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ENEOS・クボタが新卒採用を絞る本当の理由と大和ハウスの転換

by 渡辺 由紀
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売り手市場で進む新卒採用の選別

新卒採用はなお学生優位に見えます。厚生労働省と文部科学省の調査では、2026年3月卒業予定の大学生の就職内定率は2026年2月1日時点で92.0%でした。リクルートワークス研究所の2027年卒大卒求人倍率も1.62倍で、企業側の求人が学生数を上回る構図は続いています。

それでも大企業の一部では、新卒を「広く多く採る」方針から「必要な職種に絞る」方針へ変化しています。ENEOS、クボタ、大和ハウス工業の動きは、景気後退による一律削減ではなく、要員計画、AI活用、現場人材の維持を組み合わせた人材戦略の見直しです。本稿では、公開情報から確認できる数字をもとに、新卒採用縮小の真意を読み解きます。

大手3社に共通する要員計画の再設計

ENEOSの職種別募集見送り

ENEOSの2027年卒向け大学・大学院卒募集要項では、事務系職種、電気事業技術職、セールスエンジニア、IT企画職の募集見送りが明記されています。一方で、プロセスエンジニア、メカニカルエンジニア、研究開発職など、製油所や研究開発に関わる技術系職種は募集対象として残っています。

ここで重要なのは、同社が新卒採用そのものを不要と判断したわけではない点です。2026卒の募集実績として、技術系102名程度、事務系51名程度が示されています。2022年から2025年の採用人数を見ると、技術系は78名、71名、60名、88名、事務系は63名、48名、42名、62名でした。2027卒の見送りは、過去に継続していた総合的な入口を職種単位で絞る判断と位置づけられます。

ENEOSは女性活躍推進の関連データでも、2024年度の新卒学卒採用人数を150人と公表しています。つまり、近年まで一定規模の新卒採用を続けてきた企業が、次年度は採用対象を明確に限定しているということです。石油元売りは脱炭素、発電、素材、デジタル化の各領域で事業再編を迫られています。そうした環境では、入社後に幅広く配置して育てるより、最初から必要職種を絞り込む圧力が強まります。

クボタの総合職縮小と技能系維持

クボタは2026年3月、2027年度新卒採用計画を公表しました。大卒・大学院卒の事務系は2026年4月入社予定の65名から2027年4月入社計画では15名へ、技術系は174名から45名へ減ります。合計では239名から60名となり、総合職採用は大きく縮小します。

一方で、高卒・高専卒などの技能系採用は、2026年予定の216名に対し、2027年計画は220名です。つまり、同社の採用抑制は「若手を採らない」という単純な話ではありません。事務系・技術系のホワイトカラー入口を絞り、生産体制を支える技能系の入口は維持する配分転換です。

同社は採用方針として、成長事業への重点的な人員配分、社内人材の流動化、人的資源の最適化を掲げています。事務系・技術系については、業務効率化や人員配置の見直しを優先すると説明しています。過去データを見ても、新卒総合職採用数は2023年328人、2024年333人、2025年283人と高い水準でした。大きく採った後に、次の中期的な体制を見直す局面に入ったと読めます。

大和ハウスの最小限採用から再拡大

大和ハウス工業は、2025年4月入社の新入社員が733名だったのに対し、2026年4月入社は211名でした。会社の公式ニュースルームでも、2026年度の入社式に全国から211名が集まったと公表されています。

採用担当者への公開インタビューでは、2026年採用を必要最小限に絞った背景として、各事業が本当に必要とする人数やスキルを精査したこと、グループ内の人材流動化で対応できるかを検討したことが説明されています。TACの人事担当者インタビューでは、2027年採用は400名を予定しているとされています。これは、単年度の急ブレーキで終わらせるのではなく、要員計画を再設計したうえで採用数を戻す動きです。

同社の事例から見えるのは、採用人数が経営管理のKPIそのものになっていた時代の終わりです。事業部から積み上げた希望人数をそのまま採るのではなく、どの業務にどの能力が必要か、内部異動やキャリア採用で補えるかを先に問う。その結果として新卒枠が削られる構図です。

AI時代に縮む若手の入口と残る育成価値

事務系初期業務の再定義

新卒採用縮小を語る際、AIによる仕事の代替は避けて通れません。ただし、現時点で企業全体が一斉に「AIがあるから新卒不要」と判断しているわけではありません。マイナビの2027年卒企業新卒採用予定調査では、AIが浸透しても新卒採用数は「変わらない」と答えた企業が90.3%でした。

それでも、AIが影響しやすい業務はあります。資料作成、情報整理、社内照会、定型的な分析、応募者対応などは、若手が経験を積む入口になってきました。これらの仕事がAIや業務システムに置き換わるほど、企業は「未経験者を大量に置いて学ばせる場所」を持ちにくくなります。ENEOSが事務系やIT企画職の募集を見送ること、クボタが事務系・技術系の採用を絞ることは、この入口の再定義と重なります。

マイナビの2026年卒企業新卒内定状況調査では、約2割の企業がAIによる業務代替について、現時点では新卒採用数への影響はないが今後は影響がありそうだと回答しています。まだ確定的な削減要因ではないものの、人事部門はすでにAIを将来の要員計画に織り込み始めています。

