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SBIとステート・ストリート低コスト投信戦略オルカン対抗の条件

by 鈴木 麻衣子
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はじめに

4月末に浮上したSBIと米State Streetの新会社観測は、単なる新商品の話ではありません。新NISAで個人マネーがインデックス投信へ流れ込むなか、販売力、運用コスト、ブランド、ガバナンスを一体で作り直す動きとして読む必要があります。低手数料を前面に出すだけでは、もはや勝てない局面に入っているからです。

その一方で、2026年5月1日時点では、SBIグローバルアセットマネジメントのプレスリリース一覧、SBIアセットマネジメントのお知らせ一覧、State Streetの日本向けお知らせページに、新会社設立を正式に告知する公開資料は確認できませんでした。したがって本稿では、既存の公開情報だけを使い、なぜ両社の組み合わせが合理的なのか、そして本当に「オルカン」対抗になり得るのかを整理します。

低コスト投信競争の新局面

オルカンが築いた規模の壁

低手数料競争の出発点は、eMAXIS Slim 全世界株式、いわゆる「オルカン」が単なる人気商品ではなく、市場の基準になっていることです。マネックス証券のファンドページでは、同ファンドの純資産総額は2026年4月28日時点で11兆3,140億円超、信託報酬は年率0.05775%と確認できます。三菱UFJアセットマネジメントの公式LPでも、同ファンドは業界最低水準の運用コストを目指す商品群の中心に置かれています。

この残高水準は、手数料の低さを維持できる経営体力そのものです。投信ビジネスでは、信託報酬を下げるほど一口当たりの収益は薄くなりますが、残高が巨大化すれば固定費を吸収しやすくなります。逆に言えば、後発組が「オルカンより少し高い」程度では、販売面でも採算面でも差別化しにくい構造です。ここで争われているのは、単なる手数料の最安表示ではなく、低コストを長く続けられる事業基盤です。

実際、State Streetが日本で展開する低コストシリーズのうち、全世界株式インデックス・オープンは2026年4月30日時点で純資産2.62億円、信託報酬0.0748%です。ベンチマークは同じMSCI ACWIで、販売会社にはSBI証券も入っていますが、残高ではオルカンと大きな差があります。商品設計だけで勝てるなら、この差はここまで開いていないはずです。

さらに重要なのは、巨大ファンドほど追加の値下げ余地を持ちやすいことです。指数使用料、監査費用、受託銀行コスト、販売網向けのプロモーション費用は、残高が増えるほど吸収しやすくなります。先行商品が先に大きくなるほど、後発商品は価格で追い付いても、再び値下げされるリスクにさらされます。低コスト競争が消耗戦に見えて、実際には寡占を強めやすいのはこのためです。

ここから導けるのは、個人向けインデックス投信の勝負が「何を売るか」から「どの販路で、どの残高規模まで一気に積み上げるか」に移ったということです。新会社観測が事実なら、SBIが販売と管理を握り、State Streetが運用を担う分業は、この構造にかなり整合的です。これは公開資料から読み取れる戦略上の推測です。

新NISAが変えた採算構造

なぜこのタイミングで低手数料競争がさらに激しくなるのか。最大の理由は新NISAです。投資信託協会の2026年2月末統計によると、公募投信の純資産総額は329兆8,023億円、公募株式投信は312兆6,106億円、インデックス型ファンドだけで201兆1,767億円に達しています。2025年の公募投信への純資金流入は15兆5,004億円、株式投信では14兆3,188億円でした。

同じ資料では、2025年12月末のNISA口座数は2,825万5,664口座、年間新規買付額は成長投資枠が12兆5,534億円、つみたて投資枠が6兆2,400億円です。制度改正で個人マネーの受け皿が広がり、毎月積み上がる資金がインデックス投信へ流れ続ける構図が鮮明になりました。長期資金が継続流入する市場では、最初に大きなシェアを取りにいった会社が、コスト面でも再投資余力でも優位に立ちます。

