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日本食は老年期うつを防ぐのか緑黄色野菜と大豆食品の最新研究解説

by 藤田 七海
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老年期うつ5.9%と日本食研究の焦点

高齢化が進む日本では、身体の病気だけでなく、老年期のこころの不調への備えが重要になっています。WHOは2025年8月のファクトシートで、70歳以上の成人の5.9%がうつ病を経験しているとしています。こうしたなか、北海道大学などの研究チームは、日本の高齢者を約5年間追跡し、日本食への順守度が高い人ほど老年期うつの発症リスクが低かったと報告しました。

注目点は、「和食は体に良い」という大づかみな話ではないことです。論文では、魚介、緑黄色野菜、大豆由来食品などを含む日本食のどの要素が関連したのかまで検討しています。本稿では、この研究の中身、既存研究との整合性、そして観察研究としてどこまで言えるのかを整理します。

追跡研究が示した関連

対象集団と評価方法

論文は愛知県日進市の地域住民コホート「NISSIN Project」を使った前向き研究です。元のコホートには3073人の64歳住民が参加しましたが、今回の解析では、ベースラインですでに抑うつ傾向があった人などを除外し、最終的に1620人を対象にしています。食事は64〜65歳時点の食物摂取頻度調査票で把握し、70歳時点の老年期うつはGDS-15で評価しました。

日本食への順守度は、米飯、みそ、魚介、緑黄色野菜、海藻、漬物、大豆食品、果物、きのこ、緑茶、コーヒーを加点し、牛・豚肉を逆方向に扱う改訂版指標で点数化されています。農林水産省が示す「日本型食生活」も、ごはんを中心に魚や肉、野菜、海藻、豆類などを組み合わせる食べ方を特徴としており、研究の指標はその現代的な定量版とみると分かりやすいです。

5年後リスク低下の読み方

解析対象1620人のうち、70歳時点で老年期うつに該当したのは135人でした。日本食への順守度が最も低い群では発症割合が11.0%だったのに対し、最も高い群では5.3%でした。年、性別、BMI、喫煙、飲酒、運動、学歴、婚姻、慢性疾患などを調整した後でも、順守度が最も高い群の調整オッズ比は0.525で、低い群より有意に低い結果でした。点数が1点上がるごとの調整オッズ比も0.900で、全体として「日本食に近いほどリスクが下がる」方向が示されています。

ただし、ここで大切なのは「和食なら何でも効く」と単純化しないことです。項目別の解析では、魚介、緑黄色野菜、大豆由来食品がまず候補に挙がりましたが、多変量調整後も有意だったのは緑黄色野菜と大豆由来食品でした。魚介は粗い解析では関連が出たものの、生活習慣や既往歴を入れると有意性が残りませんでした。見出しで魚より野菜と大豆が強調されやすい理由はここにあります。

緑黄色野菜と大豆食品が注目される背景

既存研究との整合性

今回の論文だけで結論を急ぐ必要はありません。45歳以上の成人を対象にした2021年の系統的レビュー・メタ解析では、野菜摂取量が多い人の抑うつ発症リスクはOR 0.91、果物はOR 0.85と低い一方、魚単独では明確な関連が確認されませんでした。今回の日本の研究で、魚より緑黄色野菜と大豆のシグナルがより強く残ったのは、既存の大きな流れとも矛盾しません。

大豆食品についても補強材料があります。中国・浙江省の高齢者6253人を6年間追跡したコホート研究では、大豆食品を週4〜7日食べる人の抑うつリスクは、ほとんど食べない人に比べて調整オッズ比0.46でした。国や食文化が違うため単純比較はできませんが、「大豆をよく食べる高齢者ほど抑うつが少ない」という方向性は、日本の研究結果と重なっています。

抗酸化・炎症と日本型食生活

なぜ緑黄色野菜と大豆なのか。今回の論文は、野菜の抗酸化成分や、大豆に多いイソフラボン類、魚に多いオメガ3脂肪酸などを候補メカニズムとして挙げています。ここは因果関係が証明された段階ではありませんが、酸化ストレスや炎症、腸内環境、脳機能の接点を通じて説明できる可能性があります。高齢期は慢性疾患や身体機能低下が重なりやすく、食事の質がメンタルと身体の両方に波及しやすい点も見逃せません。

ただし、本質は単品の「スーパーフード」探しではなく、食べ方全体です。農林水産省の日本型食生活の説明でも、ごはんを主食にしつつ、魚、肉、野菜、海藻、豆類など多様なおかずを組み合わせることが特徴とされています。今回の研究も、日本食指標の総点が高いほどリスクが低いという結果が土台にあり、その上で緑黄色野菜と大豆がとくに目立ったという順番で読むべきです。

GDS-15評価と食事万能論への注意

この研究は前向きコホートであり、食事と老年期うつの時間順序を追っている点は強みです。それでも、因果関係を断定する研究ではありません。著者自身も、うつの評価が精神科医の診断ではなくGDS-15というスクリーニング尺度であること、心理社会的要因の影響を完全には取り切れないこと、残余交絡や逆因果の可能性が残ることを限界として挙げています。実際、高得点群は運動習慣もやや良好でした。

もう一つの注意点は、食事だけを万能薬のように扱わないことです。WHOも、うつは心理的・社会的・生物学的要因が複雑に重なる状態だと整理しています。高齢期では、配偶者との死別、孤立、慢性疾患、睡眠障害、身体活動の低下などの影響も大きいです。今後は、食事改善とあわせて、運動、社会参加、睡眠、治療アクセスを組み合わせた予防戦略がより重要になるはずです。

5年後リスク低下と生活全体の設計

北海道大学などの新しい追跡研究は、日本食への順守度が高い高齢者ほど、5年後の老年期うつリスクが低い可能性を示しました。とくに項目別では、緑黄色野菜と大豆由来食品の関連が比較的強く残っています。既存のメタ解析や大豆研究とも一定の整合性があり、食事の質がメンタルヘルスに無関係ではないことはかなり確からしくなってきました。

一方で、これは「和食を食べればうつを防げる」と言い切る話ではありません。大事なのは、主食・主菜・副菜をそろえ、野菜と豆類を無理なく増やすことを、運動や社会的つながりと合わせて考えることです。高齢期のメンタルヘルス対策は、薬か食事かの二択ではなく、生活全体の設計として捉える視点が必要です。

参考資料:

藤田 七海

ブランド・消費文化・ライフスタイル

ブランド戦略・消費文化・ライフスタイルを幅広く取材。歴史や科学にも造詣が深く、多角的な視点で社会の「今」を切り取る。

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