中国ヒト型ロボ量産加速、工場配備で問われる日本の精密駆動戦略
量産局面に入ったヒト型ロボット競争
ヒト型ロボットの競争軸が、研究室のデモから工場内の実作業へ移り始めています。先行するのは中国勢です。UBTECHやAGIBOTは、自動車、物流、データ収集などの現場で量産と導入実績を積み上げています。
ただし、現時点のヒト型ロボットは万能作業者ではありません。価値の中心は、限られた作業を安全に繰り返し、失敗データを集めながら改善することです。日本企業にとって重要なのは、完成品の見栄えで追うことではなく、滑らかで精密な動きを支える「筋肉」「骨格」「安全制御」を、量産可能な事業に変えることです。
中国勢が工場で先行するデータ戦略
UBTECHが広げる自動車ライン実証
中国勢の強さは、ロボットを売る前に「働かせる場所」を押さえている点にあります。UBTECHは2025年11月、産業用ヒト型ロボットWalker S2の量産・納入開始を発表しました。同社発表では、2025年内に500台納入を目指し、2026年に年産5000台、2027年に1万台の能力へ拡大する計画です。Walkerシリーズの受注額は2025年初から8億元超に達したとしています。
導入先として挙げられているのは、BYD、東風柳州汽車、吉利汽車、FAW-Volkswagen青島、Audi FAW、BAIC New Energy、Foxconn、SF Expressなどです。自動車工場と物流を中心に、部品搬送、SPS仕分け、簡易組み付け、工程内搬送、品質検査といった作業が対象になっています。
UBTECHの産業向けページでは、BYD工場でWalker S1が搬送作業を担い、AMRやAGV、製造管理システムと連携したと説明されています。NIOの先進製造拠点では、最終組み立て工程で人と協働し、組み立てと検査作業に関わったとしています。Dongfeng Liuzhou Motorは2025年、少なくとも20台のWalker S1を車両生産施設へ配備する計画を公表しました。
注目すべきは、ロボット単体の性能よりも、現場全体をデータ収集装置に変えていることです。工場は照明、床、棚、部品位置、作業手順をある程度そろえられます。ヒト型ロボットはそこで失敗し、再学習し、次の機体に反映されます。この循環が回るほど、動作計画、把持、姿勢制御、異常検知の精度は上がります。
UBTECHの2025年年次資料では、同年末時点でフルサイズの身体性知能ヒト型ロボットについて年産6000台超の能力を達成したと記載されています。Walker S2は3分の自律バッテリー交換、24時間連続運用、52自由度、15kgの安定搬送能力を掲げています。数字は同社発表ベースですが、量産と現場データを同時に取りに行く姿勢は明確です。
AGIBOTとUnitreeが押し広げる裾野
UBTECHだけではありません。AGIBOTは2025年12月、量産ヒト型ロボットの累計5000台目が工場から出荷されたと発表しました。内訳はフルサイズのAシリーズが1742台、半身サイズのXシリーズが1846台、製造・物流・サービス向けのGシリーズが1412台です。用途として、案内、展示、商業パフォーマンス、スマート製造、物流仕分け、警備、清掃、データ収集、教育研究を挙げています。
Unitreeも裾野拡大の役割を担っています。公式サイトではG1の価格を税・送料別で1万3500ドルからと表示しています。高級車並みだったヒト型ロボットを、研究室や開発者が購入を検討できる価格帯へ近づけた意味は大きいです。サイト上では安全距離の確保や限界理解も明記されており、成熟製品というより開発プラットフォームの性格が強いと読めます。
中国の政策も、この流れを後押ししています。中国工業情報化部は2023年の「人形ロボット創新発展指導意見」で、2025年までに「大脳」「小脳」「肢体」の主要技術を突破し、主要部品の安全で有効な供給を確保する方針を示しました。2027年には、規模化と国際競争力のある産業生態系を目指すとしています。
産業用ロボット全体の土台も厚いです。国際ロボット連盟のWorld Robotics 2026によると、中国は2025年に35万4000台の産業用ロボットを導入し、世界導入数の59%を占めました。中国メーカーの国内シェアも55%に達しています。一方、日本の2025年導入台数は3万6219台で、前年比19%減でした。ヒト型ロボットの勝負は新興分野ですが、周辺には既存の産業ロボット、EV工場、部品供給網が広がっています。
