米国防総省がイラン地上作戦を準備 その規模とリスク
米国防総省のイラン地上作戦準備
米紙ワシントン・ポストは2026年3月28日、米国防総省(ペンタゴン)がイランでの数週間にわたる地上作戦の準備を進めていると報じました。2月28日に始まった米国・イスラエルによるイランへの軍事作戦は、すでに5週目に突入しています。これまでは空爆が主体でしたが、ここにきて特殊部隊や歩兵部隊による地上作戦という新たな段階への移行が検討されています。
本記事では、報道されている地上作戦計画の詳細、展開されつつある米軍戦力、想定されるリスク、そして並行して進む外交交渉の現状を解説します。
報じられた地上作戦計画の概要
大規模侵攻ではない「限定的作戦」
ワシントン・ポストの報道によると、国防総省が準備しているのは大規模な地上侵攻ではなく、特殊作戦部隊と通常歩兵部隊を組み合わせた「奇襲型の限定作戦」とされています。作戦期間は数週間と想定されており、イランの全土占領を目指すものではありません。
具体的な作戦対象として報じられているのが、ペルシャ湾に浮かぶハルグ島とホルムズ海峡沿岸部です。ハルグ島はイランの原油輸出の約90%が通過する重要拠点であり、3月13日には米空軍によるハルグ島への大規模空爆がすでに実施されています。この空爆では軍事施設を標的としつつ、石油・ガスインフラは温存されました。
トランプ大統領の承認は未定
この地上作戦計画をトランプ大統領が承認するかどうかは、3月29日時点で不明です。レビット大統領報道官はワシントン・ポストに対してコメントを出していますが、具体的な計画の承認状況については明言を避けています。
展開される米軍戦力と作戦態勢
海兵隊遠征部隊の到着
米中央軍(CENTCOM)は3月28日、強襲揚陸艦トリポリを中心とする水陸両用即応群と第31海兵遠征隊(MEU)が管轄区域に到着したと発表しました。約3,500人の海兵隊員と水兵で構成されるこの部隊は、佐世保基地から3月13日に出航し、マラッカ海峡を経由して展開しました。
さらに、サンディエゴを母港とする強襲揚陸艦ボクサーと第11海兵遠征隊も3月19日から20日にかけて出航しています。両部隊を合わせると、約4,500人の海兵隊員が中東地域に追加投入されることになります。
第82空挺師団の派遣準備
米陸軍の精鋭部隊である第82空挺師団からも、即応対応部隊(IRF)の約2,000人が中東への派遣命令を受けたと報じられています。第82空挺師団は世界中のどこにでも18時間以内に展開可能な即応能力を持つ部隊です。派遣に先立ち、同師団は予定していた主要な訓練演習を突然キャンセルしたことが確認されています。
これらを合計すると、紛争開始以降に約7,000人の追加兵力が中東地域に展開されたことになります。
作戦の戦略的目標
核関連施設とウラン確保
地上作戦の最重要目標のひとつとして挙げられているのが、イランの高濃縮ウランの確保です。Bloombergの報道によると、トランプ政権はイランが保有する核兵器級に近い高濃縮ウランの所在を把握しきれておらず、その確保には地上部隊の投入が不可欠と判断しているとされています。
ホルムズ海峡の航行自由確保
もうひとつの重要目標がホルムズ海峡の航行自由の確保です。イランは紛争開始以降、ホルムズ海峡の航行を事実上制限しており、世界のエネルギー供給に深刻な影響を及ぼしています。米軍は3月19日からホルムズ海峡の開放に向けた軍事作戦をすでに開始していました。
地上作戦に伴うリスク
米兵の人的損害
地上作戦に踏み切った場合、米軍兵士はイランのドローン、弾道ミサイル、地上火器、即席爆発装置(IED)など、多様な脅威にさらされることになります。紛争開始以来、イランはすでに500発以上の弾道ミサイルと約2,000機のドローンを発射したとされており、地上部隊はこれまでの空爆中心の作戦よりもはるかに大きな危険に直面します。
すでにクウェートでのドローン攻撃で米軍兵士6人が死亡しており、地上作戦が本格化すればさらなる犠牲が出る恐れがあります。
戦線拡大と長期化の懸念
アナリストは、地上作戦によって米兵に死傷者が出た場合、事態のエスカレーションを制御することが極めて難しくなると指摘しています。限定的な作戦として開始されたとしても、イランの反撃によって作戦が長期化・拡大するリスクは否定できません。
また、米軍はウクライナおよび欧州への武器供与も継続しており、中東での大規模な地上作戦を同時に遂行する能力には限界があるとの見方もあります。
議会の反応と戦争権限をめぐる議論
議会承認なき軍事行動への批判
トランプ大統領は議会の承認を得ずにイランへの軍事行動を開始しており、これに対して議会内で強い反発が生じています。下院では戦争権限決議案が提出され、大統領の軍事行動に議会承認を義務付けようとする動きがありましたが、219対212の僅差で否決されました。
上院でも同様の決議案が3度にわたり採決にかけられましたが、いずれも否決されています。直近の採決では53対47で否決されており、与野党の分断が鮮明になっています。
外交交渉の現状と今後の展望
15項目の和平提案とイランの反応
軍事的圧力と並行して、トランプ政権は外交交渉も進めています。特使ウィトコフ氏が策定した15項目の和平提案がパキスタンを介してイランに伝達されました。提案にはイランの核施設解体、ウラン濃縮の停止、弾道ミサイル計画の凍結、地域同盟組織への支援停止、ホルムズ海峡の全面開放が含まれているとされています。
しかし、イラン側はこの提案を「最大限主義的で非合理的」と拒否しています。イラン外務省は米国との直接交渉自体を否定しており、「戦争の終結はイランが決める」との立場を示しています。
エネルギー施設攻撃の一時停止
トランプ大統領は4月6日までイランのエネルギー施設への攻撃を一時停止すると発表し、交渉の余地を残しています。「交渉は非常にうまくいっている」とトランプ大統領は述べていますが、イラン側の反応とは大きな温度差があります。
地上作戦の準備が進められている背景には、軍事的圧力を交渉のてことして活用する意図があるとの分析もあります。しかし、CNBCの報道では、追加兵力の投入がかえって交渉を難しくする可能性があるとアナリストが指摘しています。
イラン地上作戦のリスクと4月6日期限
米国防総省がイランでの数週間にわたる地上作戦を準備しているという報道は、2月末から続くイラン紛争が新たな段階に入る可能性を示しています。特殊部隊と歩兵による限定的な作戦とされていますが、ハルグ島やホルムズ海峡周辺での地上戦は、これまでの空爆とは比較にならないリスクを米軍にもたらします。
トランプ大統領の承認が下りるかは不透明であり、4月6日のエネルギー施設攻撃停止期限が次の転換点となる可能性があります。外交と軍事の両面で事態が流動的に推移する中、今後数日間の動向が中東情勢の行方を大きく左右することになりそうです。
参考資料:
- Pentagon prepares for weeks of ground operations in Iran - The Washington Post
- Pentagon Preparing for Weeks of Ground Operations in Iran, Washington Post Reports - US News
- War on Iran: What troops is the US moving to the Gulf? - Al Jazeera
- Why Marines and the 82nd Airborne Division Are Being Sent To Iran - Newsweek
- Trump grants Iran another extension on a deadline to reopen the Strait of Hormuz - NPR
- Iran calls US proposal to end war ‘maximalist, unreasonable’ - Al Jazeera
- Trump wants to squeeze Iran into peace talks with more troops — but it may backfire, analysts say - CNBC
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