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高市政権の成長戦略に原油高の逆風が直撃

by 中村 壮志
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イラン攻撃と原油100ドル超の逆風

2026年2月28日、米国とイスラエルがイランへの軍事攻撃を実施しました。この攻撃によりホルムズ海峡の航行リスクが急激に高まり、原油価格は1バレル100ドルを超える水準まで急騰しています。エネルギーのほぼ全量を輸入に頼る日本にとって、この事態は深刻な打撃です。

高市早苗首相が掲げる「責任ある積極財政」による成長戦略は、物価高という最大の逆風に直面しています。総額21.3兆円規模の経済対策を打ち出しながらも、エネルギーコストの上昇がその効果を相殺しかねない状況です。本記事では、イラン攻撃が日本経済と高市政権の成長戦略に与える影響を多角的に分析します。

原油高騰が日本経済に与えるインパクト

原油価格の急騰と3つのシナリオ

イラン攻撃後、原油市場は大きく動揺しました。野村総合研究所(NRI)の分析によると、今後の展開について3つのシナリオが想定されています。ベースシナリオでは原油価格が1バレル87ドル程度に落ち着く見通しですが、悲観シナリオでは140ドルまで上昇する可能性があります。

第一生命経済研究所の試算では、原油が80ドルに上昇した場合、実質GDPは1年目にマイナス0.21%、2年目にマイナス0.35%の押し下げ効果が生じます。さらに130ドルシナリオでは、2年目にマイナス0.96%と、実質GDPを約1%も押し下げるインパクトが及ぶと推計されています。

ホルムズ海峡の封鎖リスク

日本にとって最も深刻なのは、ホルムズ海峡の航行リスクです。日本が輸入する原油の約8割が中東からの調達であり、ホルムズ海峡を経由しています。高市首相自身も3月11日の記者会見で「原油タンカーが事実上ホルムズ海峡を通過できない状況にある」と表明しました。

日本総研の分析によれば、中東からの原油・LNG輸入が完全に途絶した場合、日本の石油備蓄は約260日で払底し、GDPを3%弱押し下げる可能性があります。これはリーマンショック級の経済的打撃に匹敵します。

高市政権の緊急対策と成長戦略への影響

石油備蓄放出とガソリン補助金

高市首相は3月11日、二段構えの緊急対策を発表しました。第一に、国際的な協調放出の決定を待たず、3月16日から日本単独で石油備蓄の放出を開始することを表明しました。民間備蓄15日分に加え、国家備蓄1カ月分を放出し、合計で過去最大規模の約8,000万バレルとなる見込みです。

第二に、3月19日からガソリン価格を全国平均170円程度に抑制する補助金を再開しました。燃料油価格激変緩和対策基金の残高を活用し、軽油・重油・灯油にも同額の補助を適用します。

「責任ある積極財政」が直面する矛盾

高市政権は「責任ある積極財政」を旗印に掲げ、2025年度補正予算案で17.7兆円、減税分を含めた経済対策全体で21.3兆円を投じてきました。投資促進と賃上げによる好循環を目指す戦略です。

しかし、エネルギー価格の高騰は企業のコスト増を通じて設備投資意欲を冷やし、家計の実質購買力を低下させます。第一生命経済研究所の熊野英生氏は「政府の物価高対策が原油高に食われる」と指摘しています。成長のための財政出動が、物価高対策に振り向けられることで、成長戦略の推進力が削がれるリスクが高まっています。

円安との二重苦

Bloombergの報道によれば、高市政権は原油高に加えて円安という「二重苦」に直面しています。原油価格の上昇と円安が同時に進行することで、エネルギー輸入コストが膨張します。高市首相による為替けん制発言も見られますが、市場は手詰まり感を感じ取っています。

日本市場では株価の大幅安に加え、債券も下落する異例の展開が続いており、投資家心理の悪化が顕著です。

備蓄放出後の日米協議と脱中東依存

石油備蓄の放出は一時的な措置であり、根本的な解決策ではありません。プレジデントオンラインの分析では「ガソリン代が安くなると喜ぶのは大間違い」と警鐘を鳴らし、備蓄放出と補助金がもたらす財政負担の大きさを指摘しています。

今後の焦点は、イラン情勢の推移と中東からの原油供給の回復見通しです。3月19日に予定されている日米首脳会談では、エネルギー安全保障も重要議題の一つとなる見込みで、米国からのLNG調達拡大や重要鉱物の共同開発など、中東依存度の低減に向けた具体策が議論される可能性があります。

高市政権としては、短期的な物価高対策と中長期的な成長戦略の両立という難しい舵取りが求められます。エネルギー調達の多角化と再生可能エネルギーの拡大が、これまで以上に喫緊の課題となっています。

原油高・円安下のエネルギー安保課題

米国・イスラエルのイラン攻撃は、高市政権の成長戦略に深刻な逆風をもたらしています。石油備蓄放出やガソリン補助金といった緊急対策は打ち出されていますが、いずれも一時的な措置にとどまります。

原油高と円安の二重苦が続く中、成長のための財政出動が物価高対策に吸収されるリスクが高まっています。エネルギー安全保障の強化と中東依存度の低減が、高市政権にとって最優先の政策課題となるでしょう。今後のイラン情勢と日米首脳会談の行方が、日本経済の先行きを大きく左右します。

参考資料:

中村 壮志

国際情勢・地政学・安全保障

中東・米中関係を中心に国際情勢を取材。地政学リスクが日本経済に与える影響を、現地の視点から分析する。

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