日本の勝機をつくる精密駆動と安全制御
減速機とアクチュエータの厚い産業基盤
日本の活路は、完成品の販売台数だけで中国勢と張り合うことではありません。ヒト型ロボットの価値を決める中核は、関節を滑らかに動かす精密減速機、モーター、センサー、ドライバー、制御ソフトを一体化したアクチュエータです。人間でいえば筋肉と関節にあたる部分です。
ナブテスコは中大型産業用ロボットの関節用途向け精密減速機で、同社推計として世界シェア約60%を掲げています。同社の2026年版会社案内では、Monocrankシリーズがヒト型ロボットの肩や腰の関節で特徴を発揮し、安定した微細動作に貢献すると説明しています。産業用ロボットで鍛えた高剛性、高負荷容量、信頼性は、ヒト型ロボットでも重要です。
ハーモニック・ドライブ・システムズも、波動歯車装置やメカトロニクス製品で高精度・高トルクの動きを支えています。ヒト型ロボットでは、小型軽量で大きなトルクを出すだけでなく、関節が外力を受けたときに壊れにくく、制御しやすいことが求められます。バックラッシュ、摩擦、発熱、耐久性の差は、歩行や把持の自然さに直結します。
THKが開発したヒト型ロボットFREDは、この論点を分かりやすく示しています。2025年の走行試験で時速13.8kmに到達し、アクチュエータにはサイクロイド歯車、アウターローターモーター、強制空冷が使われています。公開仕様では、RA-C80-04アクチュエータが最大トルク160Nm、最大出力960W、質量960gです。さらに、1ms周期のリアルタイム制御をうたっています。
NSKとDelta Electronicsの協業によるロボット向け回転アクチュエータも、軽量化と滑らかさを狙った例です。参考展示の資料では、重量0.9kg、繰り返しピークトルク110Nm、内蔵ドライバー、EtherCATとCAN対応、ハーモニック・ドライブ・システムズ製の精密制御減速機の採用が示されています。こうした統合モジュールは、ロボットメーカーの開発期間を短縮し、量産時の品質ばらつきを減らせます。
柔らかい身体と安全認証の蓄積
ヒト型ロボットが工場で本格利用されるには、硬い機械として速く動くだけでは足りません。人の近くで搬送し、棚や台車に接触し、部品を傷つけずに扱う必要があります。そこで重要になるのが、柔らかさと安全性です。
ブリヂストンはソフトロボティクス事業で、ゴム人工筋肉を中核技術に据えています。公式情報では、ゴムチューブと高強度繊維スリーブから成る人工筋肉を半世紀にわたり開発してきたと説明しています。特徴として、軽量高出力、柔軟性、耐衝撃性を挙げています。ソフトロボットハンド「TETOTE」は、製造や倉庫でのピースピッキングを想定しています。
硬い関節と柔らかい把持部をどう組み合わせるかは、日本企業が強みを出しやすい領域です。自動車部品、電子部品、食品、医療関連部材では、ワークを壊さない、汚さない、人に危害を与えないという条件が厳しくなります。そこで必要なのは、単なるロボット本体ではなく、エンドエフェクタ、視覚、力覚、リスクアセスメントを含むシステム設計です。
日本には安全評価の蓄積もあります。NEDOはロボットアクションプランで、ものづくり、食品製造、施設管理、小売・飲食、物流倉庫、農業、インフラ維持管理、建築の8分野を対象に、社会実装と次世代技術基盤を両輪で進める考えを示しています。ロボットは単体製品ではなく、環境整備や運用設計と統合して初めて役に立つという見方です。
国際規格の側面も見逃せません。ISO 10218-2:2025は、産業用ロボットのアプリケーションとロボットセルの安全要求を扱います。ヒト型ロボットが既存の産業用ロボット、AMR、AGV、人間作業者と同じ空間で動くなら、規格、責任分界、停止設計、保守手順は競争力そのものになります。滑らかな動きは性能であり、安全な動きは市場参入券です。
量産優位を覆すための実装リスク
