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姫路城の二重価格導入1カ月で収入倍増の背景

by 田中 健司
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姫路城二重価格1カ月の収入倍増

兵庫県姫路市が2026年3月1日に導入した姫路城の「二重価格」制度が、開始から1カ月を迎えました。姫路市の清元秀泰市長は4月7日の定例記者会見で、入城者数が前年同期比で減少したものの、収入はおよそ2倍に増加したことを明らかにしました。

世界文化遺産・国宝である姫路城は、近年の訪日外国人急増によりオーバーツーリズムが課題となっていました。二重価格の導入は、観光収入の確保と文化財の保全を両立させる試みとして全国から注目を集めています。この記事では、制度の具体的な成果と課題、そして全国に広がりつつある二重価格の動向について解説します。

二重価格制度の仕組みと導入経緯

新料金体系の詳細

姫路城の新しい入城料は、姫路市民(18歳以上)が従来どおり1,000円に据え置かれる一方、市民以外の18歳以上は1,000円から2,500円へと2.5倍に引き上げられました。この2,500円という入城料は、天守が現存する国内12城の中で最高額であり、2番目に高い松本城のおよそ2倍にあたります。一方で、18歳未満については居住地を問わず無料に変更され、従来の300円から引き下げられました。

注目すべきは、この制度が「外国人料金」ではなく「市民・市民以外」という線引きを採用した点です。日本国内の他地域から訪れる観光客も、外国人観光客と同じ2,500円を支払う仕組みとなっています。

導入に至るまでの議論

二重価格の導入に至るまでには紆余曲折がありました。当初は訪日外国人の入城料を約4倍に設定する案も検討されましたが、最終的に「市民か市民以外か」という基準が採用されました。料金設定については、今後10年間の特別史跡としての維持管理運営費や保存修理・整備に必要な費用を積算し、収支バランスを考慮して決定されたとされています。

1カ月間の実績と財政効果

入城者数と収入の変化

導入後およそ1カ月間(3月29日時点)の入城者数は延べ約12万3,000人で、前年同期と比較して約2割の減少となりました。清元市長はこの減少について「想定内だ」との認識を示しています。

一方、収入面では顕著な効果が現れています。入城者数が減少したにもかかわらず、入城料の単価が大幅に上がったことで、収入はおよそ2倍に増加しました。市は年間ベースで約10億円の収入増を見込んでいます。清元市長は「石垣などの安全対策に力を入れたい」と述べ、増収分を文化財の保全に充てる方針を強調しました。

巨額の維持管理コスト

姫路城の維持管理には膨大な費用がかかります。今後10年間(2025〜2034年度)の維持・保存費用は、資材や人件費の高騰も加味すると約280億円に上ると試算されています。2024年度の総入城者数は約153万人で、そのうち外国人は約54万9,000人(全体の35.8%)と過去最高を記録していました。増え続ける来城者による施設への負荷も考慮すると、安定的な財源確保は喫緊の課題です。

観光客の反応と周辺への影響

賛否が分かれる声

二重価格に対する観光客の反応は賛否が分かれています。神戸新聞の取材によると、「お城を守るためなら当然」と理解を示す声がある一方で、「ちょっと高い」という意見も聞かれました。

外国人観光客からは比較的肯定的な反応が多く報じられています。オーストラリアからの観光客は「日本に来るのにもっとお金がかかっているから大したことない」と述べ、アメリカからの観光客は「維持管理にはかなりの費用がかかっていると思う。美しい国宝を楽しむためなら構わない」とコメントしています。一方、カナダからの観光客からは「大阪城は600円で入れるから、行きたいと思う人が少なくなるかもしれない」という懸念の声も上がっています。

「市民・市民以外」の線引きへの評価

この制度が「外国人・日本人」ではなく「市民・市民以外」で線引きした点については、一定の評価を得ています。読売新聞の報道では、コメンテーターの小原ブラスさんが「納得度高い形」と評価しています。地元住民の負担を軽減しつつ、国籍による差別を避けるという意味で、バランスの取れた設計と見る向きがあります。

全国に広がる二重価格の波

国立博物館・美術館への導入

姫路城の事例は、日本全体の観光政策にも影響を与えています。国立文化財機構と国立美術館が管轄する施設では、2031年3月までに二重価格制度を導入する方針が固まりました。対象は東京国立博物館をはじめとする国立博物館4館、皇居三の丸尚蔵館、東京国立近代美術館、国立西洋美術館など計7施設に及びます。

さらに、観光庁は2026年3月に二重価格に関する有識者会議を立ち上げ、全国的なガイドライン策定に向けた議論を開始しています。

他の自治体の動き

京都市では、地下鉄やバスで観光客の運賃を高く設定する「市民優先価格」を2027年度中に導入することを目指しています。また、沖縄のテーマパーク「ジャングリア」では、開業時から国内居住者と外国人居住者で異なる入場料を設定する取り組みが始まっています。

入城者減と周辺経済への影響検証

課題と懸念

二重価格制度には課題も残されています。入城者数の減少が周辺の商店街や飲食店に及ぼす影響については、まだ十分なデータが蓄積されていません。観光客が減少すれば、城下町全体の経済に波及する可能性があります。

また、「市民であること」の確認方法も実務上の課題です。現時点では自己申告ベースとなっている部分もあり、運用面での精度向上が求められます。

今後の見通し

清元市長は増収分を石垣の安全対策など文化財保全に充てる方針を示しており、収入の使途が明確であることが市民や観光客の理解を得る上で重要なポイントとなります。今後は、入城者数の推移だけでなく、周辺地域への経済波及効果や観光満足度の変化なども含めた総合的な検証が求められるでしょう。

全国の観光地が同様の制度導入を検討する中で、姫路城の事例は「先行モデル」としての役割を担っています。入城者減を上回る収入増という結果は、他の自治体にとっても参考になる成果といえます。

収入2倍が示す観光政策の転換点

姫路城の二重価格制度は、導入1カ月で入城者数が約2割減少した一方、収入は約2倍に増加するという明確な成果を示しました。今後10年間で約280億円とされる維持管理費を考えると、安定的な財源確保は世界遺産を守る上で避けて通れない課題です。

国立博物館や京都市など、全国で二重価格の導入が広がりつつある中、姫路城の取り組みは日本の観光政策における重要な転換点となる可能性があります。観光客の満足度と文化財の保全、そして地域経済のバランスをどう取るか。姫路城の今後の動向から目が離せません。

参考資料:

田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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