イラン攻撃で原油高騰、金融市場の混乱はいつまで続くのか
はじめに
2026年2月28日に米国とイスラエルがイランへの軍事攻撃を開始して以降、世界の金融市場は大きな混乱に見舞われています。ブレント原油先物は攻撃前の1バレル67ドル前後から一時120ドル近くまで急騰し、約80%もの上昇を記録しました。3月19日には一時119ドルを超える場面もあり、原油価格は依然として高水準で推移しています。
原油価格の高騰は株式市場・債券市場・為替市場にも波及し、各市場で振れの大きい展開が続いています。この背景には「戦争プレミアム」と呼ばれる不確実性の上乗せがあります。本記事では、イラン攻撃をめぐる原油市場の動向と金融市場全体への影響、そして今後の見通しについて解説します。
原油価格高騰の背景と「戦争プレミアム」の実態
ホルムズ海峡封鎖がもたらした供給ショック
原油価格が歴史的な高騰を見せている最大の要因は、世界の石油輸送の要衝であるホルムズ海峡の事実上の封鎖です。3月2日にイラン革命防衛隊がホルムズ海峡の封鎖を宣言し、世界の石油供給量の約20%、そして相当量のLNG(液化天然ガス)輸送が停止しました。
さらに3月18日には、イランがカタールの世界最大級のLNG輸出施設であるラスラファン工業都市をミサイル攻撃し、カタールのLNG輸出能力の17%に被害が生じたと報じられています。イスラエルもイランの南パルスガス田を攻撃するなど、エネルギーインフラへの直接攻撃が相次いでいます。
戦争プレミアムの構造
現在の原油価格には、実際の需給バランスに加えて「戦争プレミアム」と呼ばれる不確実性の上乗せ分が含まれています。市場関係者の分析によれば、軍事的な緊張状態が継続するだけで、常に1バレルあたり5〜10ドルの不確実性プレミアムが価格に内包され続けるとされています。
3月19日の市場では、イスラエルのネタニヤフ首相がホルムズ海峡の再開を支援する意向を示したことで、ブレント原油が一時119ドルから104ドル台まで急落する場面がありました。このように、地政学的な発言や動向ひとつで大きく振れる不安定な状況が続いています。
株式・債券・為替市場への波及効果
株式市場:リスクオフの流れが鮮明に
原油価格の急騰を受けて、世界の株式市場はリスクオフの姿勢を強めています。3月19日のS&P500指数は前日比0.9%下落し、原油高によるコスト増への懸念が重しとなりました。日本市場でも日経平均株価やTOPIXが下落基調にあり、特にAI関連銘柄など成長株への調整売りが広がっています。
一方で、エネルギー関連株や防衛関連銘柄は買いを集めており、セクター間の明暗が分かれています。航空株や消費関連株は原油高によるコスト増の直撃を受け、軟調な展開が続いています。
債券市場:利下げ期待と景気懸念が交錯
債券市場では、地政学リスクの高まりを受けた安全資産への逃避買いと、原油高によるインフレ再燃への懸念が交錯しています。米10年国債利回りは2025年4月以来の低水準を記録する場面があり、景気減速への警戒感が強まっていることを示しています。
原油価格の上昇が長期化すれば、世界的なインフレの再燃につながる可能性があります。市場では「米国が利下げどころか利上げに追い込まれるのではないか」との声も出始めており、金融政策の先行きに対する不透明感が債券市場のボラティリティを高めています。
為替市場:「有事の円買い」は機能せず
為替市場では、従来の「有事の円買い」が機能しない異例の展開が起きています。通常、地政学リスクが高まると安全通貨とされる円が買われる傾向がありますが、今回は円がむしろ下落し、対ドルで159円台後半まで円安が進みました。
この背景には、日本が原油輸入の約94%を中東地域に依存しているという構造的な脆弱性があります。原油高騰による貿易赤字の拡大観測が円売り圧力となり、有事のドル買い需要も相まって、円安方向の力が強く作用しています。
日本経済への影響:エネルギー安全保障の試練
物価・家計への直撃
原油価格の高騰は日本の物価に直接的な影響を与えます。野村総合研究所の試算によれば、イラン情勢による原油価格上昇は日本の実質GDPを1年間で0.18%押し下げ、物価を0.31%押し上げるとされています。
具体的には、ガソリン価格は全国レギュラー平均で1リットル200円を超える水準まで上昇する可能性が指摘されています。ドバイ原油が110ドルまで上昇した場合、1リットル204円前後になるとの試算もあります。電気代やガス代も半年から1年程度の間に1割を超える上昇となる可能性があり、家計への負担増は避けられません。
エネルギー安全保障の課題
日本は254日分の石油備蓄を保有しており、直ちにエネルギー供給が途絶えることはありません。しかし、ホルムズ海峡の封鎖が長期化した場合、タンカーの代替航路確保や調達先の多様化が急務となります。日本のタンカーの約8割がホルムズ海峡を通過しているため、封鎖の影響は甚大です。
政府はガソリン補助金の延長・拡充などの物価高対策を講じていますが、原油高騰がこれらの対策効果を相殺してしまうリスクがあると第一生命経済研究所の熊野英生氏は指摘しています。
注意点・今後の展望
短期的な見通し
3月23日からの週も、米国・イスラエルとイランの軍事衝突の行方と原油価格への影響が金融市場の最大の関心事となりそうです。イスラエルがホルムズ海峡の再開支援に動いているとの報道は市場に一定の安心感を与えていますが、イラン側は「新たな方法で戦争をエスカレートさせる」と表明しており、予断を許さない状況です。
一部のアナリストは原油価格が200ドルに達する可能性すら排除できないとの見方を示しており、市場の不確実性は極めて高い状態が続いています。
注意すべきポイント
投資家や市場参加者が注意すべき点として、原油価格の乱高下に伴うポジション管理の重要性が挙げられます。3月19日のように1日で119ドルから104ドルまで急落するような激しい値動きが日常化しており、過度なレバレッジやポジションの偏りは大きなリスクとなります。
また、原油高がスタグフレーション(景気停滞とインフレの同時進行)を引き起こすリスクにも目を向ける必要があります。各国中央銀行の金融政策対応が困難になる中、市場の方向感が定まりにくい展開が当面続く見通しです。
まとめ
米国・イスラエルによるイラン攻撃とホルムズ海峡の事実上の封鎖により、原油価格には「戦争プレミアム」が上乗せされ、高水準での推移が続いています。この原油高は株式・債券・為替の各市場に波及し、ボラティリティの高い相場環境を生み出しています。
日本にとっては、中東依存度の高いエネルギー調達構造がリスク要因として改めて浮き彫りになりました。今後の展開は軍事情勢に大きく左右されますが、戦争プレミアムが原油価格に上乗せされ続ける限り、金融市場の大きな振れは避けられないでしょう。市場参加者はリスク管理を徹底しつつ、情勢の変化に柔軟に対応できる態勢を整えておくことが重要です。
参考資料:
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