個人向け国債変動10年は金利上昇局面で有利か固定5年徹底比較
利上げ局面で再注目される安全資金の置き場
日本銀行は2026年9月18日の金融政策決定会合で、無担保コールレートを1.25%程度に引き上げました。預金、住宅ローン、国債利回りが同時に動く環境になり、家計の安全資金にも「置き場所を選ぶ」必要が出ています。
個人向け国債は、国が元本と利子を支払う円建て商品です。ただし「金利上昇局面なら変動10年が常に有利」とは言い切れません。利率の決まり方、資金を使う時期、中途換金時の調整額を並べて見ると、固定5年が合理的な場面もあります。
変動10年の利率を押し下げる0.66倍の重み
初回利率1.95%の読み方
個人向け国債には「変動10年」「固定5年」「固定3年」があります。変動10年は半年ごとに利率を見直し、固定5年と固定3年は発行時の利率が満期まで変わりません。最低購入額は1万円で、利子は年2回支払われます。
重要なのは、変動10年の利率が10年国債利回りそのものではない点です。財務省の商品概要では、変動10年の適用利率は「基準金利×0.66」とされています。固定5年は5年の基準金利から0.05%を差し引き、固定3年は3年の基準金利から0.03%を差し引く設計です。
2026年9月募集分を見ると、この差がはっきり出ます。変動10年の初回利率は年1.95%でした。基準金利は2.96%で、9月1日の10年利付国債入札結果から算出されています。一方、固定5年は年2.24%、固定3年は年1.96%でした。
つまり、金利上昇局面にもかかわらず、9月募集分の初回利率だけを比べると、変動10年は固定5年を下回っています。100万円を購入した場合、変動10年の初年度利子は税引前で年1万9500円相当、固定5年は年2万2400円相当です。差は年2900円で、半年分では1450円です。
固定5年2.24%との差
変動10年が固定5年を上回るには、将来の基準金利が十分に上がる必要があります。固定5年の2.24%に並ぶには、変動10年の基準金利が平均でおおむね3.4%を超える必要があります。計算式は2.24%を0.66で割るだけです。
もちろん、10年国債利回りが今後さらに上昇し、3.4%を大きく超える期間が続けば、変動10年の利子は増えます。その場合、発行時の利率を固定する固定5年よりも有利になる可能性があります。変動10年の強みは、満期まで10年持つ資金について、将来の長期金利上昇を取り込める点です。
一方で、利上げ局面でも長期金利が一直線に上がるとは限りません。政策金利は短期金利を直接動かしますが、変動10年が参照するのは10年国債の入札に基づく基準金利です。短期金利が上がっても、景気減速観測が強まれば長期金利の上昇が鈍ることがあります。
財務省が公表した2026年8月の個人向け国債応募額では、固定5年が5997億円、変動10年が3315億円、固定3年が1417億円でした。かつては変動10年の購入比率が高い時期がありましたが、足元では固定5年の利率を評価する資金も増えています。家計の判断は、すでに「変動10年一択」から離れ始めています。
満期までの資金計画で変わる固定型との優劣
3年と5年で使う資金の扱い
個人向け国債を選ぶときは、金利予想より先に「いつ使うお金か」を決めるべきです。1年以内に使う可能性がある資金なら、そもそも個人向け国債は向きません。原則として発行から1年が経過するまでは中途換金できないためです。
3年後に教育費や住宅修繕費として使う資金なら、固定3年が候補になります。5年後にまとまった支出が見えているなら、固定5年を満期まで持つ設計が分かりやすいです。満期と資金使途が合えば、中途換金調整額を気にせずに済みます。
変動10年は、10年間動かさなくてもよい安全資金に向いています。半年ごとに利率が見直されるため、長期金利が上がる局面では受取利子が増える可能性があります。ただし、5年で使うつもりの資金を変動10年に入れると、途中で国に買い取ってもらう前提になります。
ここで固定5年との比較が変わります。固定5年は5年で満期を迎えますが、変動10年は5年時点では満期ではありません。利率が少し高くなっても、中途換金時の調整額で一部が相殺される可能性があります。資金の使用時期が決まっているなら、満期の短い固定型の価値は見逃せません。
