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カーブスの高継続率を生む採用・育成・定着設計を3原則で解剖

by 田中 健司
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はじめに

カーブスは、2025年10月末時点で会員数91.5万人、2025年11月時点で国内2,001店舗に到達した大型チェーンです。しかも、同社はフィットネスクラブ業種で11年連続の顧客満足度1位を掲げ、公式サイトでは継続率97.7%という数字も示しています。ただしこの継続率は、2020年9月から2021年8月までの月次平均退会率をもとに算出した値です。いま重要なのは、その数字だけを称賛することではなく、なぜ会員が通い続け、現場が回り続けるのかを人材面から読み解くことです。

背景には、日本の運動習慣の弱さがあります。厚生労働省の令和5年国民健康・栄養調査では、運動習慣のある女性は28.6%にとどまりました。運動を始める以前に、続ける仕組みが足りない市場だということです。カーブスはこの難題に対し、設備よりも人を中心に据えた設計で答えてきました。本稿では、同社の公開情報から見える3つの原則を整理します。

原則1 価値観優先の採用設計

スキルより先に置かれる共感力

カーブスの採用サイトを見ると、求める人物像として前面に出てくるのは、トレーナー経験や競技歴ではありません。目の前の人を笑顔にしたい、誰かの夢や目標を支えたい、チームで地域に愛される店舗をつくりたい、といったサービス精神と共感力です。実際、採用導線でも「メンバーさんと一緒に喜び合いたい」と感じる人が向いていると明示しています。

この順番は重要です。カーブスの主顧客は50歳以上の女性で、運動が得意な人よりも、運動に不安がある人の方が多いからです。必要なのは、専門用語を並べる指導者ではなく、不安を言語化し、通う意味を日々確認してくれる伴走者です。会員継続は価格やマシン性能だけでなく、「今日も来てよかった」と感じさせる対人接点で決まります。採用段階でそこを見極めることが、退会率の低さにつながる土台になります。

企業理念と現場の一致

同社は経営理念で「正しい運動習慣を広めること」を掲げ、地域密着の健康インフラを目指すと説明しています。採用でも、単なる接客業ではなく、健康寿命の延伸や介護不安の軽減に関わる仕事として位置づけています。理念が抽象論にとどまらず、採用基準や仕事の意味づけまで一貫している点が特徴です。

人材確保が難しい時代ほど、賃金だけで人は集まりにくくなります。カーブスが比較的強いのは、応募者に対し「何を売る会社か」より「誰の人生をどう支える仕事か」を提示しているからです。仕事の社会的意味が明確だと、入社後の納得感も高まりやすく、離職抑制にも効きます。

原則2 未経験前提の標準化育成

9割超未経験でも回る教育体系

カーブス採用サイトでは、9割以上のコーチが未経験スタートと明示されています。これは、人材不足のなかで募集母集団を広く取れるという意味で強い設計です。一方で、未経験採用を増やすだけでは現場品質は不安定になります。そこで同社は、初期研修をかなり細かく標準化しています。

教育制度のページでは、価値観研修、7つの習慣研修、マナー研修に続き、接客講義、運動生理学、マシン指導、ロールプレイングまで並びます。さらに初期研修後も、役割別のリーダー研修やマネージャー研修、集合研修、オンライン研修、チェーン全体の学習機会が設計されています。持株会社のサステナビリティ開示でも、フランチャイズ加盟店を含めて集合研修とEラーニングを整備していると説明しています。

属人化を防ぐ運営モデル

カーブスの店舗運営は、1回30分、予約不要、油圧式マシン、決まったプログラムという形で標準化されています。運動指導のすべてを個人の経験や勘に委ねる業態ではありません。つまり、採用の間口は広く、教育は体系化し、現場運営は再現性高くするという三層構造になっています。

この設計の利点は、優秀なスターコーチへの依存を減らせることです。どの店舗でも一定水準の接客とサポートを出しやすく、異動や退職があってもサービスの質が崩れにくい。会員から見れば、「あの人が辞めたから通う理由がなくなる」というリスクが下がります。継続率を高めるには、顧客接点の温かさと同時に、現場品質の再現性が欠かせません。

原則3 辞めにくい働き方の制度設計

女性就業を前提にした勤務条件

カーブスの人的資本開示で目を引くのは、創業初期から「女性が輝く職場No.1」を重要戦略に据えてきた点です。具体策として挙げられているのが、正社員採用、週休2日、日祝休み、夜間勤務なしです。採用サイトでも、全店舗で日祝休み、早朝・深夜残業なし、原則転勤なし、産休・育休実績多数と打ち出しています。

これは福利厚生の美談ではなく、事業モデルそのものです。顧客も従業員も女性中心である以上、働き方が生活と両立できなければ、安定的な店舗運営は成り立ちません。接客業やフィットネス業界では、遅番や休日勤務が離職要因になりがちです。そこを早くから反転させたことが、採用競争力と定着率の両方を押し上げたと考えられます。

評価と対話の仕組み

同社は72段階の判定基準を持つ実力主義人事制度を設け、全社員が半年に1回評価とフィードバックを受けると開示しています。加えて、年2回の社員アンケート、チェーン全体の働きがいサーベイも実施しています。2025年8月期のサステナビリティ関連データでは、総従業員735人のうち女性比率は83.4%、正社員平均勤続年数は7年でした。

重要なのは、制度が採用広報だけで終わっていないことです。評価基準、対話機会、賃上げと待遇向上の方針まで公開しており、本部がフランチャイズを含めたチェーン全体の人材基盤を管理しようとしている姿勢が見えます。人が辞めにくい現場では、会員との関係が蓄積し、励ましや声かけの質も上がります。会員継続と従業員定着は、別問題ではなく同じ循環の両端です。

注意点・展望

よくある誤解は、カーブスの強さを「女性専用だから」「30分だから」と商品設計だけで説明してしまうことです。もちろん商品は分かりやすいのですが、それだけなら模倣は難しくありません。実際の差は、未経験人材を採り、育て、辞めにくくし、会員との関係資産を積み上げる仕組みにあります。

今後の焦点は2つです。1つは、91.5万人規模まで拡大したチェーンで接客品質をどう維持するかです。もう1つは、人口減少下で人材確保コストが上がるなか、賃上げと生産性向上をどう両立させるかです。カーブスは2030年に2,600店・120万人という成長目標を掲げていますが、この達成可否は出店余地よりも、現場人材をどれだけ再現性高く育成できるかに左右されるはずです。

まとめ

カーブスの高継続率は、根性論や接客の属人的な頑張りでは説明できません。公開情報から見えるのは、価値観優先の採用、未経験前提の標準化育成、生活と両立できる定着設計という3原則です。会員が続ける理由を探ると、結局は現場で支える人が辞めにくい仕組みに行き着きます。

フィットネスに限らず、継続課金型の事業を運営する企業にとっての示唆は明快です。LTVを伸ばしたければ、顧客満足だけでなく、現場人材の採用基準と育成設計まで一体で見直す必要があります。カーブスの事例は、その順番を間違えない経営の教科書になっています。

参考資料:

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