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Looop夜間無料プランが示す蓄電所時代の再エネ家庭電力戦略

by 田中 健司
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夜間無料が示す新電力の料金モデル転換

Looopが家庭向けに午後7時から9時までの電力を無料にする実証へ踏み出す意味は、単なる販促ではありません。昼に余りやすい太陽光を蓄電所で受け止め、需要が強まる夜に家庭へ届けるという、電力小売の新しい収益モデルを試す動きです。

これまでの新電力は、市場から調達した電気をいかに安く、分かりやすく売るかで競ってきました。しかし燃料価格、卸電力価格、制度対応費が大きく動く局面では、調達を市場任せにするだけでは価格競争に限界があります。Looopの試みは、自社の太陽光発電所と蓄電所を組み合わせ、電気そのものではなく「使う時間」を設計する競争へ移る一歩です。

重要なのは、無料時間の裏側に電源と蓄電池の運用がある点です。家庭にとっては夜の電気代が下がる話ですが、産業インフラの視点では、出力制御で捨てられがちな再エネを需要側へ橋渡しする仕組みづくりです。

太陽光の昼余りを夜価値へ変える蓄電所

市場連動型から時間帯固定価値へ

Looopでんきは、2022年12月に市場連動型の「スマートタイムONE」を始めました。日本卸電力取引所のスポット市場は1日を30分単位の48商品に分けて翌日受け渡しの電気を取引するため、需要が小さく太陽光が多い時間は安くなりやすく、夕方から夜は高くなりやすい構造があります。

この仕組みを家庭料金に反映させると、利用者は安い時間に洗濯、給湯、EV充電を寄せることで節約できます。Looopが従来から「ピークシフト」を訴えてきたのはこのためです。2025年の料金リニューアルでも、市場価格が安い時間帯にお得に使えるという市場連動型の特徴を維持しつつ、託送費や容量拠出金など制度対応費を切り分ける設計が説明されています。

一方で、市場連動型には弱点もあります。利用者から見ると、単価が安い時間を毎日確認する手間があり、夏冬の需給逼迫や燃料価格高騰では家計への不安が残ります。そこで夜7〜9時を無料にする実証は、30分ごとに変わる価格をそのまま見せるのではなく、利用者に分かりやすい「固定された得な時間」を提示する試みといえます。

蓄電所を組み合わせれば、昼に安い電気を買うだけでなく、自社が開発した太陽光の発電分をいったん貯めて夜に放電できます。小売メニューの競争力は、調達単価の安さだけでなく、どの時間帯にどれだけ供給できるかという運用力に左右されます。

出力制御を減らす需要創出の意味

再エネの普及が進むほど、電力系統では「発電できるが使い切れない時間」が増えます。Looopは晴れた日の昼間に割引する「晴れ割」を展開し、太陽光が多い10時から14時の利用を促してきました。公式サイトでは、晴れた昼間の電気は余りがちで、朝晩より安価に使えることが多いと説明しています。

この昼間割引は、利用者の行動を昼へ寄せる需要創出です。これに対し、夜間無料の実証は、利用者の行動を大きく変えずに、蓄電池側で時間を移す発想です。昼に余った再エネをそのまま昼に使ってもらうだけでなく、家庭の需要が自然に増える夜へ送ることで、再エネの価値を一段高められます。

送配電の現場では、出力制御の時間帯が拡大しています。九州電力送配電は、九州本土で太陽光発電の接続量が堅調に増え、供給が需要を上回る時間が長くなっているとして、2026年度の春季の再エネ出力制御時間を原則7時から17時へ広げています。これは、昼間の再エネ余剰が一部地域の特殊事情ではなく、太陽光導入が進んだ系統の構造問題になっていることを示します。

Looopが自社開発の系統用蓄電所に取り組む理由もここにあります。同社は新潟県関川村で、用地確保から設計、調達、施工までをワンストップで行う初の高圧系統用蓄電所の建設を決め、2026年12月の運転開始予定を公表しました。発電、蓄電、小売をつなげるほど、昼余りの太陽光を夜の料金価値に変える余地が広がります。

家庭料金に蓄電池を組み込む運用課題

無料時間の裏側にある調達と放電制御

夜7〜9時の無料化を継続的な料金メニューにするには、無料時間に使われる電力量を正確に見通す必要があります。家庭需要は天候、気温、曜日、世帯構成で大きく変わります。特に午後7時台は調理、照明、空調、給湯が重なりやすく、価格をゼロにすれば需要がさらに増える可能性があります。

蓄電所は、この増加分をどこまで吸収できるかが問われます。昼に充電する量が不足すれば、市場から高い電気を買って無料時間に供給することになり、採算が崩れます。逆に蓄電池を大きく持ちすぎると、設備投資や保守費が重くなります。無料時間を2時間に絞るのは、利用者に分かりやすく、かつ蓄電池の出力設計を過度に膨らませないための現実的な幅です。