だからこそ、低手数料は広告文句ではなく、顧客獲得コストと残高成長を結びつける経営戦略になります。投信協会統計でインデックス型が株式投信全体の64.4%を占める局面では、商品単体の収益率より、系列全体で残高を囲い込めるかが重要です。SBIとState Streetの組み合わせが注目されるのは、まさにこの残高獲得競争の文脈にあります。

SBIとステート・ストリートの補完関係

SBIグループの販売力と残高拡大

SBI側の強みは、低コスト商品を大量に流通させる販売力と、残高拡大を前提にした事業運営です。SBIグローバルアセットマネジメントは4月21日、グループの運用残高が13兆円を突破したと公表しました。SBIアセット、SBI岡三アセット、レオス、米Carretの4社合算で、1月の12兆円達成から3カ月強で1兆円積み増した計算です。

さらに2月26日の開示では、SBIアセット単体の運用残高が8兆円を突破したとしています。4月24日時点の事業説明ページでも、投資信託の運用残高は6兆7,008億円、そのうち国内公募投信は3兆5,484億円まで増えています。ここで重要なのは、SBIが単なる販売会社ではなく、残高を事業KPIとして前面に出している点です。低手数料でも残高が膨らめば利益基盤が強化されるという、量で勝つモデルが明確です。

収益面でも、このモデルは数字に表れています。SBIグローバルアセットマネジメントは4月24日、2026年3月期の売上高が278億5,900万円、営業利益が51億5,400万円となり、いずれも従来予想を上回ったと公表しました。会社側は理由として、国内3社で強い資金流入が続き、運用残高の拡大で収益基盤が想定以上に強まったことを挙げています。つまり残高拡大は、低手数料戦略の我慢比べではなく、利益成長の源泉として機能し始めています。

この姿勢は、最近の商品投入にも表れています。4月21日に公表した「SBI NASDAQ100インデックス・ファンド」は、信託報酬0.1958%を「国内最安」と打ち出し、運用委託先にState Street Global Advisorsを採用しました。4月24日には「SBI・S・米国高配当株式ファンド」2本の純資産総額合計が2,014.92億円に達したと公表しています。海外の有力運用会社の運用力を使いながら、SBIブランドと販売網で一気に残高を作る型は、すでに実績が出始めています。

もう一つ見逃せないのは、SBIグループ自身が4月21日の開示で、Man GroupやKKRとのパートナーシップを通じて先進的商品を公募投信として小口化してきたと説明していることです。つまり外部運用会社との協業は例外的な打ち手ではなく、SBIの資産運用拡大戦略の中核にあります。今回の観測が実現するなら、その対象がオルタナティブから個人向けインデックス中核商品へ広がる意味を持ちます。

State Streetの運用基盤と日本再拡張

一方のState Streetは、運用のスケールとインデックス運用の歴史に強みがあります。State Street Corporationの2026年1〜3月期決算では、運用資産は3月31日時点で5.6兆ドルです。ブランドサイトでも、1978年以来47年にわたり運用を続け、10のグローバル投資拠点を持つと説明しています。S&P500連動ETF「SPY」の先駆者としての実績は、日本の個人投資家向けに低コスト商品を訴求するうえで強い看板になります。

日本法人の公開情報を見ても、State Streetは短期の思いつきで個人市場に入ってきたわけではありません。日本法人は1998年設立で、公募投信の設定・運用開始も同年12月までさかのぼります。さらに2023年12月には「SSGAインデックス・シリーズ・ライト」として低コストのインデックスファンド7本を新規設定し、2025年5月には販売会社拡大を告知してきました。SBI証券が全世界株式やS&P500などの販売会社に加わったのは2025年2月です。

この流れを見ると、State Streetは日本での個人向け事業をゼロから始める段階をすでに終えています。残る課題は、商品棚に並ぶことではなく、競合の主力ファンドを乗り換えさせるだけの初速を作れるかどうかです。もし共同会社が設立されるなら、その意味は新商品を一本増やすことより、販売と運用を一体運営して立ち上がり速度を高める点にあります。