中途換金調整額の実質負担
個人向け国債は、発行後1年を経過すれば1万円単位で中途換金できます。中途換金額は、額面金額に経過利子相当額を加え、そこから直前2回分の各利子相当額に0.79685を掛けた中途換金調整額を差し引く仕組みです。
この0.79685は、利子にかかる20.315%の税金を反映した係数です。実感としては、直近およそ1年分の税引後利子に近い金額を差し引かれると考えると分かりやすいです。市場価格で売却する普通の国債と違い、個人向け国債は原則として額面で換金されますが、利子の一部は戻す形になります。
金利が低い時期には、この調整額は小さく見えました。しかし利率が2%前後まで上がると、無視しにくくなります。たとえば100万円を保有し、直近の利率が2%程度なら、1年分の税引後利子に相当する負担は1万円台になります。中途換金を前提にするほど、この負担は比較に効いてきます。
固定5年を5年満期まで保有する場合、この調整額は発生しません。変動10年を5年で換金する場合は、最後の1年分に近い利子を失う形になります。したがって、5年以内に使う可能性が高い資金では、初回利率だけでなく、出口の条件まで含めて比べる必要があります。
物価と財政が左右する長期金利シナリオ
日銀の2026年7月展望レポートは、消費者物価の前年比が2026年度に2%をはっきり上回り、その後は2%程度に向かうとの見方を示しました。9月の政策決定でも、経済・物価・金融情勢に応じて引き続き政策金利を引き上げる方向が示されています。
この環境は、変動10年に追い風です。物価上昇と利上げが続けば、長期金利も上がりやすくなります。日銀は長期国債買入れについても、2027年3月まで原則として四半期ごとに2000億円程度ずつ減額し、2027年4月以降は月間2兆円程度の買入れを行う計画を示しています。国債市場で金利が形成される度合いは高まっています。
ただし、国債金利の上昇は家計にとって利子収入の増加だけを意味しません。国や地方自治体にとっては利払い費の増加です。地方債市場でも、国債金利にスプレッドを上乗せして発行条件を決めることが一般的です。長期金利の上昇は、地域の公共投資や自治体財政にも波及します。
家計の安全資金として見るなら、個人向け国債は円建ての信用リスクを抑える道具です。しかし、物価上昇率を必ず上回る商品ではありません。利率が上がっても、物価がそれ以上に上がれば実質的な購買力は削られます。変動10年は金利上昇への耐性を持ちますが、インフレ全体を完全に防ぐ商品ではないのです。
個人投資家が購入前に確認すべき3条件
購入前に確認したい条件は3つです。第一に、1年以内に使う可能性がない資金かどうかです。生活防衛資金は預金が基本で、預金保険制度では一般預金等が1金融機関ごとに元本1000万円までと利息等を保護します。
第二に、資金を使う時期です。3年後なら固定3年、5年後なら固定5年、10年置けるなら変動10年というように、満期を支出予定に合わせるだけで失敗は減ります。第三に、10年国債の基準金利が平均3.4%を超えると見るかどうかです。
結論は、「金利上昇局面だから変動10年が有利」は半分正しく、半分危ういというものです。長期で置ける資金なら変動10年は有力です。一方、5年程度で使う資金なら、2026年9月募集分のように固定5年の利率が変動10年を上回る局面では、固定型のほうが堅実な選択になり得ます。
参考資料:
- 財務省「個人向け国債 商品概要」
- 財務省「個人向け国債窓口トップページ」
- 財務省「個人向け国債の発行条件等 令和8年9月2日」
- 財務省「10年利付国債 第383回 入札結果」
- 財務省「個人向け国債の応募額 令和8年8月」
- e-Gov法令検索「個人向け国債の発行等に関する省令」
- 日本銀行「金融市場調節方針の変更について 2026年9月18日」
- 日本銀行「展望レポート・ハイライト 2026年7月」
- 日本銀行「長期国債の買入れ計画 2026年6月金融政策決定会合」
- 金融庁「預金保険制度」
- 日本証券業協会「公社債店頭売買参考統計値関係」
- 地方公共団体金融機構「貸付利率・金利体系」
- 一般財団法人地方債協会「参照金利」
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