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バーガーキング縦読み広告の真意と話題化設計の全体像を徹底解説

by 田中 健司
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はじめに

2020年1月31日18時、マクドナルド秋葉原昭和通り店は閉店しました。その直前の1月30日21時ごろ、2軒隣のバーガーキング秋葉原昭和通り店が掲げたのが、感謝を装いながら縦読みすると「私たちの勝チ」と読めるポスターです。SNSでは大きく拡散し、同日取材では8万回以上リツイートされたと報じられました。

この広告が今も語られるのは、単なる煽りでは終わらなかったからです。複数の公開情報を突き合わせると、当日の広報対応はかなり慎重だった一方、後年の取材では「意図した仕掛け」だったことがより明確に語られています。本稿では、縦読み広告の真意、なぜ拡散したのか、そして比較広告としてどこが巧みだったのかを整理します。

真相をめぐる情報整理

当日の広報回答と後年取材の差異

2020年1月31日のJタウンネット取材で、バーガーキング側はこの掲出を「ライバル店へ敬意を込めてエールを送った」と説明しました。しかし、縦読みの意図を問われても同じ回答を繰り返し、明言は避けています。同日のMONEY PLUS取材でも、縦読みで「私たちの勝チ」になる点については、それ以上の回答をしませんでした。

ところが、2021年4月28日に公開されたねとらぼの取材では、バーガーキング自身がより踏み込んでいます。競合調査中の2020年1月下旬に閉店バナーを見つけ、長年競い合った相手への感謝とバーガーキングらしいメッセージを両立させたいと考えたこと、さらにブランド認知の低さを店舗起点の話題化で解消したかったことを説明しています。制作実績を掲載したIKERUのページでも、この作品は「隠しメッセージ『私たちの勝チ』という勝利宣言」と明記されています。

この差から見えてくるのは、縦読みが偶然だったかどうかより、公開当日にどこまで意図を明かすかを慎重にコントロールしていたという事実です。話題化の初動では「敬意」を前面に置き、後からクリエイティブの意図を説明する構えだったと見るのが自然です。ここに、この広告の本当の巧さがあります。

秋葉原という特別立地

この企画が成立した前提には、秋葉原昭和通り口の立地があります。Jタウンネットによると、バーガーキング秋葉原昭和通り店は2008年3月28日に開店し、約12年にわたって近隣のマクドナルドと競ってきました。つまり、全国どこでも成立するネタではなく、現地の人が分かる長い文脈があったわけです。

しかも、この物語は2020年で終わっていません。ねとらぼとAKIBA PC Hotline!によると、マクドナルド秋葉原昭和通り店は2022年4月1日、新築ビルの2〜4階に再オープンしました。バーガーキングはこれに対しても縦読みで「店のデカさよりだいじなこと。」と読める掲示を出しています。2020年の広告は単発の炎上狙いではなく、秋葉原という場所に根差したライバル物語の起点になったといえます。

話題化を成功させた設計

一日掲出と三日制作の速度

ねとらぼ取材によると、「私たちの勝チ」の制作期間はわずか3日程度でした。しかもIKERUの実績ページでは、掲出はたった1日と整理されています。短期間で作り、店頭に出し、発見した人が写真を撮ってSNSで広げる。この速度感こそが、ニュース性と偶然の発見感を同時に生みました。

仕掛けもよくできています。表向きはライバルへのねぎらいであり、デザインも相手の閉店ポスターをオマージュしています。ところが、改行位置や語頭を追うと別の意味が立ち上がるため、見る人は「感動」から「挑発」へ認識を反転させられます。さらにJタウンネットとMONEY PLUSが報じたように、マクドナルド秋葉原昭和通り店のレシート持参でブレンドコーヒーを無料配布する施策まで連動させていました。広告と販促が分断されておらず、店頭来訪の動機まで用意されていた点は見逃せません。

成長戦略につながる挑戦者ポジション

この広告は、バーガーキングの当時の立場とも噛み合っていました。MONEY PLUSでは、2019年5月時点で国内99店舗のうち22店舗を閉店すると発表していたことが紹介されています。まだ業界の強者ではなく、むしろ再成長の途上にあるブランドでした。だからこそ、ねとらぼ取材で語られた「認知度が低い」という課題は重かったはずです。

その後の出店ペースを見ると、同社はこの数年で明確に拡大しています。2023年12月の会社発表では、約3年間で店舗数が倍増し、2023年10月に全国200店舗を突破したとしています。2024年12月の発表では、同年に47店舗を新規出店し、同年末時点で254店舗となる計画でした。さらに2026年3月19日の発表では、2026年4月22日時点で352店舗となる予定です。

もちろん、1枚の広告だけで店舗拡大を説明するのは無理があります。ただ、2021年取材で会社自身が「認知度の低さを話題化で解決したかった」と述べている以上、この広告が単なる悪ふざけではなく、成長戦略の一部だったとみる根拠は十分です。挑発は目的ではなく、挑戦者として記憶されるための手段でした。

注意点・展望

この事例を「バーガーキングがマクドナルドに勝った証拠」と読むのは単純化しすぎです。実際にはマクドナルドは2022年4月1日に同じエリアへ大きな店舗で戻ってきました。勝敗そのものより重要なのは、バーガーキングがライバル不在の瞬間を使って、自社のブランド人格を強く印象づけたことです。

もう1つ重要なのは、比較広告の線引きです。消費者庁は、競合商品との比較そのものを禁止していませんが、客観的実証、正確な引用、公正な比較方法を求めています。ここからの推論になりますが、「私たちの勝チ」は価格や品質で優位性を断定する広告ではなく、解釈を受け手に委ねる言葉遊びだったため、露骨な優良誤認のリスクを避けつつ挑発性だけを最大化できました。今後同種の企画が増えるほど、この境界感覚の差が成果を分けるはずです。

まとめ

「私たちの勝チ」の真実は明快です。2020年1月31日の時点では広報が真意を曖昧に保ちましたが、2021年の取材や制作実績の公開情報を踏まえると、縦読みは意図した設計だったとみるのが妥当です。そして本当の勝利は、マクドナルドの退場そのものではなく、バーガーキングが「敬意と挑発を同時に扱える挑戦者」として記憶されたことにありました。

外食マーケティングの観点で見ると、この広告の価値は、ローカルな文脈、即応スピード、二重の読み、販促連動、法規制を意識したぼかしを一体化した点にあります。秋葉原の1枚のポスターは、OOHがSNS時代でも強いのは、掲出面の大きさではなく「語りたくなる設計」がある時だと示した事例でした。

参考資料:

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