中高年の推し活が消費を牽引、4兆円市場の実態
4兆円市場を動かす中高年推し活消費
「推し活」と聞くと、10代・20代の若者がアイドルを追いかける姿を想像する方が多いかもしれません。しかし、2020年代に入り、その構図は大きく変わりつつあります。歌手やスポーツ選手、俳優などを熱心に応援する「推し活」は、いまや40代・50代以上の中高年層にも急速に広がり、関連消費を含めた市場規模は4兆円規模に膨らんでいます。
物価高や円安が家計を圧迫するなかでも、推し活への支出は堅調に推移しています。なぜ中高年層がこの消費の新たな担い手となっているのか、その背景と市場の全体像を解説します。
拡大し続ける推し活市場の全体像
人口2,000万人・市場規模4兆円超の時代へ
推し活市場の拡大スピードは目覚ましいものがあります。推し活の実態調査を行う推し活総研(CDGとOshicocoの共同研究)が2026年1月に発表した第3回調査によると、推し活人口は約1,940万人に達し、前年の約1,384万人から大幅に増加しました。市場規模も前年の約3.5兆円から約4.1兆円へと拡大しています。
また、株式会社A3が15歳から69歳の男女を対象に実施した全国調査では、「推しがいる」と回答した人は約2,828万人、そのうち実際にお金を使っている人は約1,997万人と推計されています。同調査による市場規模は年間約3.9兆円で、調査手法の違いはあるものの、いずれの調査でも市場が着実に拡大していることが確認できます。
グッズ・イベントが支える「IPリアル経済圏」
推し活消費の内訳を見ると、デジタルコンテンツだけでなく、フィジカルな領域が大きな割合を占めています。A3の調査では、グッズ・日用品、イベント参加、遠征費といった「IPリアル経済圏」の市場規模を約2.9兆円と推計しています。CDGの調査でも、回答者の93%が「遠征旅行」や「公式グッズ」への支出を増やし、89%が「チケット」への支出を増やしたと回答しており、体験型消費が推し活の中核を担っていることがわかります。
中高年層が推し活消費の新たな主役に
50代女性の過半数が「推しがいる」
推し活はもはや若者だけのものではありません。シニア女性向けメディア「ハルメク」の調査によると、50~89歳の女性のうち「推しがいる」と回答した人は全体で46.1%に上りました。年代別では50代が53.6%と最も高く、60代でも47.0%と全体平均を上回っています。さらに注目すべきは、年代間の差がほぼ消滅している点です。50代48.5%、60代46.2%、70代45.1%と、世代を問わず推し活が定着しています。
ビデオリサーチの調査でも、X世代(43~58歳)の27.1%が「推しがいる」と回答し、そのうち40%が推し活歴10年以上のベテランファンであることが明らかになっています。
中高年ならではの消費パターン
中高年層の推し活消費には、若年層とは異なる特徴があります。ハルメクの調査では、50歳以上の女性で推しにお金を使っている人は72.4%に上り、年間の平均支出額は約10万2,883円となっています。
中でも舞台・宝塚ファンの支出は突出しており、月平均約3万1,375円という調査結果もあります。チケット単価が1万~1万5,000円程度と高額であることに加え、遠征費やグッズ購入が上乗せされるためです。一方、50代以降には「回数を厳選して一回の満足度を高める」という消費傾向があり、量よりも質を重視する姿勢が見られます。
30代・40代の男性では可処分所得を活かした「大人買い」の傾向も報告されており、若年層とは異なるかたちで市場を支えています。
物価高でも揺るがない推し活消費の強さ
「影響なし」が過半数を占める構造
日本全体で物価高が消費マインドを冷え込ませるなか、推し活消費は異例の強さを見せています。インテージが2025年に実施した調査では、推し活をしている人の54%が物価高・円安の影響を「まったく受けていない」と回答しました。
この傾向は年代が上がるほど顕著で、60代では73.0%、70代では66.3%が「影響なし」と答えています。年金や貯蓄を背景に安定した可処分所得を持つシニア層にとって、推し活は日常の充実感を支える優先的な支出項目となっていると考えられます。
ライブ・エンタメ市場の回復が追い風に
経済産業省の分析によると、音楽・芸術等興行の活動指数は2020年のコロナ禍で36.0まで落ち込んだ後、2024年には196.6まで急回復し、娯楽業全体を大きく上回る伸びを記録しています。コンサートや舞台といったライブエンタメの回復は、中高年の推し活消費を後押しする大きな要因となっています。
野村證券のレポートでも、推し活は「物価高に負けない消費」の代表例として取り上げられており、関連産業への投資テーマとしても注目されています。
平均支出減少と二極化する推し活市場
平均支出額の減少が示す構造変化
市場規模の拡大が続く一方で、1人あたりの平均年間支出額はCDGの調査で前年の約25万5,035円から約20万9,716円へと減少しています。これは推し活を始めたばかりのエントリー層が増加したためと分析されており、市場の裾野が広がっている証左でもあります。
今後は、高単価なプレミアム体験を求めるコア層と、手軽に推し活を楽しむライト層の二極化が進む可能性があります。企業にとっては、それぞれのセグメントに合わせた商品設計が求められるでしょう。
推し活が日本経済の新たな柱になるか
推し活市場は清涼飲料市場(約4.7兆円)に迫る規模となっており、もはや一過性のブームとは言えません。特に中高年層の参入は、市場の持続性を高める要因です。経済の先行きに不透明感が漂うなかでも、「推し」という感情的な結びつきに基づく消費は底堅さを保つとみられています。
地方自治体がアニメやスポーツの「聖地巡礼」を観光施策に組み込む動きも加速しており、推し活の経済波及効果は今後さらに広がることが期待されます。
中高年ニーズが握る推し活市場の成長戦略
推し活市場は4兆円規模に成長し、その成長を支えているのは40代・50代以上の中高年層です。物価高の影響を受けにくく、質を重視した消費スタイルを持つこの世代の参入により、市場は新たなフェーズに入っています。
企業やマーケターにとっては、若年層だけでなく中高年層の推し活ニーズを把握し、プレミアム体験やリアルイベントなどの提供価値を高めていくことが、今後の成長戦略の鍵となるでしょう。推し活は単なるファン活動を超え、日本経済の消費を下支えする構造的な力へと進化しつつあります。
参考資料:
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