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イラン強硬派「3人組」の実権と米15項目和平案の行方

by 田中 健司
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はじめに

2026年2月28日、米国とイスラエルによるイラン攻撃で最高指導者アリ・ハメネイ師が暗殺されて以降、イランの権力構造は大きく変動しています。3月9日に後継者として息子のモジュタバ・ハメネイ師が最高指導者に就任しましたが、実質的な権力を握っているのは革命防衛隊(IRGC)出身の強硬派幹部たちです。

トランプ米大統領は3月24日、イランに「新たなグループ」が現れたと言及し、パキスタンの仲介を通じて15項目の和平案を提示しました。しかしイラン側はこれを即座に拒否し、独自の5項目の対案を出しています。本記事では、イランの権力中枢を握る「3人組」の正体と、和平交渉の現状を解説します。

革命防衛隊出身の「3人組」とは何者か

ガリバフ国会議長――軍・政治の橋渡し役

「3人組」の中心人物と目されるのが、モハンマド・バーゲル・ガリバフ国会議長です。1961年生まれのガリバフ氏は、イラン・イラク戦争に従軍後、1982年に革命防衛隊に入隊しました。その後、革命防衛隊空軍司令官(1997〜2000年)、治安維持軍(警察)司令官(2000〜2005年)、テヘラン市長(2005〜2017年、3期)を歴任しています。

2020年に国会議長に就任した同氏は、軍事・治安・政治の全領域に人脈を持つ稀有な人物です。米国の複数の政権当局者は、ガリバフ氏を「戦争の次の段階を交渉できる相手」と見なしています。トランプ大統領が名指しこそしなかったものの、「新たなグループ」の念頭にあるのはガリバフ氏だと広く報じられています。

アフマド・ヴァヒディ――IRGC新司令官

「3人組」のもう一人が、アフマド・ヴァヒディ准将です。ヴァヒディ氏はIRGCの中でも対外工作を担うコッズ部隊の司令官、国防・軍需相、内務相、参謀本部副長官など、政権の最上級ポストを歴任してきた筋金入りの強硬派です。ハメネイ師暗殺後、IRGCの事実上の新司令官としてイランの軍事戦略を主導しています。

ホセイン・タエブ――情報工作の黒幕

3人目はホセイン・タエブ氏です。2009年から2022年までIRGC情報機関のトップを務め、国内外での諜報・工作活動を統括してきました。タエブ氏はモジュタバ・ハメネイ師の最高指導者就任においても決定的な役割を果たしたとされます。専門家会議の全88名の議員に対して「繰り返しの接触と心理的・政治的圧力」をかけ、最終的に59名がモジュタバ氏に投票する結果を導いたと報じられています。

3人組の結束と狙い

この3人に共通するのは、全員が革命防衛隊の出身であり、故ハメネイ師に忠誠を誓っていた点です。モジュタバ新最高指導者の就任を主導した「キングメーカー」であると同時に、新体制下で軍事・政治の両面から実権を握る存在となっています。米国が交渉相手として注目するのも、形式上のトップであるモジュタバ師ではなく、実際に意思決定を行うこの3人組だと見られています。

トランプ政権の15項目和平案の全容

米国側の要求事項

トランプ政権が3月24日にパキスタンの仲介者を通じてイランに提示した15項目の和平案は、以下の主要項目を含んでいます。

まず、30日間の停戦が求められています。その間にイランは、ナタンズ、イスファハン、フォルドゥの3つの主要核施設を解体し、核兵器を「永久に開発しない」ことを約束する必要があります。さらに、濃縮済みウランの全量を国際原子力機関(IAEA)に引き渡し、残りの核インフラについてもIAEAによる恒久的な監視を受け入れることが条件です。

核問題に加え、弾道ミサイルの製造停止、ミサイルプログラムの制限、ホルムズ海峡の再開放も要求されています。さらに、ヒズボラ、ハマス、フーシ派など地域の代理勢力への資金援助の停止も含まれています。