また、家庭の消費行動が集中しすぎると、配電網側のピークを作るリスクもあります。再エネ活用のための料金設計が、新たな局所混雑を生まないように、スマートメーターのデータ、アプリ通知、契約条件を組み合わせて平準化する必要があります。電力料金の競争は、広告文句よりも需給制御システムの精度に移っています。

この点で、Looopがアプリを活用してきた経緯は重要です。晴れ割、おまかせ割、ピークシフトの案内は、単価を見せるだけでなく、利用者の行動変容をデータ化する接点です。夜間無料プランでも、利用者ごとの負荷曲線を把握できなければ、蓄電池をどのタイミングで放電すべきか判断できません。

系統接続ルールが左右する開発速度

蓄電所は電力需給の調整力として期待される一方、接続ルールは厳しくなっています。電力広域的運営推進機関は2026年6月、系統用蓄電池について発電側と需要側の両方の契約受付を要件にする整理を系統アクセスの流れへ反映しました。蓄電池は充電時には需要、放電時には発電としてふるまうため、制度上も二面性を扱う必要があります。

さらに、同機関は系統用蓄電池の契約申込みにおける保証金を、工事費負担金概算の10%とする扱いを示しています。通常の5%より高い水準です。背景には、蓄電池案件の申し込みが急増し、途中辞退や投機的な系統枠確保を防ぐ必要があることがあります。

東京電力パワーグリッドも、系統用蓄電池の接続検討について一事業者あたりの上限設定に関する対応を公表しました。開発会社にとっては、土地、接続、資金をそろえた実現確度の高い案件を優先する局面です。小売で夜間無料を打ち出すには、料金企画だけでなく、蓄電池の接続確度を押さえる開発力が不可欠になります。

ここに新電力の産業的な分岐点があります。単に電気を仕入れて売る会社から、発電所、蓄電所、アグリゲーション、アプリを束ねるインフラ運用会社へ変われるかどうかです。大手電力のような大規模電源を持たない新電力でも、太陽光と蓄電池を組み合わせれば、時間帯ごとの価値を自ら設計できます。

無料化競争に潜む採算と利用者リスク

夜間無料という言葉は強い訴求力がありますが、利用者は「無料の範囲」と「無料以外の単価」を確認する必要があります。無料時間の原資は、昼間の安い再エネ、蓄電池の裁定収益、固定費、他時間帯の料金で成り立ちます。したがって、無料時間以外の基本料金や制度対応費がどう設計されるかで、年間の支払額は大きく変わります。

小売事業者にとっても、採算の鍵は稼働率です。蓄電池は安い時間に充電し、高い時間に放電してこそ収益を生みます。ただし猛暑や寒波で市場価格が高止まりすると、充電原価も上がります。太陽光発電量が天候に左右される以上、無料時間を保証するには予備的な調達手段を持たなければなりません。

制度コストも見逃せません。容量拠出金、託送料金、再エネ賦課金など、小売会社が自由に下げられない費用は残ります。Looopが2025年の料金リニューアルで制度対応費の扱いを見直したのは、こうした外部費用を透明にするためです。無料プランが広がるほど、どの費用を誰が負担しているかの説明責任は重くなります。

ただし、リスクがあるから意味が薄いわけではありません。再エネの余剰を減らし、蓄電池の投資回収を進め、家庭の節電負担を軽くする料金設計は、脱炭素と家計防衛の接点になり得ます。実証の焦点は、無料化そのものより、利用者の需要変化と蓄電池運用をどれだけ精密に結び付けられるかです。

家庭が電力契約で確認すべき判断軸

今後、時間帯無料や天気連動割引のようなメニューは増える可能性があります。家庭が見るべきなのは、無料時間の有無だけでなく、年間総額、無料時間外の単価、上限単価、解約条件、アプリ利用の必要性、再エネ価値の扱いです。特に市場連動型の場合、安い季節と高い季節の差を理解することが欠かせません。

企業側では、蓄電池を料金メニューに組み込める小売会社が有利になります。電源を持つ大手電力と、データやアプリで需要を動かす新電力の競争軸は近づいています。Looopの夜間無料実証は、家庭の電気代を下げる話にとどまらず、日本の太陽光を「余る電源」から「時間を選んで届ける電源」へ変える実験です。

消費者は派手な無料表示に流されず、自分の生活リズムと契約条件を照らし合わせるべきです。一方、電力業界にとっては、蓄電所を小売の武器にできるかどうかが次の再編を左右します。夜2時間の無料化は、その競争が家庭の料金表に見え始めた象徴です。

参考資料:

田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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