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大相撲理事候補選が4期連続無投票の背景と今後

by 田中 健司
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はじめに

2026年1月23日、日本相撲協会の理事候補選挙が行われ、立候補者が定員の10人と同数だったため、4期連続の無投票当選が決まりました。本来、年寄(親方)約100人による投票で理事候補を選ぶ仕組みですが、実際には一門間の事前調整によって候補者数が定員に収まるよう調整されています。

なぜ選挙は行われないのか。そして八角理事長(元横綱・北勝海)の後任は誰になるのか。大相撲の権力構造の実態に迫ります。

理事候補選の仕組みと「無投票」のカラクリ

制度上の選出プロセス

日本相撲協会では2年に一度、理事の改選が行われます。理事候補の定数は10人で、すべての年寄(親方)が投票権を持ちます。立候補者が定員を超えた場合にのみ投票が実施され、得票数の多い上位10人が理事候補に選出されます。

選出された理事候補は、3月の春場所後に開催される評議員会で正式に承認されて理事に就任します。理事長はこの理事の互選によって決定されるため、理事選の結果がそのまま協会の権力構造を左右する重要な選挙です。

一門による事前調整の実態

現在の大相撲には、出羽海一門、二所ノ関一門、時津風一門、高砂一門、伊勢ヶ濱一門の5つの一門が存在します。すべての部屋はいずれかの一門に所属することが義務付けられており、理事選においても一門単位で候補者の調整が行われます。

各一門は所属する部屋数や親方の人数に応じて理事の「枠」を持っています。2026年の理事候補選では、出羽海一門から3人、二所ノ関一門から3人、時津風一門から2人、高砂一門から1人、伊勢ヶ濱一門から1人が立候補し、合計でちょうど定員の10人に収まりました。

この事前調整こそが、4期連続で無投票となっている最大の要因です。一門内部で候補者を一本化し、一門間でも定員を超えないよう話し合いが行われるため、選挙に至ること自体が異例の事態となっています。

「貴の乱」が示した選挙の意味

2010年の衝撃

無投票が続く現在の状況を理解するには、2010年に起きた「貴の乱」を振り返る必要があります。当時、貴乃花親方(元横綱)が一門の枠組みを無視して理事候補選に立候補し、大きな波紋を呼びました。

それまで4期8年にわたり無投票が続いていた理事選に突如として選挙が持ち込まれ、貴乃花親方は一門を超えた支持を集めて当選を果たしました。この出来事は、一門による事前調整という慣行に一石を投じるものでした。

2018年の落選と退職

しかし2018年の理事候補選では、貴乃花親方はわずか2票しか獲得できず落選しました。前年に起きた元横綱・日馬富士の暴行事件をめぐり、協会への協力を拒否する姿勢が問題視されたことが背景にあります。

その後、貴乃花親方は一門からの離脱を経て2018年10月に退職。「貴乃花一門」も消滅しました。この一連の騒動は、一門制度の強固さと、それに逆らうことの難しさを如実に示す出来事となりました。

2026年の理事改選と世代交代

退任した4人のベテラン

2026年の理事候補選では、次期任期中に65歳の定年を迎える4人の親方が退任しました。出羽海一門からは春日野親方と境川親方、二所ノ関一門からは芝田山親方(元横綱・大乃国)、時津風一門からは勝ノ浦親方がそれぞれ理事のポストを後進に譲りました。

特に注目されたのが芝田山親方の退任です。芝田山親方は八角理事長と同じ元横綱でありながら、協会運営をめぐって対立関係にあったとされています。教習所所長という閑職に追いやられていた経緯もあり、最終的には後任の理事人事に口を挟むこともなく静かに身を引いたと伝えられています。

新任理事候補の顔ぶれ

退任した4人に代わり、新たに4人の親方が理事候補に名乗りを上げました。出羽海一門からは藤島親方(元大関・武双山)と尾上親方(元小結・浜ノ嶋)、二所ノ関一門からは片男波親方(元関脇・玉春日)、時津風一門からは追手風親方(元幕内・大翔山)が初めて理事候補に選出されました。

現職では、八角理事長のほか、浅香山親方(元大関・魁皇)や佐渡ケ嶽親方(元関脇・琴ノ若)らが引き続き理事を務めます。世代交代が進む中で、次期理事長の座をめぐる水面下の動きが注目されています。

「ポスト八角」は誰になるのか

八角理事長の長期政権

八角理事長は1963年6月生まれで、2026年現在62歳です。2015年に理事長に就任して以来、すでに実質5期目の長期政権を築いています。協会の定年は65歳であり、計算上は2028年6月に定年を迎えることになります。

八角理事長の在任中、理事候補選はすべて無投票で決着しており、対立候補が出ない「一強体制」が確立されています。かつてのライバルだった芝田山親方も退任し、現在の協会内に八角理事長に正面から異を唱える勢力は見当たりません。

後任候補の不在

しかし、八角理事長の定年が視野に入る中で、後任の理事長候補が明確に浮上していない点が懸念されています。理事長は理事の互選で選ばれるため、一門の支持基盤が不可欠ですが、現時点で圧倒的な求心力を持つ候補者は見当たりません。

出羽海一門は3人の理事枠を持つ最大勢力であり、ここから次期理事長が出る可能性が高いとみる向きもあります。一方で、二所ノ関一門も同じく3枠を確保しており、一門間のパワーバランスが今後の理事長選を左右する重要な要素となります。

定年延長の議論

一部では、親方の定年を65歳から70歳に引き上げる案も議論されています。もし定年延長が実現すれば、八角理事長がさらに長期間にわたって協会を率いる可能性もあります。ただし、この案に対しては協会内部でも賛否が分かれており、実現の見通しは不透明です。

注意点・展望

大相撲の理事選が無投票で続いている状況は、見方によっては安定した運営の証ともいえます。しかし一方で、ガバナンスの観点からは透明性や競争性に課題があるという指摘も根強くあります。

公益財団法人である日本相撲協会には、スポーツ団体としてのガバナンス強化が求められる時代にあります。文部科学省やスポーツ庁が策定したガバナンスコードでは、役員選任の透明性確保が求められており、一門による事前調整で選挙を回避する現行の慣行が今後も維持されるかは注視が必要です。

2028年前後に想定される八角理事長の退任は、協会にとって大きな転換点となるでしょう。次期理事長の選出が無投票で済むのか、それとも久しぶりの選挙戦に突入するのか。一門のパワーバランスや次世代の親方たちの動向が、今後の焦点となります。

まとめ

大相撲の理事候補選は、一門間の事前調整によって4期連続の無投票が続いています。この仕組みは協会の安定運営に寄与してきた一方で、ガバナンスの透明性という点では課題を残しています。

八角理事長の長期政権が続く中、2028年前後の定年を見据えた後継者争いが水面下で動き出しています。出羽海一門と二所ノ関一門を中心としたパワーバランスがどう変化するか、新たに理事に加わった若手親方たちがどのような役割を果たすかが、今後の大相撲の運営を大きく左右することになるでしょう。

参考資料:

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