米国側の見返り

これらの条件を受け入れた場合、米国はイランに対する全ての国際制裁を解除し、民生用原子力プログラムの支援と監視を行うことを約束しています。また、スナップバック制裁(国連安保理決議に基づく制裁の自動復活メカニズム)の脅威も取り除くとしています。

パキスタンの仲介役

今回の和平案の伝達にはパキスタンが仲介役を務めました。パキスタンのシャリフ首相は米国とイランの間の調停役を申し出ており、今週中にもイスラマバードで対面会合を開く方向で調整が進んでいます。報道によれば、米国からバンス副大統領、イランからガリバフ国会議長が出席する可能性があるとされています。

イラン側の反応と5項目の対案

即座の拒否と「最大主義的」批判

イランは米国の15項目和平案を受け取ってから24時間も経たずに公式に拒否しました。イラン外務省は同提案を「極めて最大主義的で不合理」と批判しています。イランの立場としては、核施設の完全解体やミサイルプログラムの制限は国家主権の侵害であり、到底受け入れられるものではないというものです。

イランの5項目対案

拒否と同時に、イラン側は独自の5項目の対案を提示しました。その内容は、第一にイラン高官に対する殺害行為の停止、第二に今後イランに対する戦争が行われないことの保証、第三に戦争被害に対する賠償金の支払い、第四に敵対行為の終結、第五にホルムズ海峡に対するイランの主権の承認です。

この対案は米国の提案とは根本的に異なる立場に立っており、特に「賠償金」と「ホルムズ海峡の主権」という要求は、米国が容易に受け入れられるものではありません。

ホルムズ海峡の部分的再開

一方で、イランは交渉姿勢の一端として、ホルムズ海峡の部分的な再開を発表しました。「非敵対的な船舶」については、イラン当局との調整のもとで通過を認めるという内容です。しかし、紛争前には1日平均120隻が通過していた同海峡を、3月24日時点で通過したのはわずか9隻にとどまっており、約400隻の船舶が海峡の外で待機している状態です。原油価格の高騰は依然として続いており、世界経済への影響は深刻です。

注意点・今後の展望

交渉の主体は誰なのか

今回の情勢で注意すべきは、イランの公式な立場と実際の権力構造のずれです。モジュタバ・ハメネイ新最高指導者は形式上のトップですが、宗教的権威が十分でなく、実際の意思決定はIRGC出身の強硬派が主導しています。米国がガリバフ氏ら「3人組」を交渉相手と見なすのは、この権力構造の実態を反映したものです。

ただし、イラン側は公式には米国との交渉自体を否定しています。トランプ大統領が「現在交渉中」と発言する一方、イラン外相は「米国との協議は行っていない」と明確に否定しています。この食い違いが今後の交渉にどう影響するかは不透明です。

和平実現への高いハードル

15項目の和平案と5項目の対案には根本的な隔たりがあります。米国は核施設の完全解体を求める一方、イランは主権の承認と賠償を要求しています。双方の立場が大きく離れている現状では、短期間での合意は難しいと見られます。

ホワイトハウスのレヴィット報道官は、イランの公式な拒否にもかかわらず「交渉は生産的に進んでいる」と述べており、水面下での接触が続いている可能性もあります。パキスタンでの対面会合が実現するかどうかが、次の大きな転換点となるでしょう。

まとめ

ハメネイ師暗殺後のイランでは、革命防衛隊出身のガリバフ国会議長、ヴァヒディIRGC新司令官、タエブ元IRGC情報機関トップの「3人組」が実権を握っています。トランプ政権はこの3人組を実質的な交渉相手と見なし、15項目の和平案を提示しましたが、イランは即座に拒否して5項目の対案を出しました。

核施設解体やホルムズ海峡の主権など、双方の要求には大きな隔たりがあります。パキスタンの仲介による対面会合が実現するか、そしてホルムズ海峡の完全な再開が進むかが、今後の中東情勢を左右する重要なポイントです。

参考資料:

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