航空燃料危機が世界に波及 中東から遠い国も大量欠航
ホルムズ封鎖でNZ・SAS大量欠航
2026年3月、中東から何千キロも離れたニュージーランドや北欧で、航空便の大量欠航が発生しています。ニュージーランド航空は約1,100便、スカンジナビア航空(SAS)も1,000便超の運休を発表しました。背景にあるのは、中東情勢の急激な悪化に伴うジェット燃料価格の高騰です。
2026年2月末に始まった米国・イスラエルによるイランへの軍事攻撃と、それに対するイランの報復措置により、世界の石油供給の約20%が通過するホルムズ海峡が事実上封鎖状態に陥りました。この影響は中東地域にとどまらず、世界中の航空会社の経営を直撃しています。本記事では、なぜ中東から遠く離れた地域の航空会社が大量欠航に追い込まれているのか、その構造的な要因と今後の見通しを解説します。
ジェット燃料価格の異常な高騰
わずか10日で価格が2倍に
SASのアンコ・ファンデルウェルフCEOは、スウェーデンの経済紙ダーゲンス・インダストリの取材に対し「ジェット燃料の価格が10日間で2倍になった」と語りました。国際航空運送協会(IATA)によると、ジェット燃料価格は過去1カ月で約83%上昇し、1バレルあたり175ドル前後に達しています。
紛争前は1バレル85〜90ドル程度だった価格が、150〜200ドルの範囲にまで急騰しました。ジェット燃料は航空会社の運航コストの約25〜40%を占めるため、この価格上昇は航空会社の経営に壊滅的な影響を与えています。
ホルムズ海峡封鎖が引き金に
この異常な価格高騰の根本原因は、ホルムズ海峡の事実上の封鎖です。同海峡は世界の石油需要の約5分の1が通過する要衝ですが、イラン海軍が通航禁止を宣言し、1日平均120隻が通過していた大型船舶がわずか数隻にまで激減しました。
原油の国際指標であるブレント原油は1バレル100ドル前後にまで上昇しています。原油価格の高騰はそのままジェット燃料の価格に反映されるため、航空業界全体がかつてない燃料コストの圧力に直面しているのです。
中東から遠い国々への波及
ニュージーランド航空の1,100便欠航
ニュージーランド航空は2026年3月16日から5月3日にかけて、約1,100便の欠航を発表しました。この措置は同社の全運航便数の約5%に相当し、約4万4,000人の乗客に影響が及びます。
欠航の対象は主に国内線のオフピーク便です。オークランド発着便は31往復、ウェリントン発着便は21往復、クライストチャーチ発着便は3往復がそれぞれ削減されます。同社は運賃の引き上げも実施しており、国内線で片道10ドル、近距離国際線で20ドル、長距離国際線で90ドルの値上げを行いました。
ニュージーランドは中東から約1万5,000キロも離れていますが、ジェット燃料は国際市場で取引されるため、地理的な距離に関係なく価格高騰の影響を受けます。特にニュージーランドのような島国は燃料の輸入依存度が高く、代替供給源の確保も容易ではありません。
SASの1,000便超欠航
スカンジナビア航空(SAS)は、2026年4月に少なくとも1,000便の欠航を発表しました。3月中にも数百便の欠航を予定していますが、可能な限り運航を維持する方針です。欠航の対象はノルウェー国内線やスカンジナビア域内の近距離路線が中心で、利益率が薄く代替交通手段が利用可能な路線が優先的に削減されています。
SASは1日約800便を運航する大手航空会社ですが、燃料コストの急騰により採算が取れない路線の運航継続が困難になりました。北欧地域はエネルギー政策において再生可能エネルギーの活用が進んでいますが、航空燃料については依然として化石燃料に依存しており、中東の地政学リスクから逃れることはできません。
世界の航空業界に広がる混乱
欠航と運賃値上げの連鎖
この危機は特定の航空会社にとどまりません。3月の最初の2週間だけで、世界全体で4万6,000便以上が欠航となり、グローバルな航空輸送能力の約10%が失われました。各航空会社は生き残りをかけてさまざまな対策を講じています。
