています。

ニッケル・コバルト:EV向け電池材料の安定確保

アーデア・リソーシズがカルグーリー・ニッケル・プロジェクト(KNP)のグンガリー鉱区で推進するニッケル・コバルト事業も優先指定されました。住友金属鉱山との50対50の合弁で開発が進められており、三菱商事と三井物産も参画しています。

KNPはオーストラリア最大級のニッケル・コバルト資源を保有しており、8億5,400万トン(ニッケル品位0.71%、コバルト品位0.045%)の資源量は含有ニッケル610万トン、含有コバルト38万6,000トンに達します。電気自動車(EV)のバッテリー材料としてニッケルの需要が急増する中、中国以外からの安定調達先を確保する意義は極めて大きいといえます。

蛍石:半導体製造に欠かせない戦略鉱物

ティバン社がキンバリー地域のスピーワ鉱区で進める蛍石(フルオライト)プロジェクトは、住友商事およびJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)との合弁で展開されています。年間15万トンの酸級蛍石の商業生産を2028年度に開始する計画です。

蛍石はフッ化水素酸の原料であり、半導体のエッチング工程やEVのリチウムイオン電池に使われます。オーストラリアで唯一のJORC準拠蛍石資源を有するこのプロジェクトは、世界クラスの規模と品位を誇り、半導体製造サプライチェーンの多元化に直結します。

レアアース:ライナスとの長期契約で価格安定を実現

双日とJOGMECが共同設立した日豪レアアース(JARE)は、豪州最大のレアアース企業ライナスとの間で2038年までの長期オフテイク契約を締結しています。この契約ではNdPr(ネオジム・プラセオジム)に1キログラムあたり110米ドルの最低価格保証(プライスフロア)が設定されました。

年間5,000トンのNdPrをJAREが購入し、ライナスは最大7,200トンを供給可能とする枠組みです。さらに、重希土類についてはライナスの総生産量の50%をJAREが引き取る取り決めとなっています。最低価格保証は、中国の市場操作による価格急落から非中国系生産者を守る仕組みであり、安定的な供給体制の維持に寄与します。

鉱物砂プロジェクト:レアアースとチタンの複合開発

RZリソーシズがニューサウスウェールズ州南西部で推進するコピ・プロジェクトも優先事業に含まれます。鉱物砂からレアアース(モナザイトおよびゼノタイム由来)、チタン原料(ルチル、ロイコキシン)、ジルコンなどを複合的に生産する計画です。

JX金属が戦略パートナーとして参画し、丸紅が1,500万豪ドルを出資して最大5%の株式取得オプションを確保しています。2028年末の操業開始を目指しており、17年間の採掘期間中に240人の雇用を創出する見通しです。世界最大級の重要鉱物鉱床の一つとされ、レアアースとチタンを同時に供給できる点が戦略的に評価されています。

高純度マグネシウム:自動車・航空宇宙向けの新拠点

マグニウム・オーストラリアが西オーストラリア州コリーで進める高純度マグネシウム精錬プロジェクトは、CSIROと共同開発した独自のカーボサーミック還元技術を用いる点が特徴です。従来の製法と異なり、マグネシウム含有廃棄物からクリーンかつ持続可能な方法で金属マグネシウムを抽出します。

パイロットプラントではまず年間800トンの高純度マグネシウムを生産し、段階的に年間3万トン、さらに10万トンへと拡大する計画です。最終段階では100%再生可能エネルギーへの移行も視野に入れており、世界初のネットゼロ・マグネシウム精錬施設を目指しています。自動車の軽量化や航空宇宙分野での需要拡大が見込まれる素材です。

ホルムズ海峡危機が加速させた日豪連携

エネルギー安全保障の新たな次元

今回の日豪連携強化は、重要鉱物だけでなくエネルギー安全保障の文脈でも理解する必要があります。2026年2月末以降、米国・イスラエルとイランの軍事衝突によりホルムズ海峡の通航が事実上封鎖され、世界の原油の約20%が通過するこの海峡の機能が大幅に低下しました。日本は原油輸入の約90%を中東に依存しており、タンカーの約93%がホルムズ海峡を経由しています。

高市首相は首脳会談後の共同記者発表で、石油危機がアジア太平洋地域に「甚大な影響」を及ぼしていると述べました。オーストラリアは石油・LNGの主要産出国であり、ホルムズ海峡を経由しない代替調達先としての重要性が一層高まっています。エネルギーと重要鉱物の両面で豪州との関係を深める意義は、かつてないほど大きくなっているのです。

脱中国へ残る2028年以降の採算リスク

「脱中国」は一朝一夕では実現しない

6つの優先事業が軌道に乗ったとしても、中国依存からの完全な脱却には相当の時間を要します。レアアースのサプライチェーンは採掘・精製・加工・磁石製造・物流を一体的に構築する必要があり、中国はこの全工程で圧倒的な優位を築いています。豪州で採掘した鉱石を日本国内で精製・加工する技術基盤の整備も並行して進めなければなりません。

また、プロジェクトの多くは2028年以降の本格稼働を予定しており、足元の供給不安に対する即効性は限られます。2026年1月の中国の輸出規制が長期化した場合、短期的には既存の在庫と代替技術でしのぎつつ、中長期的に新たなサプライチェーンを構築するという二段構えの戦略が求められます。

価格変動リスクと採算性の課題

レアアースや重要鉱物の市場価格は中国の生産調整によって大きく変動します。ライナスとの契約に組み込まれた110ドル/kgの最低価格保証は先進的な仕組みですが、すべてのプロジェクトにこうしたセーフティネットがあるわけではありません。中国が戦略的に価格を引き下げた場合、採算割れに追い込まれるリスクは依然として存在します。各プロジェクトの持続可能性を確保するには、政府の継続的な支援と需要サイドの長期的なコミットメントが不可欠です。

約16億7,000万豪ドルと6優先事業の資源安保

日豪首脳会談で合意された重要鉱物協力は、約16億7,000万豪ドルの資金枠組みと6つの優先事業という具体性を伴った点で、これまでの「協力の方向性を確認する」レベルの宣言とは一線を画します。ガリウム、ニッケル、蛍石、レアアース、鉱物砂、マグネシウムという多角的なポートフォリオは、特定の鉱種に偏らないサプライチェーンの構築を目指す戦略的な選択です。

中国の輸出規制とホルムズ海峡危機という二重の供給リスクに直面する日本にとって、豪州との資源安全保障パートナーシップは経済安全保障の根幹を成すものになりつつあります。今後は各プロジェクトの着実な実行と、国内精製・加工能力の強化が次の焦点となるでしょう。

参考資料:

中村 壮志

国際情勢・地政学・安全保障

中東・米中関係を中心に国際情勢を取材。地政学リスクが日本経済に与える影響を、現地の視点から分析する。

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