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円安と原油高の二重苦で日本のインフレはどこまで進むか

by 田中 健司
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はじめに

2026年2月末、米国・イスラエルによるイラン攻撃をきっかけに中東情勢が急激に悪化し、エネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に陥りました。原油価格は攻撃前の1バレル67ドル台から一時120ドル近くまで急騰し、世界経済に大きな衝撃を与えています。

日本にとって事態は特に深刻です。原油の中東依存度が約94%に達し、その大半がホルムズ海峡を経由して輸入されているためです。ここに円安の進行が重なり、「円安×原油高」という二重苦が日本のインフレをさらに加速させるリスクが高まっています。本記事では、現在の状況と家計への影響、そして今後の見通しについて詳しく解説します。

ホルムズ海峡封鎖と原油価格の急騰

中東情勢の急変

2026年2月28日、米国とイスラエルはイランに対する大規模な軍事攻撃を開始しました。3月1日にはイランの最高指導者ハメネイ師や革命防衛隊の幹部7人が死亡したと報じられ、中東情勢は一気に緊迫化しました。

イランは報復としてイスラエルと米軍基地への攻撃を実施。3月2日にはイラン革命防衛隊がホルムズ海峡の「全面封鎖」を宣言しました。同日、複数の海上保険会社が湾岸地域を航行する船舶向けの戦争リスク補償の引き受け停止を発表し、海上輸送は実質的に停止状態に追い込まれました。

原油価格はどこまで上がったか

WTI原油先物価格は、攻撃前日の2月27日時点で1バレル67.02ドルでした。それが3月5日には76.68ドルに上昇し、3月9日には一時120ドル近くまで急騰しました。北海ブレント価格も同様に、2月27日の73ドルから3月1日には78ドルに上昇しています。

野村證券などの分析では、ホルムズ海峡の封鎖が長期化した場合、WTI原油価格が1バレル130ドルまで上昇する可能性も指摘されています。2022年のロシア・ウクライナ紛争時を上回る水準であり、世界経済への影響は計り知れません。

日本経済への深刻な影響

原油の中東依存度94%という現実

日本は2022年にロシア産原油の輸入を事実上停止したことで、ほぼ全ての原油を中東の湾岸産油国から調達しています。2025年時点で原油の中東依存度は約94%に達しており、ホルムズ海峡を経由した原油輸入量は全体の9割にのぼります。

ジェトロ(日本貿易振興機構)の報告によると、日本のLNG(液化天然ガス)輸入量のホルムズ海峡依存度は6.3%とされていますが、原油についてはほぼ全量が同海峡を通過しており、封鎖の影響は甚大です。

ガソリン価格は過去最高水準に

ガソリン価格への影響はすでに顕著に現れています。2026年3月16日時点のレギュラーガソリン全国平均小売価格は190.8円で、5週連続の値上がりとなりました。これは1990年の調査開始以来の過去最高水準です。

関西テレビの報道によると、尼崎市内のガソリンスタンドでは3月初めに1リットル140円台だったレギュラーガソリンが、わずか数週間で180円台へと跳ね上がりました。一部の専門家は、状況が長期化すればガソリン価格が1リットル200円を超える可能性も指摘しています。

政府は3月19日から「燃料油価格定額引下げ措置」を発動し、ガソリン1リットルあたり30.2円、軽油は47.3円の補助金を支給する対策を講じています。しかし、原油価格の上昇幅を考えると、補助金だけでは消費者負担の増大を完全には抑えきれない状況です。

「円安×原油高」がもたらすスタグフレーションの懸念

構造的な円安の継続

ふくおかフィナンシャルグループのチーフ・ストラテジスト佐々木融氏は、日本が「構造的な円安」の局面にあると指摘しています。佐々木氏は2026年末のドル円レートが165円に達するシナリオを提示しており、その背景として日本の実質金利の大幅なマイナスと、日銀の金融政策正常化の遅れを挙げています。

佐々木氏によると、日銀は2026年に4月と10月の2回利上げを行うと予想されていますが、このペースでは円安を止めるには不十分だとしています。さらに、高市政権下での財政拡張的な政策姿勢が、円安圧力を一段と強めている面もあります。

インフレ加速のメカニズム

円安と原油高が同時に進行すると、日本のインフレは二重に加速します。まず、原油価格そのものの上昇がエネルギーコストを押し上げます。次に、円安によって輸入価格がさらに嵩上げされます。例えば、原油が1バレル100ドルで円安が1ドル155円の場合、円建ての原油価格は1バレル1万5,500円となり、1ドル140円の時と比べて約11%も高くなります。

野村總合研究所の木内登英氏の試算によると、原油価格が100ドルで高止まりするケースでは、2026年度のコアCPI(消費者物価指数)は前年比+2.8%に達すると予測されています。実質賃金は前年比で明確なマイナスに転じ、スタグフレーション的な様相を呈する可能性があります。

家計負担はどれだけ増えるか

第一生命経済研究所の永濱利廣氏の試算では、2026年の家計負担は2025年と比較して一人あたり約2.2万円、4人家族では約8.9万円の増加が見込まれています。これはガソリン代、電気代、食料品価格の上昇が主な要因です。

ガソリン価格が10円上昇すると、一般家庭の年間負担は約1.2万円増加するとされています。現在のような急激な価格上昇局面では、家計の負担増はさらに大きくなる可能性があります。

注意点・展望

日銀の金融政策が直面するジレンマ

日銀は2026年1月の金融政策決定会合で政策金利を0.75%に据え置きました。野村證券のメインシナリオでは、2026年に2回の利上げで政策金利を1.25%に引き上げると予測されています。しかし、原油高によるインフレ加速と景気減速が同時に進む場合、利上げすべきか据え置くべきかという難しい判断を迫られます。

インフレ抑制のためには利上げが必要ですが、景気が悪化している局面での利上げは企業や家計の負担をさらに重くします。まさにスタグフレーション下での金融政策の典型的なジレンマです。

今後のシナリオ

ニッセイ基礎研究所は、ホルムズ海峡の封鎖を巡り3つのシナリオを提示しています。封鎖が早期に解除されれば原油価格は80ドル台に落ち着く可能性がありますが、長期化すれば130ドルを超える水準まで上昇し、日本経済はより深刻な打撃を受けることになります。

ダイヤモンド社の報道では、ホルムズ海峡封鎖が長期化した場合、ドル円レートが165円まで円安が進む可能性も指摘されています。原油高が輸入額を9.7兆円押し上げ、それ自体が円安圧力となるという悪循環のリスクがあります。

まとめ

ホルムズ海峡の封鎖による原油価格の急騰と構造的な円安の進行は、日本経済に「二重苦」をもたらしています。ガソリン価格は過去最高を更新し、電気代や食料品を含む幅広い物価の上昇が家計を圧迫しています。

政府は補助金による価格抑制策を講じていますが、根本的な解決には至っていません。日銀の金融政策も、インフレ抑制と景気維持の間で難しい舵取りを求められています。今後の中東情勢の推移によっては、スタグフレーションのリスクがさらに現実味を帯びてくる可能性があります。家計としては、エネルギーコストの上昇に備えた支出の見直しや、資産の分散などの対策を検討しておくことが重要です。

参考資料:

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