ただし、公開データが示す現実は厳しいです。2026年4月30日時点のState Street全世界株式インデックス・オープンは純資産2.62億円にとどまります。運用力や指数ノウハウだけでは、日本の個人市場で残高は積み上がらないということです。必要なのは、価格だけでなく、販促、UI、積立導線、NISA訴求、残高ポイント設計まで含めた流通設計です。

この点で、SBIとState Streetの役割分担は合理的です。State Streetは運用と指数連動の品質、SBIは商品管理、販路、集客、残高形成を担う。もし共同会社でこの分業を固定できるなら、State Streetにとっては日本の小売市場で足りなかった販売エンジンを獲得し、SBIにとってはオルカン対抗で不可欠な運用ブランドと商品供給能力を内製に近い形で取り込むことになります。

注意点・展望

それでも、低手数料を掲げるだけで「オルカン対抗」になるわけではありません。最大の壁は、既存商品の圧倒的な残高と継続保有の習慣です。11兆円規模の商品は、販売会社が勧めなくても買われ、口コミでも広がり、コスト引き下げ余地まで生みます。後発商品が本気で対抗するなら、信託報酬をわずかに下げるだけでなく、積立設定のしやすさ、ポイント還元、NISAでの見せ方、約定や情報提供の体験まで含めた総力戦が必要です。

また、経営の観点では、低手数料競争はガバナンスの問題でもあります。残高拡大を優先し過ぎれば、商品数の乱立や、採算の薄いファンドの長期維持、販促主導の商品設計といった歪みが起こりやすくなります。SBIアセットのサイトが「プロダクトガバナンスの推進状況」を前面に出しているのは、この論点を意識しているためでしょう。今後は、新会社ができるかどうか以上に、誰が価格決定権を持ち、どこまで継続的に引き下げ余地を確保できるかが問われます。

特に注意したいのは、販売と運用が強く結び付くほど、商品選定の透明性が問われる点です。自社グループの商品を優先的に棚に置くこと自体は違法ではありませんが、投資家にとって本当に最適か、既存ファンドからの乗り換えコストに見合うかは別問題です。コーポレートガバナンスの観点では、独立した商品審査や、コスト引き下げ基準の開示が伴うかどうかが、長期的な信頼を左右します。

5月1日時点で正式発表が見当たらない以上、次に見るべきは三つです。第一に、SBI側とState Street側のどちらが販売会社契約、プロダクト管理、約款変更の主導権を持つのか。第二に、ベンチマークをMSCI ACWIにするのか、別指数で差別化するのか。第三に、SBI証券以外へ販売を広げるのか、それともまず自社経済圏で残高を一気に作るのかです。ここが見えれば、単なる話題づくりか、本気の再編かを判別しやすくなります。

まとめ

SBIとState Streetの新会社観測が注目されるのは、個人投資家向けインデックス投信が、商品比較の世界から残高獲得の世界へ移ったからです。新NISAで市場全体の資金流入は厚くなり、オルカンは11兆円超の残高で低コスト維持の好循環を築きました。これに対抗するには、販売力のあるSBIと、世界規模のインデックス運用基盤を持つState Streetの組み合わせは確かに筋が通っています。

ただし、5月1日時点で正式発表は確認できません。したがって重要なのは、観測そのものに飛びつくことではなく、公開資料から見える事業構造を冷静に追うことです。もし新会社が立ち上がるなら、それは日本の投信市場で「低手数料」がさらに進む合図であると同時に、販売と運用の主導権をめぐる新しい競争の始まりになります。

参考資料:

鈴木 麻衣子

企業経営・コーポレートガバナンス

企業経営・コーポレートガバナンスを専門に取材。経営戦略の成功事例から不正会計の構造的問題まで、企業の「あり方」を鋭く問う。

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