女性専用ジムカーブスが高継続率を実現する顧客設計と収益構造の強み
はじめに
女性専用フィットネスのカーブスは、公開資料で確認できる最新の節目では2025年10月末時点で会員数91.5万人、2025年11月時点で国内2,001店舗まで拡大しています。さらに、2025年8月期の月次平均退会率は2.07%で、公式サイトでは継続率97.7%も掲げています。単に会員を集めるだけでなく、通い続けてもらう力が極めて強い事業だと分かります。
この強さは、根性論で会員を引き留めているからではありません。むしろ逆で、続かない理由を事前に細かく潰している点に特徴があります。スポーツ庁の調査では、運動頻度を増やせない理由の上位に「仕事や家事が忙しい」「面倒くさい」が並び、厚生労働省の調査でも女性の歩数は長期で減少傾向です。カーブスは、こうした障壁を前提に商品と運営を組み立てています。本記事では、公開情報と調査資料を基に、その継続率経営の中身を読み解きます。
継続率を支える市場定義と商品設計
面倒を減らす30分・予約不要
カーブスの設計思想でまず目立つのは、運動そのものより「始めるまでの面倒」を小さくしていることです。1回30分、予約不要、決まったプログラム、生活商圏への出店という組み合わせで、会員は「今日は何をやるか」「何分確保するか」「遠くまで行くか」を考え込まずに済みます。一般的な総合ジムでは、器具の選択や滞在時間の設計が利用者任せになりがちですが、カーブスはその自己管理コストをあえて肩代わりしています。
この発想は、スポーツ庁調査の結果とよくかみ合います。2024年3月公表の令和5年度調査では、20歳以上の週1回以上の運動・スポーツ実施率は52.0%で、女性は49.4%にとどまりました。実施頻度を増やせない理由は「仕事や家事が忙しい」が37.2%、「面倒くさい」が27.4%です。カーブスの商品は、まさにこの2つの壁を正面から処理しています。短時間、予約不要、近場という仕様は、運動能力の高さよりも生活導線への収まりを優先した設計です。
50代以上女性に絞る明確な市場定義
もう1つ重要なのは、狙う顧客を広げ過ぎていない点です。カーブスホールディングスは、自社の主力顧客を「50歳以上の女性を中心」と明示しています。若くて運動経験のある層ではなく、体力低下や将来の介護不安を意識し始める層に焦点を当てています。中期ビジョンでも「競争しない競争戦略」を掲げ、既存店成長を軸に2030年8月期に女性向けカーブスで105万人を目指す方針です。
この絞り込みは、広告効率と商品開発の両面で効きます。会員の悩みが似ていれば、訴求軸は「減量」だけでなく「筋肉低下」「関節の不安」「病気と介護の予防」に寄せやすくなります。カーブスの公式説明でも、女性の筋肉減少や健康課題を前提に、筋力トレーニング、有酸素運動、ストレッチを30分で完結させる構成が示されています。誰にでも合う万能ジムではなく、特定の不安に応える専門店に近い立ち位置です。これが価格競争よりも納得感を生み、退会の抑制につながっているとみられます。
やめにくさを生む支援体制と収益構造
コーチと地域密着FCが作るコミュニティ
カーブスの継続率を考えるうえで、店舗網と人の配置は欠かせません。中期ビジョンによれば、チェーンは地域密着のフランチャイズ加盟店350社、コーチ8,000名強で支えられています。しかも公式サイトでは、女性専用であること、コーチが常時サポートすること、女性同士のコミュニティがあることを前面に出しています。ここに、一般的な「会費を払って設備を使う場所」とは違う強みがあります。
運動習慣は一人で完結させるほど離脱しやすくなります。カーブスは、会員が店舗に着けば迷わず始められ、コーチが声をかけ、顔見知りの空気がある状態をつくっています。これは厳密には設備ビジネスというより、伴走型サービスです。会員がやめるときは「運動をやめる」だけでなく「関係を離れる」ことになるため、退会の心理的ハードルが上がります。公開資料で月次平均退会率2.07%という低水準が示されている背景には、この人的接点の厚さがあると考えるのが自然です。