カンタス航空、エアインディア、キャセイパシフィック、エールフランスKLMなどは、1チケットあたり50〜200ドルの燃油サーチャージを導入しました。ユナイテッド航空は第1四半期だけで燃料費が4億ドル増加すると見込んでいます。長距離路線の運賃上昇は特に顕著で、シドニー・ロンドン間のエコノミー往復運賃は約1,500ドルから2,700ドルへと80%も上昇したケースが報告されています。
航空会社の対応戦略
各航空会社はこの危機に対し、複数の戦略で対応しています。まず、燃料ヘッジが功を奏している航空会社があります。エールフランスKLM、ルフトハンザ、ライアンエアーなどは、あらかじめ固定価格で年間分の燃料を購入していたため、短期的には運賃の大幅な引き上げを回避できています。
一方、路線の再編も進んでいます。ユナイテッド航空は、従来ペルシャ湾を経由していた便について、アテネを一時的な給油・乗務員交代拠点として活用する措置を取りました。KLMやブリティッシュ・エアウェイズは3月末までドバイ路線を全便運休としています。
IATAが警告する2〜3年の燃料高リスク
構造的な問題が浮き彫りに
IATAは今回の危機について「ジェット燃料の供給安全保障における深刻な脆弱性が露呈した」と指摘しています。世界の石油供給がホルムズ海峡という単一のチョークポイントに過度に依存している構造的な問題が、航空業界を脆弱にしているのです。
この問題は一時的なものではありません。IATAやアナリストのコンセンサスでは、燃料価格の高止まりと保険料の上昇は2〜3年続くと予測されています。航空業界はこの間、恒常的なコスト増を前提とした経営が求められます。
旅行者への影響
航空券の値上げは今後も続く可能性が高く、IATAのウィリー・ウォルシュ事務局長は航空券価格が最大9%上昇する可能性があると述べています。特に夏の旅行シーズンに向けて早めの予約を検討することが重要です。また、欠航リスクに備え、旅行保険の加入や代替経路の確認も欠かせません。
日本への影響
日本もこの危機と無縁ではありません。日本航空は羽田・ドーハ便の欠航を決定しており、国内の航空運賃にも上昇圧力がかかっています。また、ホルムズ海峡の封鎖はLNG(液化天然ガス)の供給にも影響を及ぼしており、エネルギー価格全体の上昇を通じて日本経済への波及が懸念されています。
10日で2倍の燃料高と航空混乱の長期化
中東情勢の悪化に端を発したジェット燃料の高騰は、ニュージーランドや北欧という中東から遠く離れた地域にまで深刻な影響を及ぼしています。ホルムズ海峡の封鎖によりジェット燃料価格がわずか10日で2倍になるという異常事態は、グローバルなエネルギー供給網の脆弱性を浮き彫りにしました。
航空会社は欠航、運賃値上げ、路線再編など、あらゆる手段を講じて対応していますが、危機の長期化が見込まれる中、旅行者や航空業界にとって厳しい状況が続きそうです。旅行を計画している方は、最新の運航情報を確認し、早めの予約と十分な備えを心がけることをお勧めします。
参考資料:
- SAS to cancel 1,000 flights in April after jet fuel price doubles in 10 days - Euronews
- Air NZ to cancel around 1100 flights amid fuel crisis - 1News
- Airlines increase airfares and cut thousands of flights as Iran war drives jet fuel price spikes - Euronews
- IATA: Middle East conflict exposes jet fuel supply vulnerabilities
- Jet fuel prices surge nearly 83% in a month - Middle East Monitor
- 航空券最大9%値上がりへ、イラン戦争の代償 - Bloomberg
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