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「絶望死」が止まらない米白人労働者とトランプ支持の深層

by 田中 健司
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はじめに

米国では「絶望死(Deaths of Despair)」と呼ばれる現象が深刻化しています。薬物の過剰摂取、アルコール依存症、自殺の3つに起因する死亡が、特に大学学位を持たない白人労働者層で急増しているのです。1995年に年間約6万5000人だった絶望死は、2018年には15万8000人を超えました。

注目すべきは、この絶望死の増加率とトランプ大統領への支持率に強い相関関係があることです。第2次トランプ政権が発足して1年余り、彼らの生活と支持の行方はどうなっているのでしょうか。

「絶望死」とは何か——米国社会の深い病

概念の誕生と実態

「絶望死」という概念は、プリンストン大学のアン・ケース教授とノーベル経済学賞受賞者のアンガス・ディートン教授が2015年に発表した研究に端を発します。両教授は、大学学位を持たない中年白人の死亡率が1990年代後半から上昇に転じていることを発見しました。先進国では死亡率が低下し続けるのが通常であり、この逆転現象は衝撃を与えました。

絶望死を構成する3つの要因は、薬物の過剰摂取(特にオピオイド系鎮痛剤)、アルコール性肝疾患、そして自殺です。これらは個別の問題ではなく、共通する社会経済的な苦境が根底にあるとされています。

アパラチア地域の深刻な状況

米国アパラチア地域委員会(ARC)の2025年報告書によると、アパラチア地域の絶望死の死亡率は全米平均を大幅に上回っています。2017年の時点で、アパラチア地域の絶望死の死亡率は非アパラチア地域より45%高く、その格差は年々拡大しています。

特にウェストバージニア州、オハイオ州、ペンシルベニア州、ケンタッキー州のアパラチア地域は、全米で最も薬物過剰摂取による死亡率が高い州に数えられています。ペンシルベニア州南西部の地方都市では、かつて炭鉱や製鉄所で栄えたコミュニティが衰退し、雇用喪失とともに薬物やアルコールの問題が蔓延しています。

絶望死とトランプ支持の相関

統計が示す明確な関係

学術研究は、絶望死の増加とトランプ支持の間に強い相関を示しています。2016年の大統領選挙に関する分析では、1980年から2014年にかけての平均寿命の変化と各郡のトランプ得票率の間に、マイナス0.67という強い負の相関が認められました。つまり、平均寿命が低下した地域ほどトランプ氏への投票率が高かったのです。

共和党が得票を伸ばした郡の住民は、民主党が伸びた郡の住民と比べて、アルコール・薬物・自殺で死亡する確率が2.5倍高いことも判明しています。

なぜトランプ氏を支持するのか

絶望死が蔓延する地域の住民がトランプ氏を支持する理由は複合的です。第一に、製造業の海外移転やグローバル化によって安定した雇用を失った層にとって、「アメリカ・ファースト」のメッセージは切実な訴えに響きました。

第二に、ワシントンのエリート層や既存政治家への強い不信感があります。ケースとディートンの研究が指摘するように、大学学位を持たない労働者層は賃金の低下、コミュニティの崩壊、婚姻率の低下を経験してきました。自由市場資本主義が自分たちのために機能していないという実感が、既存の政治体制を否定するトランプ氏への支持につながったのです。

第三に、米国の医療制度の問題があります。高額な医療費が労働者階級の家計を圧迫し、適切な依存症治療やメンタルヘルスケアにアクセスできない状況が続いています。

第2次トランプ政権下の現状

変化する支持構造

第2次トランプ政権発足から1年余り、白人労働者層の支持に変化の兆候が見られます。フォックスニュースの世論調査によると、大学学位を持たない白人有権者のトランプ大統領への支持率は49%対51%と、不支持が支持を上回る状況になっています。

ピュー・リサーチ・センターの調査でも、トランプ氏の岩盤支持層とされる白人福音派の支持率が、2025年2月の66%から58%へと8ポイント低下しました。政権全体の支持率も就任時の52%から2026年1月には42%まで下落しています。

支持が揺らぐ背景

支持率低下の背景には、政権の政策が白人労働者層の生活改善に直結していないという不満があります。移民取り締まり強化への不支持が6割近くに達し、イラン軍事行動の長期化への懸念も広がっています。

一方で、構造的な問題は変わっていません。オピオイド危機は依然として深刻であり、製造業の雇用回復も限定的です。「アメリカを再び偉大に」というスローガンの恩恵を実感できない層が増えているにもかかわらず、民主党への乗り換えも起きにくいのが現状です。

注意点・今後の展望

絶望死の問題を理解する上で重要なのは、これが単なる個人の健康問題ではなく、社会経済構造の問題だという点です。雇用の質の低下、コミュニティの崩壊、医療アクセスの格差といった複合的な要因が絡み合っています。

よくある誤解として、オピオイド危機だけが原因だと考えられがちですが、2025年12月に発表された研究によると、絶望死はオピオイド危機よりもはるかに前から増加傾向にありました。薬物だけでなく、アルコール依存や自殺の増加も含めた包括的な対策が求められています。

2026年11月の中間選挙に向けて、白人労働者層の票の行方は大きな焦点です。トランプ政権の政策が生活改善に結びつかなければ、投票棄権という形で政治離れが進む可能性もあります。ただし、既存政治への根深い不信感を考えると、この層が民主党に大きく流れるシナリオも考えにくく、米国政治の分極化がさらに進む展開が予想されます。

まとめ

米国の「絶望死」は、グローバル化と産業構造の変化に取り残された白人労働者層の苦境を象徴する現象です。薬物・アルコール・自殺による死亡の増加は、経済的な絶望感、コミュニティの崩壊、医療アクセスの格差が複合的に作用した結果といえます。

この絶望感がトランプ氏への支持を生み出しましたが、第2次政権下で支持率に陰りが見えています。根本的な問題解決には、雇用の質の改善、依存症治療へのアクセス拡大、地域コミュニティの再建といった構造的な取り組みが不可欠です。中間選挙を前に、政治がこの危機にどう向き合うかが問われています。

参考資料:

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