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コロプラのゲームAI戦略 クリエイターと共創する現場の作法を解く

by 田中 健司
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はじめに

ゲーム業界で生成AIを語るとき、空気は決して一枚岩ではありません。開発効率化への期待がある一方で、著作権、画風学習、品質、創造性の希薄化への懸念も強くあります。実際、GDCが2026年1月に公表した業界調査では、生成AIがゲーム業界に悪影響を与えていると答えた開発者は52%に達し、2025年調査の30%からさらに悪化しました。

コロプラは、生成AIを裏方の効率化だけでなく、ゲーム体験の中核に組み込むところまで踏み込みました。対象は、金子一馬氏が手がける『神魔狩りのツクヨミ』です。同社は、AIを使ったからこそ起きる反発を見越し、クリエイター主導、ライセンス管理、透明性、社内浸透をセットで整えています。この記事では、コロプラがどのようにゲーム用AIモデルをつくり、どのように社内外の抵抗感を抑えようとしたのかを整理します。

コロプラは何をつくったのか

生成AIを「制作補助」ではなく「遊びそのもの」に組み込んだ

コロプラが出した答えは、生成AIを単なるアセット自動生成ツールにしないことでした。2025年5月7日に正式サービスを開始した『神魔狩りのツクヨミ』では、「AIによるオリジナルカードの生成システム」が最大の特徴とされています。ゲーム内では、本作独自のオリジナルAI「AIカネコ」が、プレイヤーの選択や行動を見定めて、その人だけのオリジナルカードを生成します。カードは単なる画像ではなく、次の攻略に影響する遊びの部品として設計されています。

これは重要な設計です。多くのゲーム会社が生成AIを背景案や社内試作に使う段階にとどまるなか、コロプラは「プレイヤーの行動によって、唯一無二のカードが生まれる」という体験自体をゲームループに組み込みました。2025年12月には『神魔狩りのツクヨミ』が「生成AI大賞2025」でグランプリを受賞し、「生成AI技術をゲームの根幹である遊びに組み込んだ」点が評価されています。コロプラが狙ったのは、AIで制作コストを下げることより、AIでしか成立しない新しい遊びをつくることだったと読み取れます。

軸に置いたのは「AIが主役」ではなく「クリエイターが主役」

もっとも、コロプラはAI前面ではなく、あくまでクリエイター起点の構図を崩していません。公式AIポリシーでは、AIは「クリエイターの発想を補完・拡張するためのパートナー」であり、作品の主体は常にクリエイター自身だと明記しています。『神魔狩りのツクヨミ』でも、AIは金子一馬氏の画風や世界観を学習した「AIカネコ」として説明され、誰の感性を軸にしたAIなのかを明確にしました。

この見せ方には意味があります。ゲーム業界で最も反発が強いのは、「作家性をAIで置き換えるのではないか」という不信です。そこでコロプラは、AIを匿名の自動生成装置としてではなく、金子氏の創作を拡張するための独自AIとして提示しました。AIが勝手に作品をつくるのではなく、クリエイターの表現をプレイヤーごとに変奏する。この位置づけが、コロプラ流の妥協点だといえます。

なぜ反発の強い業界で前に進めたのか

権利と安全性を、作品発表前から制度として整えた

コロプラは2024年12月11日、Stability AIとのパートナーシップ締結と同時に、社内向けの「画像生成AI利用ガイドライン」を策定しました。背景説明では、画像生成AIには法的、倫理的、著作権上のリスクがあると明示し、そのうえで創造性向上と安全な利用環境を両立させる方針を示しています。つまり、作品を出してからルールを後付けしたのではなく、先にルールを置いたということです。

実際、公式AIポリシーとFAQはかなり踏み込んでいます。プロジェクトごとにAIの活用範囲、データ利用の範囲、権利帰属を明確にするとし、ライセンス管理や不適切コンテンツのフィルタリング、バイアス監視、監視プロセスの導入まで掲げています。FAQでは、ゲーム開発を中心に幅広い分野でAIを使う一方、LLMや画像生成を利用する場合はタイトルごとにライセンスを表記すると説明しています。生成物が他作品と類似した場合は調査し、必要に応じて修正や削除を行う体制も明文化しました。

