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地下水診断で半導体工場とデータセンターを支える日本工営の勝算

by 田中 健司
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半導体とAI拠点で高まる水制約

半導体工場とデータセンターの立地競争で、水が電力や土地と並ぶ制約条件になっています。半導体は洗浄工程や超純水製造に安定した原水を必要とし、生成AI向けデータセンターは高発熱のサーバーを冷やすため、冷却方式によって水需要が膨らみます。

国際エネルギー機関は、データセンターの電力消費が2024年に世界全体で415TWh、総電力消費の約1.5%に達したと推計しています。2030年には約945TWhへ倍増する見通しで、これは日本の現在の電力消費量を上回る規模です。水需要は電力ほど可視化されていませんが、冷却水と発電用水の両面から地域インフラに影響します。

日本工営が半導体工場やデータセンター向けに地下水リスク診断を本格展開する意味は、ESG対応の延長にとどまりません。工場を止めない水量、水質を乱さない取水、地域社会に説明できる代替水源を同時に設計する事業へ、水リスク対策の重心が移っているためです。

地下水リスク診断が工場立地を左右する理由

見えにくい地下水収支の事業リスク

地下水は、地図上の河川やダムよりも見えにくい資源です。井戸から水が出ていても、その採取が長期的に持続可能か、周辺井戸や湧水、農業、地盤沈下にどのような影響を及ぼすかは、地質や降雨、地下水流動、揚水履歴を合わせて見なければ判断できません。

国土交通省は、全国の地下水使用量を年間約102.9億立方メートルとしています。一方で、地下水に関わる問題として地盤沈下、塩水化、水質汚染を挙げています。つまり地下水は、量があるかどうかだけでなく、採り方を誤ると社会的な外部不経済を生む資源です。

熊本の事例は象徴的です。熊本県は水道用水の8割を地下水でまかなっており、熊本市と周辺市町村では依存度がさらに高い地域があります。環境省の地盤環境情報では、熊本市の2023年度の地下水採取量は約1億330万立方メートルで、その75.0%を上水道用が占めています。工業用水だけの話ではなく、生活水と産業用水が同じ地下水盆を共有している構図です。

半導体集積が進む熊本では、JASM第1工場の投資総額が86億ドル、政府の最大助成額が4760億円とされました。第2工場も139億ドル規模で、最大助成額は7320億円です。内閣府は、TSMCが菊陽町を選んだ理由の一つとして豊富な水資源を挙げています。水は誘致の強みである一方、地域が成長するほど制約にも変わります。

開示支援だけでは埋まらない設計領域

企業の水リスク対応では、WRI AqueductやCDP開示を使った拠点評価が広がっています。CDPは2026年9月の分析で、水関連の将来影響として企業が3970億ドルを見込んでいると公表しました。水は気候や自然資本の開示テーマではなく、投資、調達、操業継続を左右する財務リスクになっています。

ただし、地図上で「水ストレスが高い」と判定するだけでは、工場計画は前に進みません。実務では、候補地ごとの帯水層の厚さ、涵養域、既存井戸の分布、自治体条例、下流域への影響、渇水時の優先順位、排水先の容量まで詰める必要があります。さらに半導体工場では、原水中のシリカや有機物、微量化学物質が超純水設備の設計に跳ね返ります。

データセンターも同じです。米国の水道業界誌AWWAは、米国データセンターの冷却に伴う直接的な水消費が2014年の56億ガロンから2023年に170億ガロンへ増え、2028年には400億〜730億ガロンに達する可能性を紹介しています。発電に伴う間接的な水フットプリントも大きく、施設内の節水だけでは全体像を捉えきれません。

日本でも国会審議で、データセンターの水冷化や立地拡大には低廉で安定した水の確保が重要だと議論されています。現行の工業用水道事業法では、データセンターが従来の給水義務の対象に入りにくいという制度上の論点も示されました。立地を急ぐ企業ほど、自治体任せではなく、自社側で水源ポートフォリオを検証する必要があります。

代替水源設計まで踏み込む日本工営の勝機

公共インフラ由来の解析力

日本工営の強みは、水リスクを「診断」で終わらせず、対策工や施設設計まで接続できる点にあります。同社の技術資料には、地下水流動や水循環解析、水資源リスク評価指標が技術領域として示されています。地すべり対策の資料でも、地下水の流れを数値シミュレーションで予測し、定量的・客観的に評価する考え方が説明されています。

この経験は、半導体工場やデータセンターにも応用できます。もちろん、斜面防災と工場用水では対象が異なります。しかし、地下水を「見えないもの」として扱わず、観測井、揚水試験、地質モデル、浸透流解析を組み合わせてリスクを数値化する基礎技術は共通します。

