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宗教法人消滅危機が地方財政に迫る寺社維持と地域再編の重い現実

by 田中 健司
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祈りの場が地域インフラになる理由

寺や神社の存続危機は、信仰の担い手だけの問題ではありません。地方では、寺社が墓地、祭礼、集会、観光、文化財、防災時の避難や物資受け入れまで、複数の地域機能を支えてきました。近くに祈る場がなくなることは、地域の記憶と自治の単位が崩れることでもあります。

宗教法人は民間の宗教団体が法人格を持ったものです。自治体が宗教活動そのものを支えることはできませんが、荒廃した建物、放置された境内、散逸する文化財、災害時の受け皿不足は行政課題になります。人口減少で税収と職員数が限られる自治体ほど、寺社の空洞化は地域経営の重い宿題になります。

宗教法人の数字が示す存続危機

全国17万8537法人の足元

文化庁は宗教法人を、教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成する宗教団体が認証を経て法人格を取得したものと説明しています。神社、寺院、教会など礼拝施設を持つ単位宗教法人と、宗派や教団のように傘下団体を持つ包括宗教法人があり、所轄庁は原則として所在地の都道府県知事です。

令和6年12月31日時点の文化庁集計では、宗教法人数は合計17万8537です。神道系は文部科学大臣所轄と都道府県知事所轄を合わせて8万4137、仏教系は7万6657、キリスト教系は4864、諸教は1万2879です。数だけを見れば、寺社は全国の集落にきわめて広く分布する社会資本です。

問題は、法人の数が残っていても活動実態が伴わないケースが増えている点です。文化庁は令和6年調査で、不活動宗教法人を5019法人と確認しました。これは令和5年12月31日時点から588法人増えています。不活動宗教法人とは、宗教活動は行っていないが法人格のみ存在していると推定される法人です。つまり、表面上の法人数と地域で機能している寺社数の間には、すでにずれが生まれています。

宗教統計調査は、昭和24年から毎年12月末現在の宗教団体、教師、信者の数値を取りまとめてきた基礎統計です。これに不活動法人の調査が重ねられるようになったこと自体、行政が「実態のない法人格」を管理リスクとして認識していることを示します。人口が減る地域では、宗教活動が止まっても解散や合併の手続きが進まず、法人格だけが残る時間差が起きやすいのです。

35.6%試算の読み方

2040年に宗教法人の約3分の1が存続困難になるという見方は、國學院大学の石井研士教授による調査として紹介されています。宗教情報リサーチセンターの記録によると、日本創成会議が2014年に消滅可能性都市とした896市区町村に、福島県内自治体を除く全宗教法人17万6455のうち6万2971法人が所在していました。割合は35.6%です。

この数字は、寺社が本当にその時点で消えるという確定予測ではありません。消滅可能性都市とは、2040年に20〜39歳の若年女性人口が2010年比で半分以下になると予測される自治体です。そこにある宗教法人を数えたもので、法人の財務、住職や宮司の後継、氏子や檀家の実数を一つずつ確認したものではありません。

それでも、自治体経営の観点では重要な警告です。若年世代が半減する地域では、墓を継ぐ家、祭礼を担う家、草刈りや雪下ろしをする人、総代や役員を務める人が同時に減ります。宗教法人の存続は、人口の総量だけでなく、世帯継承、近居親族、地域活動への参加率に依存します。若年女性人口の急減は、将来の世帯形成と地域役員のなり手を細らせる先行指標になります。

2024年には人口戦略会議が、2050年までに若年女性人口が50%以上減る消滅可能性自治体を744、全体の43.0%とする分析を公表しました。内閣府の会見でも、少子化基調が変わっておらず楽観視できないとの認識が示されています。2040年試算は古い警鐘ではなく、2050年に向けた地域縮小の文脈で再検証すべき数字です。

檀家と氏子の減少が崩す経営基盤

墓じまいと遠距離化の連鎖

寺院経営を支える檀家関係は、家と墓と葬送の継承を前提に成り立ってきました。ところが、人口移動と世帯の小規模化で、檀家が寺の近くに住み続ける前提が崩れています。静岡大学の中條暁仁氏による2026年日本地理学会発表は、大都市圏の伝統仏教寺院でも檀信徒の減少が広く生じていることを示しました。

同調査では、寺院に近接して住む檀信徒は全体の3分の1にとどまり、30分以上離れた地域に住む檀信徒も3分の1程度に上りました。2019年から2023年にかけて檀徒戸数が減少したと回答した寺院は59.4%です。檀徒戸数の増減を見た対象では、減少だった寺院の割合が82.8%に達しました。

減少理由で目立つのは、檀信徒の後継者が絶える「絶家」、転居、墓じまい、後継者に寺檀関係が継承されないことです。とくに「墓じまい」は53.9%と高く、地方だけでなく都市寺院にも影響が出ています。墓を管理する子が遠方に住み、親の死後に墓を移す、あるいは永代供養や納骨堂を選ぶ流れは、寺院の収入と関係人口を同時に減らします。

これは「信仰離れ」という一語では説明できません。家族の形が変わり、墓を維持する距離と費用が負担になり、葬儀が簡素化し、親族が集まる回数が減るという複合要因です。寺は地域の家々を束ねる制度として機能してきましたが、その家々が域外へ分散すれば、寺檀関係は名簿上残っても実務上は薄くなります。