この制度設計は、ゲーム業界の不安の核心を突いています。開発者が生成AIに否定的なのは、技術が嫌いだからではなく、何を学習し、誰が責任を負い、問題が起きた時にどう直すのかが見えにくいからです。コロプラはこの不信に対し、まずガイドライン、ポリシー、FAQで「見える化」から入ったわけです。

現場浸透はトップダウンだけでなく、心理的抵抗の処理まで含めた

もう一つの特徴は、AI導入を現場の心理設計まで含めて進めた点です。コロプラは2025年10月6日公表の資料で、2022年ごろから社内でのAI活用推進を本格化させ、2025年9月時点で回答者の92%が業務にAIを活用、30%以上が業務量50%以上の削減を実感したとしています。加えて、AI成熟度モデルや心理的浸透度モデルを導入し、単にツールを配るのではなく、社員がどこで抵抗し、どの段階で活用に踏み出せるかを可視化しました。

この発想は、ゲーム向けAIモデルをつくるうえで実務的です。クリエイターが怖がったままでは、どれだけ高性能なモデルでも現場に乗りません。コロプラは役職者のAI活用率がほぼ100%であること、勉強会やLT会、Slack共有などを通じて利用体験を社内で広げたことも明かしています。AIを「経営が押しつける道具」ではなく、「現場が使いながら改善する道具」に変える。この社内文化づくりがあったからこそ、『神魔狩りのツクヨミ』のようにAIをゲームの表に出す施策まで進めたのでしょう。

ただし、受容が広がったとはまだ言い切れない

注意すべきなのは、コロプラの成功をそのまま業界標準と見なさないことです。GDCの2026年調査では、生成AIに悪影響があると考える開発者が52%に達し、肯定的な回答は7%にとどまりました。とくにアート、デザイン、ナラティブ、プログラミングの職種で反発が強いとされています。つまり、AI導入の管理が比較的しやすい経営や事業部門と、作品の手触りに責任を持つ制作部門の間には、なお温度差があります。

コロプラも、その点を理解しているからこそ、「AIが全部つくる」ではなく「クリエイターとAIの共創」と表現しています。AIを主役にすると反発を招きやすく、クリエイターを主役に据えたままAIで新しい遊びを作るほうが受け入れられやすい。これは理念ではなく、業界の空気を踏まえた経営判断と見るべきです。

注意点・展望

コロプラ事例を読むときの注意点は三つあります。第一に、これは単なるコスト削減ではなく、体験設計の話だということです。AIカード生成が遊びに結びつかなければ、評価は得られません。第二に、法務や倫理を後回しにしては機能しないことです。ガイドライン、ライセンス表記、監視、修正プロセスは、作品の品質と同じくらい重要です。第三に、現場の納得は自然には生まれないことです。教育と心理的ハードルの処理が必要です。

今後の展望としては、ゲームAIは二方向に広がる可能性があります。一つはコロプラ型で、クリエイターの作家性を保ちながら、プレイヤーごとに異なる体験を生成する方向です。もう一つは、社内業務や運営効率の最適化に寄せる方向です。ただ、プレイヤーが直接触れる領域ほど説明責任は重くなります。業界全体の反発が残る限り、AIゲームが広がる条件は「高性能」よりも「誰の創造性をどう補助し、どう管理しているか」を示せるかにかかっています。

まとめ

コロプラの特徴は、ゲーム用AIモデルを単独技術としてではなく、クリエイターとの共創、権利管理、安全対策、社内浸透まで含めた仕組みとして実装した点にあります。『神魔狩りのツクヨミ』では、AIがプレイヤーの行動に応じて唯一無二のカードを生成し、生成AIをゲーム体験の中心に置きました。

それでも、ゲーム業界のAI不信は根強く、2026年時点で開発者の過半が悪影響を感じています。だからこそ、コロプラは「AIが作るゲーム」ではなく「クリエイターとAIが共創するゲーム」と打ち出しました。今後の勝負は、AIを使うかどうかではなく、どこまで透明に、責任ある形で、創作の主役を守りながら使えるかにあります。

参考資料:

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