中国勢が先行しているのは事実ですが、量産台数だけで勝敗は決まりません。ヒト型ロボットの工場導入では、可動率、保守費、教示時間、現場変更への追随、安全停止の頻度が投資対効果を左右します。デモ映像で成功する動作と、10時間シフトで安定して働く動作の間には大きな差があります。
最大の課題は、滑らかで精密な動きです。床の段差、台車の揺れ、部品の個体差、人とのすれ違い、把持した荷物の重心変化は、すべて制御を難しくします。ピークトルクが高くても、熱で出力が落ちたり、関節に遊びが出たり、センサーの遅延が大きかったりすれば、現場では使いにくくなります。
日本企業にとってのリスクは、優れた部品を持ちながら、ロボット全体のデータ循環から外れることです。部品メーカーが単品供給にとどまると、どの作業で壊れ、どの姿勢で熱が出て、どの制御則で摩耗が進むのかという現場データを得にくくなります。中国勢が完成品、部品、工場、政策をつなげるほど、この差は広がります。
巻き返しには、部品の高性能化だけでなく、モジュール化と検証環境が必要です。関節モジュール、手先、バッテリー、安全コントローラーを、診断機能とログ取得機能込みで提供することが重要です。さらに、自動車、物流、建設、食品といった現場で、短期実証ではなく長時間運用のデータを共同で取る枠組みが欠かせません。
経営者が注視すべき投資判断の軸
ヒト型ロボット競争で見るべき指標は、発表会の動きの派手さではありません。実工場での累積稼働時間、故障間隔、現場復旧時間、1作業あたりの教示コスト、既存設備との連携度です。これらを公表または顧客と共有できる企業が、次の量産段階で信頼を得ます。
日本企業は、完成品メーカーとして一気に中国勢を追う道だけにこだわる必要はありません。精密減速機、統合アクチュエータ、柔軟な手、安全認証、システムインテグレーションを束ねれば、ヒト型ロボットの「身体」を握ることができます。AIの時代でも、最後に価値を生むのは物理世界で安定して動く身体です。
経営者が今取るべき行動は明確です。自社の部品や制御技術が、どの作業、どの現場、どの安全基準で優位に立てるかを絞り込むことです。そのうえで、ロボットメーカーやユーザー工場と実運用データを共有する提携を急ぐべきです。中国の量産速度に対抗する日本の勝ち筋は、精密で壊れにくく、人の近くで安心して働ける身体技術の事業化にあります。
参考資料:
- UBTECH Humanoid Robot Walker S2 Begins Mass Production and Delivery, with Orders Exceeding 800 Million Yuan
- UBTECH Humanoid Robot Industrial Application Solution
- Global First: Dongfeng Liuzhou Motor to Deploy No Fewer Than 20 UBTECH Humanoid Robots Within 30 Days
- UBTECH ROBOTICS CORP LTD 2025 Annual Results
- AGIBOT Announces the Rollout of Its 5,000th Mass-Produced Humanoid Robot
- Unitree G1 Humanoid Robot
- 《人形机器人创新发展指导意见》解读
- Five Million Robots now Operate in Factories Globally
- 精密減速機 | ナブテスコ株式会社
- Nabtesco Corporation Corporate Brochure 2026
- The Humanoid Robot FRED Is Built for Speed and on Display at Expo 2025 Osaka, Kansai
- Rotary actuator for Robots | NSK
- Softrobotics | Bridgestone Corporation
- ロボット分野における研究開発と社会実装の大局的なアクションプラン
- ISO 10218-2:2025 Robotics Safety Requirements
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