兼務と荒廃が進む寺社の現場

過疎山村では、専任の住職が常住する段階から、兼務や代務、無居住、荒廃、廃寺へ進む過程が見られます。2024年日本地理学会の発表は、住職の存在が寺檀関係の維持に作用し、寺院の存続を決定づけるとして、人口減少地域の寺院を4段階で捉えています。最終段階では建造物が朽廃し、青空寺院化して廃寺となります。

島根県石見地方の事例では、住職の死去後に親族が代務住職となりましたが、未亡人の死去と代務住職の高齢化で無居住化し、本堂などの損傷が進みました。修復費用を捻出できず、放置されて朽廃化したのです。最終的には解散し、元門徒が共同で建造物を解体し、跡地に記念碑として鐘楼を建てました。

神社も同じ圧力を受けています。熊野市の神社・寺院の維持管理と行事運営に関する研究は、高齢化と過疎化による後継者不足を指摘し、地域住民が日常の維持管理や行事に関わっている実態を示しました。神社行事は集会所と連携し、近隣集落と協力して維持する地域もあります。維持回数を減らす、ルールを緩める、儀式を簡素化するなど、負担軽減の工夫も確認されています。

地方財政の視点では、ここに重要な論点があります。寺社は公立施設ではないため、行政が維持費を丸抱えすることはできません。一方で、地域の祭礼、観光資源、文化財、墓地、避難場所としての機能が失われると、自治体の別の支出が増える可能性があります。地域コミュニティの基盤が崩れれば、見守り、景観管理、防災訓練、空き家対策の負担も行政側に寄ってきます。

不活動法人が自治体に残す管理リスク

不活動宗教法人の難しさは、活動が止まっても法人格が自動的に消えないことです。文化庁は、宗教活動の継続が困難になっても、宗教法人法上の解散や合併の手続きを取らない限り法人格は残存すると説明しています。意思決定ができなくなる前に、所轄庁や包括宗教法人に相談するよう促しているのは、役員や規則が実態と合わなくなる前に整理する必要があるからです。

法人格だけが残ると、土地・建物の管理責任、財産処分、墓地や納骨施設の扱い、文化財の保管、近隣への安全対策があいまいになります。屋根が落ちる、石垣が崩れる、倒木が道路にかかるといった危険は、信仰の問題ではなく生活環境の問題です。自治体は所有者確認、宗派や代表役員との連絡、法的手続きの助言に職員時間を割かざるを得ません。

さらに、文化庁は宗教法人格の不正利用にも注意を呼びかけています。宗教法人の売買に類似した行為により、宗教活動を目的としない第三者が法人格を取得し、脱税やマネー・ローンダリングなどに悪用するおそれがあるとしています。不活動法人は、その温床になり得るため、活動再開、合併、任意解散、解散命令請求などを通じた整理が必要です。

一方で、寺社を単に「整理する対象」と見るだけでは地域政策として不十分です。文化庁は2025年、宗教法人との災害時支援協定や避難所としての宗教施設活用の検討を都道府県宗教法人事務担当課に周知しました。宗教施設は高台や広い境内を持つ場合もあり、平時から関係を結べば地域防災の拠点になり得ます。

この二面性こそ、自治体の難題です。活動している寺社は地域インフラとして活用したい。活動していない法人は不正利用や危険建物を防ぐため整理したい。しかも、どちらも宗教法人の自律性と信教の自由に配慮しながら進めなければなりません。地方財政が厳しくなるほど、行政は関与しないという選択を取りがちですが、放置すれば後の処理費用は大きくなります。

地方が寺社を守るための再設計論点

寺社の存続危機に対して、自治体が最初に行うべきは補助金ではなく実態把握です。宗教法人名簿、文化財台帳、防災施設候補、墓地管理、空き家・危険建物情報を部局横断で照合し、活動法人、不活動に近い法人、文化財価値の高い施設、防災拠点になり得る施設を分類する必要があります。宗務、文化財、防災、観光、地域振興が別々に動くと、危機の全体像を見誤ります。

次に必要なのは、包括宗教法人や地域団体との早期協議です。役員がそろっているうちなら任意解散や合併、規則変更の余地があります。後継者がいなくなり、総代も高齢化してからでは、意思決定の主体を探すだけで時間がかかります。行政は宗教活動に立ち入るのではなく、法人手続き、文化財保全、防災協定、地域行事の担い手確保という公共性のある領域を整理して支援すべきです。

最後に、寺社を「残すか消すか」の二択にしないことです。祭礼の回数を減らす、集会所と一体で運営する、近隣集落で共同維持する、文化財を記録して公開する、避難所や観光資源として位置づけるなど、機能を分解して再設計する選択肢があります。全ての建物を残すことは難しくても、祈りの記憶、墓の管理、地域行事、文化財情報を次世代につなぐ方法はあります。

2040年に3分の1が消えるという試算は、寺社だけを責める数字ではありません。人口減少社会で、地域の共同管理システムがどこから壊れるかを示す警報です。自治体は財政支出の可否だけでなく、寺社が担ってきた見えない公共機能を棚卸しする必要があります。祈る場所を守ることは、地方の暮らしの基盤をどう再編するかという政策課題です。

参考資料:

田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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