顧客満足度とLTVを高める物販・エビデンス
継続を支えるのは雰囲気だけではありません。カーブスは、日本生産性本部の2025年度JCSI調査でフィットネスクラブ業種の顧客満足1位となり、11年連続首位を続けています。満足度の高さは、単なる接客評価ではなく、「続ける理由」が可視化されていることの裏返しでもあります。
その理由の1つが、健康効果の説明責任を果たしている点です。カーブスホールディングスは、共同研究の結果として、サーキットトレーニング頻度が高い中高齢女性ほど2型糖尿病予防効果が高い可能性や、平均歩数が859歩増、6分間歩行が57.8メートル改善した研究結果などを公表しています。会員にとっては「痩せるかどうか」だけでなく、「将来の不安に効く運動か」が重要です。科学的根拠を示せることは、中高年層の継続動機と相性が良いといえます。
加えて、同社は退会率の低下と並行してLTV向上を重視し、プロテインやヘルシービューティなど会員向け物販を拡大してきました。2025年8月期の会員向け物販売上は229億円です。ここで重要なのは、物販が単なる追加販売ではなく、「運動」「食事」「体調管理」をひと続きの体験として囲い込む役割を果たしている点です。店舗に通う頻度、コーチとの会話、食品の定期購入がつながるほど、会員接点は増え、退会しにくい構造になります。カーブスの継続率経営は、月会費だけで成り立つモデルではなく、健康習慣全体を束ねるLTV設計だと整理できます。
注意点・展望
もっとも、このモデルは自動的に回るわけではありません。成長の前提は、店舗ごとの接客品質とフランチャイズ運営のばらつきを抑え続けることです。コーチの声かけや店舗の雰囲気が弱まれば、30分・予約不要という機能価値だけでは差別化が薄れます。会員数をさらに積み上げる局面ほど、現場品質の維持が経営課題になります。
一方で外部環境は追い風です。中期ビジョンでは、50〜79歳人口が約5,000万人規模に達する日本の人口構造を市場機会として示しています。PR資料でも、団塊ジュニア世代が50歳を超え主力顧客層に入ってきたことが強調されました。今後の焦点は、こうした需要を取り込むだけでなく、若い層も含めた新規顧客へどう広げるか、そしてメンズ・カーブスや新業態へ同じ継続率の思想を移植できるかに移ります。
まとめ
カーブスの秘密は、「続けましょう」と励ます精神論ではありません。忙しい、面倒、何をすればよいか分からない、効果に確信が持てない、といった離脱要因を商品設計の段階で減らし、コーチと地域密着店舗で継続を支える仕組みにあります。女性専用、30分、予約不要、科学的根拠、コミュニティ、物販をつないだ結果が、高い継続率とLTVに表れています。
他業種の視点で見ても示唆は明確です。新規獲得の巧拙より先に、顧客が途中でやめる理由をどこまで具体的に潰せるかが重要だということです。カーブスは、フィットネス事業でありながら、実際には「続けられる健康習慣」を売っている企業だと捉えると、その強さがよく見えてきます。
参考資料:
- 女性専用フィットネスクラブ・スポーツジムなら30分健康フィットネスのカーブス
- カーブスとは|株式会社カーブスホールディングス
- 3分でわかるカーブス|株式会社カーブスホールディングス
- マテリアリティ1:地域密着の健康インフラとしてお客様と社会の心身の健康への貢献|株式会社カーブスホールディングス
- カーブスグループ中期ビジョン2030年・2035年 成長戦略・事業計画
- カーブス、会員数91.5万人・業績ともに過去最高を更新 国内店舗数も再び2,000店舗を超える
- 2025年度 JCSI(日本版顧客満足度指数)第3回調査結果|公益財団法人日本生産性本部
- 令和5年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」の結果を公表します|スポーツ庁
- 令和5年「国民健康・栄養調査」の結果|厚生労働省
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