国内仮想通貨投信解禁でSBI・楽天販売が動く制度転換の焦点分析
証券口座に入る暗号資産投信の意味
暗号資産を投資信託やETFで買えるようにする制度整備は、単なる新商品の追加ではありません。これまで暗号資産交換業者の口座やCFDに寄っていた投資導線が、証券会社の通常の販売管理と説明責任の中に入る転換です。
金融庁は暗号資産の投資対象化が進んだとして、規制の軸を資金決済法から金融商品取引法へ移す改正を進めています。投信法施行令や税制の手当てがそろえば、2028年以降に国内で暗号資産を組み込む投信・ETFが現実味を帯びます。本稿では、SBI証券や楽天証券が先行しやすい理由と、野村証券など対面証券に重いガバナンス課題を整理します。
解禁を支える金商法移管と税制改正
資金決済法から金商法への移管
金融庁の制度見直しで最も重要なのは、暗号資産を「決済手段」だけでなく、投資性を持つ金融商品として扱う方向が明確になった点です。2026年4月10日に国会へ提出された金融商品取引法・資金決済法改正案の概要では、暗号資産取引に係る規制を資金決済法から金商法に移管し、有価証券とは別の金融商品として位置付ける方針が示されています。
この移管は、暗号資産を公的に推奨する意味ではありません。金融庁の解説は、規制見直しが暗号資産投資へ「お墨付き」を与えるものではなく、利用者保護を充実させるものだと整理しています。実際、改正案の背景には、詐欺的な投資勧誘、情報提供の不足、無登録業者、サイバー攻撃、不公正取引への対応があります。
規制の柱は、情報公表、業規制、インサイダー取引規制、暗号資産取引業者の管理体制強化です。金融庁の規制事前評価書では、金融サービス利用者相談室に月平均350件以上の暗号資産関連の苦情相談等が寄せられ、その大半が詐欺的な投資勧誘や取引に関わるものとされています。商品解禁の前提は、成長市場の後押しではなく、販売される環境の統治を金融商品並みに引き上げることです。
投信法施行令と特定資産の壁
国内で暗号資産ETFを組成できない大きな理由は、投資信託の投資対象となる「特定資産」に暗号資産が入っていない点です。大和証券グループ本社と大和アセットマネジメントが参加した国内暗号資産ETF勉強会の提言も、現行制度では暗号資産を投資対象とするETFの組成等が事実上できないと整理しています。
金融庁は2025年10月、海外で組成された暗号資産ETFを原資産とするデリバティブ商品について、国内の暗号資産ETFの組成・販売が認められていない状況を踏まえると、投資者保護上の懸念があるとして「望ましくない」とするQ&Aを公表しました。つまり、海外ETFを迂回的に販売するのではなく、国内制度の中で商品設計、開示、保管、販売管理を整える順序が重視されています。
投資信託として販売する場合、論点は価格連動だけではありません。暗号資産の保管を誰が担うのか、カストディの障害や流出時の補償原資をどう持つのか、指数や基準価額算定に使う価格データをどう検証するのかが問われます。証券会社にとっては「売れる商品」ではなく、販売後に説明可能な商品として扱えるかが入口になります。
二〇%分離課税への制度設計
投資家にとって制度変更の実感が大きいのは税制です。金融庁の広報誌は、現行制度では有価証券等から生じる所得が基本的に20%の分離課税である一方、暗号資産取引から生じる所得は所得税と住民税の合算で最大55%の総合課税になると説明しています。国税庁も、暗号資産を売却または使用して生じる利益は、原則として雑所得に区分されると案内しています。
令和8年度税制改正大綱では、金商法等の改正を前提に、一定の暗号資産取引から生じる所得を分離課税へ変える方向が示されました。さらに、投信法施行令の改正を前提として、一定の暗号資産を投資対象とするETFも分離課税の対象に含める措置が掲げられています。税制が同時に動くことで、証券口座で保有する投信・ETFとしての比較可能性が高まります。
ただし、税率が下がる可能性だけを前面に出す販売は危ういです。暗号資産の価格変動、流動性、ハッキング、発行者情報の不確実性は残ります。金融商品化とは、リスクが薄まることではなく、リスクを説明し、顧客属性に応じて販売可否を判断する枠組みが整うことを意味します。
SBI・楽天が先行しやすい販売構図
ネット証券に合う少額・低コスト導線
SBI証券や楽天証券が販売に動きやすい理由は、暗号資産投信がネット証券の運用導線と相性がよいからです。少額から買える投資信託、ETFのリアルタイム売買、ポイント投資、積立設定、スマートフォンでの情報提供は、暗号資産に関心を持つ個人投資家の行動と重なります。
SBI証券のFAQは、現時点で暗号資産そのものの取り扱いはない一方、店頭CFDを通じた暗号資産への投資が可能だと説明しています。SBI証券の投資情報メディアも、2024年時点で日本ではビットコインETFが承認されていないとしつつ、承認後に証券口座で取引できる体制を整える重要性に触れていました。制度解禁に向けた投資家教育の下地は、すでに作られています。
SBIグローバルアセットマネジメントの2026年3月期第1四半期決算説明資料には、「暗号資産」を組み入れた投資信託・ETFの準備として、東証上場の暗号資産ETFや、ゴールドETFと暗号資産ETFを組み合わせる商品案が示されています。これは確定商品ではありませんが、証券・運用グループが制度変更を前提に商品設計を検討していることを示す公開情報です。
楽天証券の既存投信が示す需要
楽天証券では、暗号資産そのものではなく、暗号資産関連企業に投資する「暗号資産関連株式ファンド」が販売されています。2026年5月15日時点の楽天証券掲載情報では、基準価額は1万5069円、純資産額は299.49億円、管理費用は年2.013%です。NISAの成長投資枠とつみたて投資枠の対象外とされていますが、暗号資産関連テーマへ投信経由でアクセスしたい需要は存在します。
この既存商品と、将来の暗号資産現物型ETF・投信は性格が違います。関連株式ファンドは取引所、決済、保管、半導体、決済ネットワークなどの企業業績に投資する商品です。一方、暗号資産投信はビットコインなどの価格変動そのものに近いリスクを投資家へ移します。販売会社は、テーマ株投信と暗号資産現物連動商品を同じ説明で売ることはできません。