注意すべきは、AIが「人を減らす技術」だけではない点です。AIで効率化した分、新規事業や顧客対応に人を回す企業もあります。大和ハウスやクボタのように、現場や事業最前線を重視する企業では、デスクワークの効率化が現場人材への再配分を促します。採用数の減少は、人件費削減だけでなく、どこに人を置けば収益力が上がるかという配置戦略の表れです。

AIで消えない長期育成の機能

一方で、新卒採用の意義は簡単には消えません。マイナビ調査では、AI時代でも新卒採用を行う理由として「若手人材の長期育成を重視しているため」が65.1%で最多でした。「将来の幹部候補を確保するため」「組織文化や価値観の継承が必要だから」も上位に並びます。

この結果は、企業が新卒採用を単なる労働力補充と見ていないことを示します。中途採用は即戦力を補う手段として有効ですが、自社の事業構造や安全文化、顧客基盤を時間をかけて理解する人材は、新卒から育てる方が合理的な場合があります。製造、エネルギー、建設、不動産のように、法規制、安全管理、現場知識、顧客との長期関係が重要な産業ではなおさらです。

クボタが技能系採用を維持するのも、この文脈で理解できます。現場の技能や安全動作は、短期の座学だけでは身につきません。高卒・高専卒、ポリテクカレッジ卒などの若手を継続的に受け入れ、現場で育成する仕組みは、生産体制の安定に直結します。AIで代替しにくい領域ほど、新卒採用の意味は残ります。

大和ハウスが2027年採用を400名予定に戻す点も同じです。2026年の211名は、構造改革の中で要員を見極めるための縮小でした。一定数の新卒を採り続けなければ、年齢構成、育成担当者の経験、同期ネットワーク、将来の管理職候補に空白が生まれます。採用をゼロにせず、絞ったうえで再設計するところに、企業の現実的な判断があります。

即戦力化が学生に求める証拠

採用側の選別が進むと、学生に求められる準備も変わります。キャリタスの2027年卒採用方針調査では、採用活動のスタンスとして「採用予定人数の確保より学生の質を優先」が72.1%でした。採用数を埋めることより、職務や組織に合う人を厳選する姿勢が強まっています。

これは、学生が完成された即戦力でなければならないという意味ではありません。新卒に求められるのは、専門スキルの有無だけでなく、学び続ける力、現場を理解する姿勢、AIを道具として使う力、他者と協働する力です。マイナビ調査でも、AI時代に新卒入社社員に求める能力として「コミュニケーション力」が最多でした。

従来の総合職採用では、入社後に会社が配属を決め、学生はポテンシャルを示せばよい面がありました。これからは、どの事業領域で価値を出せるのか、なぜその職種に適性があるのかを早い段階で説明する必要があります。インターンシップ、研究テーマ、アルバイト、資格、生成AIの活用経験などを、職務に結びつく具体的な証拠として示すことが重要です。

採用抑制が招く育成空洞化と現場偏重

新卒採用を絞る判断には合理性がありますが、リスクもあります。第一に、若手の層が薄くなると、数年後の主任、係長、現場リーダー候補が不足します。中途採用で補える職種もありますが、自社固有の技術や顧客関係を担う人材は、短期間では育ちません。

第二に、採用抑制が事務系や企画系に偏ると、将来の経営人材の入口が狭くなります。AIで定型業務が減るのは事実ですが、若手が事業を理解するための基礎経験まで削ると、判断力を鍛える場が失われます。企業は、AIに任せる業務と、人が経験すべき業務を分けて設計する必要があります。

第三に、学生側の情報格差が広がります。職種別採用や厳選採用が進むほど、早くから企業研究や専門学習にアクセスできる学生が有利になります。採用市場全体では内定率が高くても、大企業の人気職種では競争が激しくなります。大学や企業は、低学年から職務理解を支援し、単なる早期囲い込みにしない配慮が求められます。

企業にとっても、採用人数を減らすだけでは人材戦略になりません。どの業務をAIで効率化し、どの職務に若手を配置し、どの能力を何年で育てるのか。ここまで示せなければ、優秀な学生は成長機会を感じにくくなります。採用抑制は、育成設計の精度とセットで初めて効果を持ちます。

学生と企業が確認すべき人材価値

新卒採用減の本質は、新卒不要論ではありません。ENEOSは職種別に入口を絞り、クボタは総合職を抑えつつ技能系を維持し、大和ハウスは要員計画を見直したうえで一定数の採用を続けています。共通するのは、人数ありきの採用から、事業に必要な人材を起点にした採用への転換です。

学生は「有名企業に入る」だけでなく、どの職種で何を学び、AIや現場知識をどう使って価値を出すかを言語化する必要があります。企業は採用数の増減だけでなく、若手に任せる仕事、育成期間、キャリアの広がりを明確に示すべきです。新卒採用は縮むのではなく、より説明責任の重い制度へ変わっています。

参考資料:

渡辺 由紀

雇用・人材戦略・キャリア

雇用・人材戦略・キャリアを専門に取材。高専人材の争奪戦から中途採用市場の変化まで、「働く」を取り巻く構造変化を解き明かす。

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