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駆逐艦「照月」83年ぶりに海底で発見の全容

by 中村 壮志
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2025年7月の照月発見と鉄底海峡調査

2025年7月、南太平洋ソロモン諸島ガダルカナル島沖の海底から、83年間行方不明だった旧日本海軍の駆逐艦「照月」が発見されました。調査を行ったのは、海洋探査の第一人者として知られるロバート・バラード博士率いるオーシャン・エクスプロレーション・トラストのチームです。

照月が眠っていたのは「鉄底海峡(アイアンボトム・サウンド)」と呼ばれる海域です。第二次世界大戦中に多数の艦船が沈んだことからその名がついたこの海峡で、日米豪の沈没船13隻を対象とした大規模調査が実施されました。本記事では、照月発見の詳細と、この調査が持つ歴史的・技術的意義を解説します。

駆逐艦「照月」とは何だったのか

秋月型駆逐艦の精鋭

照月は、旧日本海軍の秋月型駆逐艦の2番艦として1942年8月31日に竣工しました。「照月」という艦名は「照り輝く月」を意味します。全長134メートルの秋月型は、空母を航空攻撃から守る防空駆逐艦として設計された当時最新鋭の艦艇でした。

竣工後、照月は第61駆逐隊に編入され、太平洋戦争の激戦地へと投入されていきます。特にソロモン諸島方面での作戦において重要な役割を果たしました。

田中頼三少将と鼠輸送作戦

照月の最後の任務は、ガダルカナル島への物資輸送作戦でした。当時、日本軍はガダルカナル島の飢餓状態にある守備隊へ補給を届けるため、駆逐艦にドラム缶を搭載して高速で往復する「鼠輸送」と呼ばれる作戦を繰り返していました。

照月は第二水雷戦隊の旗艦として、田中頼三少将の座乗艦を務めていました。田中少将は生粋の水雷屋として知られ、1942年11月のルンガ沖夜戦では数的劣勢を覆して米艦隊に大打撃を与えた名将です。しかしこの勝利も、輸送任務を中断したとして海軍上層部から叱責を受けるなど、前線指揮官として苦悩の日々を送っていました。

1942年12月12日の最期

1942年12月12日夜、照月は輸送艦隊を護衛してガダルカナル島沖に到達しました。しかし、待ち構えていた米軍魚雷艇からMk-8魚雷2本が命中し、舵が破壊されて火災が発生します。田中少将と大部分の乗組員は退艦に成功しましたが、9名の乗組員が命を落とし、照月は鉄底海峡の海底へと沈んでいきました。秋月型駆逐艦として最初の喪失艦となりました。

83年ぶりの発見と新たな歴史的発見

最先端技術が可能にした探査

照月の発見は、探査船ノーチラス号による22日間の大規模調査の一環として実現しました。調査チームは遠隔操作型無人潜水機(ROV)と、ニューハンプシャー大学が開発した全長7.7メートルの無人水上艇「DriX」を組み合わせて使用しました。

DriXにはEM712マルチビームソナーが搭載されており、ホニアラの陸上管制センターから遠隔操作が可能です。この技術により、鉄底海峡の1,000平方キロメートル以上の海底がマッピングされ、史上最高解像度の海底地図が作成されました。数十カ所の潜在的な沈没船候補地が特定され、その中から照月が発見されたのです。

沈没原因の定説を覆す発見

水深800メートル以上の海底で発見された照月の状態は、長年の定説を覆すものでした。船体本体から約200メートル離れた場所で、全長約19メートルの艦尾部分が発見されました。その周囲には未使用の爆雷が散乱していました。

従来、照月の沈没は搭載していた爆雷の誘爆が決定的な原因だったとする説が有力でした。しかし、未使用の爆雷が散乱している状態が確認されたことで、魚雷の直撃によって艦尾が切断され、爆雷の誘爆ではなく魚雷被害そのものが沈没の主因であった可能性が浮上しました。83年の時を経て、新たな証拠が歴史の定説を書き換えようとしています。

13隻の沈没船調査の全容

今回の調査では照月だけでなく、合計13隻の沈没船が調査されました。そのうち4隻は今回初めて映像で記録されました。主な調査対象には、米重巡洋艦ニューオーリンズの艦首部分、豪重巡洋艦キャンベラ、米駆逐艦ド・ヘイブンなどが含まれています。

この調査は、米国、日本、オーストラリア、ニュージーランド、ソロモン諸島の国際的な協力体制のもとで実施されました。NOAAの海洋探査プログラムや米海軍歴史遺産コマンドも参加しており、軍事史研究と海洋考古学の両面で画期的な成果となっています。

鉄底海峡の戦没者墓所と深海探査技術

鉄底海峡の歴史的重要性

鉄底海峡は、1942年8月から12月にかけて5つの大規模海戦が行われた海域です。この期間に111隻以上の艦船と1,450機の航空機が失われ、2万人以上が命を落としました。ガダルカナル島の戦いは太平洋戦争の転換点として知られ、鉄底海峡はその最も激しい戦闘の舞台でした。

海底に眠るこれらの艦船は、単なる残骸ではなく戦没者の墓所でもあります。調査は敬意を持って行われており、遺物の回収は行われていません。

今後の調査への期待

今回の調査で作成された高解像度の海底地図には、まだ特定されていない多数の潜在的沈没船候補が記録されています。鉄底海峡にはなお多くの未発見の艦船が眠っているとされ、今後の技術発展と追加調査によって新たな発見が期待されます。

また、ROVやDriXといった無人探査技術の進歩は、深海考古学の可能性を大きく広げています。従来はダイバーが到達できなかった水深800メートル以上の深海でも、高精細な映像記録と詳細な調査が可能になりました。

照月発見が迫る沈没原因再考と国際協力

駆逐艦「照月」の83年ぶりの発見は、最新の海洋探査技術が歴史の空白を埋める力を持つことを示しました。艦尾の分離状態や未使用爆雷の散乱といった物理的証拠は、沈没原因に関する従来の定説に再考を迫るものです。

鉄底海峡に眠る13隻の沈没船調査は、日米豪を含む国際的な協力のもとで実施され、かつての敵同士が共に歴史を解明するという象徴的な意味も持っています。太平洋戦争の記憶を次世代に伝え、戦没者への敬意を新たにする上で、この発見は大きな意義を持つと言えるでしょう。

参考資料:

中村 壮志

国際情勢・地政学・安全保障

中東・米中関係を中心に国際情勢を取材。地政学リスクが日本経済に与える影響を、現地の視点から分析する。

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