楽天証券はETFについて、取引所に上場し、立会時間中であればリアルタイム価格で売買できる点や、一般の投資信託との違いを説明しています。暗号資産ETFが国内で認められれば、この既存のETF販売インフラに乗せやすい一方、週末も価格が動く暗号資産と、取引所の売買時間に制約されるETFとのずれをどう説明するかが課題になります。
対面証券に重い説明責任
野村証券、大和証券、SMBC日興証券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などの対面証券が販売を検討する場合、ネット証券とは違う統治課題が前面に出ます。担当者の推奨、店頭での説明、顧客の年齢・投資経験・金融資産に応じた適合性判断が、販売会社の責任として明確に問われるためです。
金融庁資料は、国内の暗号資産口座開設数が1400万超に達し、年収700万円未満の利用者が約7割であると整理しています。JVCEAの統計でも、2026年3月の現物取引高は1兆2008億8900万円、証拠金取引高は1兆72億5900万円に上ります。市場参加者は広がっていますが、すべての投資家が複雑なリスクを理解しているとは限りません。
対面証券にとって重要なのは、販売目標と顧客保護の衝突をどう防ぐかです。暗号資産投信は話題性が高く、価格上昇局面では販売現場に強い追い風が吹きます。その時ほど、販売手数料、信託報酬、グループ内運用会社の商品採用、系列暗号資産事業者との関係を含め、利益相反管理を可視化する必要があります。
暗号資産投信で残る三つの統治リスク
第一のリスクは、価格形成の説明可能性です。暗号資産は発行体やキャッシュフローが明確な株式・債券と異なり、期待、需給、ネットワーク利用、規制ニュースで大きく動きます。金融審議会の議事録でも、暗号資産の多くは実体経済と結びついた基礎価値がなく、購入判断に資する情報提供の難しさが指摘されています。
第二のリスクは、保管とサイバーセキュリティです。金融庁の制度案は、サプライチェーン全体を含む安全管理、重要システム提供者への規制、不正流出時の補償原資としての責任準備金を論点にしています。投信やETFになっても、裏側で暗号資産を管理する仕組みが脆弱なら、証券口座で買える安心感は見かけ倒しになります。
第三のリスクは、販売会社の説明と顧客理解のずれです。米国では2024年1月にSECが11本のスポットビットコインETPの上場取引を承認しましたが、SEC委員長声明は、承認がビットコインの承認や推奨を意味しないと注意を促しました。米議会調査局も、スポット型ETPは証券取引所で売買しやすい一方、詐欺・操作リスクや直接保有との違いを整理しています。
日本でも同じ線引きが不可欠です。金融商品化は投資家保護の枠組みを整える措置であり、損失を抑える保証ではありません。販売会社は、価格下落時、取引停止時、基準価額と市場価格が乖離した時、保管先に障害が起きた時に、誰が何を説明し、どの手順で顧客対応するのかを解禁前に固める必要があります。
投資家が解禁前に点検すべき実務論点
暗号資産投信の解禁が近づくほど、投資家は「買えるか」より「何を引き受けるか」を確認すべきです。現物の暗号資産、暗号資産関連株式ファンド、先物型商品、現物連動ETFでは、値動き、手数料、税制、保管、取引時間が違います。証券口座で買える形になっても、商品ごとのリスクは同じではありません。
特に確認したいのは、投資対象が現物か海外ETFか関連株式か、信託報酬と売買コストはいくらか、NISA対象になるか、価格急変時の売買停止や乖離の説明があるかです。企業側を見るなら、販売会社が商品審査、適合性確認、利益相反管理、サイバー事故時の対応をどこまで開示するかが重要です。
暗号資産投信は、資産運用の選択肢を広げます。ただし、制度の成熟度を測る基準は販売本数ではなく、販売後に問題が起きた時の説明責任を果たせるかです。2028年以降の解禁を見据える投資家は、税率や話題性だけでなく、販売会社の統治能力を商品選びの判断材料に加えるべきです。
参考資料:
- 金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」:金融庁
- 金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」報告
- アクセスFSA第269号 金融審議会報告の概要
- アクセスFSA第270号 令和8年度税制改正の概要
- 令和8年度税制改正大綱における金融庁関係の主要項目について:金融庁
- 令和8年度税制改正の大綱:財務省
- 金融商品取引業等に関するQ&Aの改訂について:金融庁
- 金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案の概要
- 金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案要綱
- 規制の事前評価書 金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案
- 統計情報:日本暗号資産等取引業協会
- 暗号資産取引についての年間報告:日本暗号資産等取引業協会
- 暗号資産の取扱いがあるか:SBI証券FAQ
- SBIグローバルアセットマネジメント 2026年3月期第1四半期決算説明会資料
- 暗号資産関連株式ファンド:楽天証券
- 国内における暗号資産ETF等の組成等に向けた提言:大和アセットマネジメント
- Statement on the Approval of Spot Bitcoin Exchange-Traded Products:SEC
- SEC Approves Bitcoin Exchange-Traded Products:Congress.gov
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