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原油高より怖い円安スタグフレーションと積極財政の連鎖リスク検証

by 田中 健司
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はじめに

2026年3月の日本経済を考えるうえで、原油高だけを見ていては不十分です。日本銀行は2026年3月19日の金融政策決定会合で政策金利を0.75%に据え置き、中東情勢の緊迫化で原油価格が大きく上昇している点に注意を促しました。一方で、より構造的なリスクとして浮かぶのが、円安と積極財政が同時進行する政策運営です。

2025年の日本では、名目賃金が増えても実質賃金は年間でマイナスでした。足元の景気も、2025年10〜12月期の実質GDPが前期比0.1%増にとどまるなど、強いとは言えません。こうした局面で、為替を弱めやすい財政拡張が重なると、景気は伸びないのに物価だけが広く上がる「円安スタグフレーション」に近づきます。本稿では、なぜ原油高そのものより、政策の組み合わせが怖いのかを整理します。

原油高だけでは説明しきれない物価上昇の構図

中東依存とエネルギーショックの制約

原油高が日本経済に重い打撃を与えるのは事実です。資源エネルギー庁によると、日本の原油輸入に占める中東依存度は2023年度で94.7%に達しました。日本はエネルギーの海外依存度が高く、中東情勢が悪化すると、燃料費だけでなく輸送費や電力コストまで押し上げられやすい構造です。

もっとも、原油高は外生ショックであり、政府の激変緩和策や備蓄政策、価格転嫁のタイミングによって影響の出方が変わります。日銀は2026年1月の展望リポートで、電気・ガス料金やガソリン関連の政府措置が2025年度から2026年度の消費者物価を押し下げると見込んでいました。3月19日の声明でも、足元のCPI上昇率がエネルギー負担軽減策でいったん鈍化していると説明しています。つまり、原油高は深刻でも、政策で一定の緩衝材を入れやすい領域です。

円安が広げる輸入インフレ

本稿でより警戒したいのは、原油高が円安と結び付いたときです。2026年2月25日、ロイターは高市早苗首相が追加利上げに慎重との観測を受け、円が一時1ドル=156.28円まで下落したと報じました。市場が見ていたのは、金利正常化が遅れる一方で、政府支出や減税が膨らむ政策ミックスです。

円安の怖さは、原油だけを高くするわけではない点にあります。日銀は1月の展望リポートで、輸入価格が大きく上がれば家計の防衛的な支出姿勢が強まり、景気を下押しする可能性があると明記しました。実際、総務省統計局の2025年平均CPIでは、財が前年比4.7%上昇し、食料は6.8%、光熱・水道は3.6%上昇しました。円安が続くと、ガソリンだけでなく食料や日用品まで値上がりが広がり、家計には原油高単独より長く効く圧力になります。

積極財政がスタグフレーションを深める経路

家計を痛める賃金と物価の逆回転

積極財政が常に悪いわけではありません。問題は、供給力を高めないまま需要を押し上げる減税や歳出拡大です。JILPTがまとめた2026年2月の統計では、2025年の現金給与総額は前年比2.3%増でしたが、実質賃金は年間で0.8%減でした。2025年12月単月では実質賃金が0.3%増へ持ち直したものの、家計全体でみれば物価上昇に賃金が追い付いたとは言いにくい状態です。

そのうえ、同じJILPT集計では2025年10〜12月期の実質GDP成長率は前期比0.1%増にとどまりました。景気の勢いが鈍いなかで、広範な減税や現金給付が行われれば、消費は一時的に下支えされても、供給不足や輸入依存の大きい品目では価格上昇が先に出やすくなります。名目消費が増えても実質購買力が回復しないなら、それは景気回復ではなく、生活防衛型のインフレに近い動きです。

国債市場と金融政策への圧力

財政拡張が怖い理由は、物価だけでなく国債市場と日銀運営にも波及するからです。ロイターは2026年1月21日、2026年度当初予算案が122兆円規模となり、その約4分の1を国債発行で賄う見通しだと報じました。同じ報道では、食料品への8%消費税を2年間停止すれば年5兆円程度の財源が必要になるとの試算も紹介されています。減税と歳出拡大が同時に進めば、国債増発懸念は強まりやすくなります。

市場が敏感になるのは、日本の財政余力が潤沢ではないからです。IMFは2026年2月18日の日本4条協議後の記者会見で、日本の債務残高は主要国で最も高く、2025年から2031年にかけて利払い費が倍増する見通しだと指摘しました。そのうえで、財政政策は緩めるべきではないと明言しています。2月25日には、日銀前総裁の黒田東彦氏もロイターの取材に対し、いま必要なのは過去のアベノミクス型の総需要刺激ではなく、より引き締め的な財政・金融運営だと述べました。

ここで重要なのは、積極財政そのものより政策の組み合わせです。もし減税や支出拡大が先行し、日銀には利上げ慎重論が強まるなら、実質金利は低止まりし、円安圧力が残ります。その結果、輸入インフレが長引き、国債市場では財政規律への疑念が高まり、長期金利の上昇圧力も強まりかねません。原油高はきっかけでも、物価高を長期化させる主因は国内政策になり得ます。

注意点・展望

注意したいのは、「財政出動=悪」という単純な図式ではないことです。エネルギー安保への投資、送配電網の強化、半導体や食料の国内供給力強化、人手不足を和らげる労働移動支援のように、供給能力を高める歳出はむしろスタグフレーション耐性を高めます。逆に、恒久財源が曖昧な一律減税や広範な給付は、短期の支持にはつながっても、円安と物価高を長引かせる恐れがあります。

今後の注目点は3つです。第1に、為替が再び1ドル=150円台後半へ弱含むかどうかです。第2に、2026年1月時点で2.6%だった生鮮食品・エネルギー除くCPIが高止まりするかどうかです。第3に、実質賃金が単月ではなく年ベースでプラス圏に定着するかです。この3点が改善しないまま積極財政だけが前に出るなら、日本経済は「インフレ付き景気停滞」に近い姿へ傾く可能性があります。

まとめ

原油高は日本にとって重い外部ショックです。しかし、政府の価格抑制策やタイムラグがあるぶん、影響の一部は吸収できます。より厄介なのは、円安を通じて輸入物価を広く押し上げる政策運営と、債務不安を呼びやすい財政拡張が重なることです。

2026年3月30日時点で確認できるデータは、物価の粘着性、弱い実質賃金、低成長、そして市場の財政警戒を同時に示しています。高市政権の積極財政を評価するなら、景気対策の規模よりも、円安を招かないか、供給力を高めるか、国債市場の信認を損なわないかという3つの条件で見極める必要があります。

参考資料:

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