建設コンサルタントとしての蓄積も大きいです。半導体工場の水問題は、井戸一本を掘るだけでは解けません。工業用水道、下水再生水、雨水貯留、排水処理、地下水涵養、河川水利、非常時のバックアップを組み合わせる必要があります。道路や造成、排水路、調整池、電力設備と同じタイムラインで、水インフラを設計しなければ稼働日に間に合いません。

国土交通省は、下水処理水や雨水の再生利用を積極的に進めることで、水質と水量の両面から水環境に貢献することが求められるとしています。半導体分野では、台湾TSMCが南部科学園区で再生水を半導体製程へ回用する水再生施設を整備し、2022年時点で日量1万トン、将来は日量3万6000トンへの拡大を掲げました。水源を増やす設計力は、すでに国際競争の条件です。

東京海上グループ入りで広がる民間接点

日本工営の親会社であるID&Eホールディングスは、2025年5月に東京海上ホールディングスの完全子会社となりました。東京海上側はID&Eについて、防災・減災領域の技術や視点を保険の事前・事後に組み込むことで、一気通貫のサービスを提供したいと説明しています。

この組み合わせは、水リスク診断に向いています。保険会社は、多数の企業顧客、リスク評価、事故後対応、財務影響の見積もりに強みを持ちます。日本工営は、現地調査、設計、施工監理、公共インフラとの接続に強みを持ちます。両者が組むと、経営層に対して「水が足りないかもしれない」という警告ではなく、「どの投資で操業停止確率を下げられるか」という提案が可能になります。

民間企業にとっても使いやすい形です。半導体工場の新設や増設では、初期投資が数千億円から兆円規模になります。水源の見誤りで稼働率が下がれば、設備投資全体の回収計画が崩れます。データセンターでも、冷却方式の選択はPUE、WUE、電力契約、地域の水道容量、将来の規制対応を同時に左右します。

日本工営が代替水源の設計まで踏み込むなら、差別化の軸は明確です。水リスクを開示資料にまとめる会社ではなく、水源の選択肢を並べ、概算費、工期、許認可、地域影響、操業時のモニタリングまで束ねる会社になることです。公共事業で鍛えた合意形成と技術設計を、民間の成長投資に移植できるかが問われます。

地域合意と水質保証が成否を分ける局面

水リスク診断が広がるほど、企業は「水を確保できるか」だけでなく、「地域に説明できるか」を問われます。熊本県は地下水を公共水と位置づけ、採取許可の対象者に地下水使用合理化計画書や地下水涵養計画書の提出を求めています。地域資源としての地下水を使う以上、工場側には採取量、涵養、節水、監視を継続的に示す責任があります。

ここで難しいのは、再生水や代替水源にも万能性がないことです。下水再生水は有力な選択肢ですが、半導体工程に使うには水質の安定、追加処理、濃縮排水、エネルギー消費、バックアップ水源の設計が必要です。データセンターでも、蒸発冷却は電力効率を高めやすい反面、水消費が増えます。乾式冷却は水を減らせますが、夏場の電力負荷が上がる場合があります。

そのため、今後の焦点は単一の正解探しではありません。地下水、工業用水、再生水、雨水、循環利用、節水投資を組み合わせる「水源ポートフォリオ」の設計です。平常時、渇水時、災害時、設備増設時で最適解は変わります。初期設計の段階から複数シナリオを置く企業ほど、地域との交渉でも強くなります。

日本工営にとってのリスクは、公共事業で強い会社が民間の意思決定速度にどこまで合わせられるかです。半導体やデータセンターの投資判断は速く、候補地比較も国際競争です。診断に時間をかけすぎれば商機を逃します。一方で、調査を粗くすれば地域合意を損ないます。この速度と精度の両立が、事業拡大の実力を測る物差しになります。

経営者が用水計画で確認すべき論点

半導体工場やデータセンターを計画する企業は、水を設備部門だけのテーマにしないことが重要です。取締役会や投資委員会で確認すべき論点は、必要水量のピーク、渇水時の操業計画、代替水源の実現可能性、地域の地下水収支、排水処理、住民説明、将来増設余地です。

特に地下水は、今日の採取可能量よりも10年後の説明可能性が大切です。地域の生活水や農業と競合する場所では、節水設備や涵養策を後付けするより、最初から投資計画に組み込む方が安く済む場合があります。水リスク診断はコストではなく、稼働率を守る保険料に近い位置づけです。

日本工営の本格参入は、国内の産業立地が「土地と補助金」だけでは決まらなくなったことを示しています。水を読める企業が、次の工場とデータセンターを動かします。経営者は、電力契約と同じ重さで用水計画を点検する局面に入っています。

参考資料:

田
田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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