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信用金庫17庫赤字、金利上昇で問われる地域金融の持久力と再編

by 田中 健司
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17庫赤字が映す金利正常化の重み

全国の信用金庫で、2026年3月期に最終赤字となる先が17庫に増えたとされます。焦点は、金利上昇で保有債券の価格が下がり、売却損や含み損が収益と資本を圧迫したことです。

信用金庫は地域の中小企業、個人事業主、住民の資金繰りを支える協同組織金融機関です。単なる金融機関の決算悪化ではなく、地域の投資、雇用、自治体経済の持久力に関わる問題です。この記事では、日銀資料、金融庁資料、信金中金総研の統計、個別金庫の開示を基に、赤字拡大の構造と地域経済への影響を整理します。

債券損失が信用金庫決算を押し下げる構図

円金利上昇で債券価格が下がる仕組み

金利上昇局面では、既に発行された低利回り債券の市場価格が下がります。満期まで保有すれば元本償還を待てる債券でも、途中で売却すれば価格下落分が損失として表面化します。信用金庫が抱える今回の問題は、この会計上の損失処理と、未実現の含み損が同時に重くなる点にあります。

日銀は2024年3月以降、政策金利を無担保コールレート翌日物とし、その誘導目標を定める金融政策運営に移りました。長く続いた超低金利の前提が変わり、国債や地方債の利回りも上昇しやすくなりました。財務省の国債金利情報が示すように、国債市場は年限ごとに金利が形成され、長期・超長期の債券ほど価格変動の影響を受けやすい構造です。

信用金庫は、地域の貸出需要だけでは預金を十分に運用しきれない場合、余裕資金を国債、地方債、社債、投資信託などで運用してきました。地元企業への融資が本業であっても、人口減少地域では優良な貸出先が限られます。そのため、低金利期に比較的安全とみられた債券を積み上げた金庫ほど、金利上昇時に評価損を抱えやすくなります。

信金全体に表れた増益と減益の同居

日銀の金融システムレポート別冊「2025年度の銀行・信用金庫決算」は、信用金庫の当期純利益を2416億円、前年比16.9%減と示しました。一方で、基礎的な収益力を示すコア業務純益は6056億円で17.0%増です。つまり本業の利ざや改善は進んだものの、債券損失がそれを上回る形で最終利益を押し下げました。

同資料によると、信用金庫の資金利益は1兆8166億円で前年比7.0%増、非資金利益も758億円で10.7%増でした。ところが債券関係損益は4248億円の損失となり、前年差で2676億円悪化しました。日銀は債券関係損益を、債券売却益や償還益から売却損、償還損、償却を差し引いたものと定義しています。

2026年3月末の信用金庫のバランスシートを見ると、貸出金は82.7兆円、有価証券は45.0兆円、預金・譲渡性預金は161.3兆円です。貸出金は前年差で1.3兆円増えましたが、有価証券の規模も依然として大きく、金利変動リスクは無視できません。その他有価証券の評価差額金はマイナス1.9兆円で、含み損の重さを示しています。

個別金庫で目立つ売却損処理の差

個別の開示や地域紙報道を見ると、赤字の出方は一様ではありません。神戸新聞は、但馬信用金庫が2026年3月期に13年ぶりの赤字となり、金利上昇で国債や地方債の価格が下落し、債券売却損220億円を計上したと報じました。これは損失を先送りせず、一定程度を決算に反映した例といえます。

長浜信用金庫も令和8年3月期決算の資料を公表しています。愛媛信用金庫はディスクロージャー2026で2025年度の業績概要と別冊資料を開示しています。こうした個別資料を読むと、赤字の有無だけでなく、債券売却損、その他有価証券評価差額、自己資本比率、貸出金利息、預金利息の変化をあわせて見る必要があります。

重要なのは、赤字になった金庫だけが苦しいとは限らない点です。含み損を抱えたまま満期保有を続ける金庫は、損失を確定させていないため黒字を維持しやすい一方、資金を低利回り債券に長く固定することになります。反対に、赤字決算は痛みを先に出した結果である場合もあります。赤字か黒字かだけでは、地域金融機関の体力を測れない局面に入っています。

貸出増でも埋まらない地域金融の収益格差

地方銀行との明暗を分ける収益源

金利上昇は、金融機関に常に悪材料というわけではありません。貸出金利が上がれば、貸出金から得られる利息収入は増えます。日銀の2025年度決算別冊でも、地域銀行の当期純利益は1兆7489億円で前年比37.4%増となり、信用金庫とは対照的な結果でした。

地域銀行は、法人向け融資、住宅ローン、手数料ビジネス、政策保有株式の売却益など、収益源の幅が比較的広い先が多いです。日銀資料では、地域銀行の資金利益は4兆8528億円で17.2%増、コア業務純益は2兆5679億円で34.4%増でした。債券関係損益は1兆1361億円の損失でしたが、貸出や株式関係損益の改善で吸収できた構図です。

信用金庫も資金利益は増えています。しかし、顧客基盤が地域に限定され、営業地区外で自由に融資を伸ばせるわけではありません。製造業の集積が薄い地域、高齢化が進む地域、公共工事依存が強い地域では、貸出先の広がりに限界があります。金利上昇の追い風を受ける前に、過去に買った債券の損失が表面化したことが、今回の明暗を生みました。

預金獲得競争が変える信金の採算

もう一つの圧力は、預金の獲得コストです。信金中金総研は、信用金庫の預金動向について、個人の要求払預金が2024年度に62兆円に達した後、横ばいで推移し、2025年度には前年同月比でマイナスに転じたと分析しています。一方、個人の定期性預金は長く減少が続いた後、下げ止まりつつあるとしています。

これは、金利のある世界に戻ったことで、預金者が利回りを比べ始めたことを示します。新NISAなどを背景に、家計の資金が投資信託、株式、個人向け国債へ動きやすくなったことも影響します。J-FLECの2025年調査でも、二人以上世帯と単身世帯を対象に、金融商品の選択基準や資産保有行動が調べられています。

信用金庫にとって預金は、単なる負債ではなく貸出の原資です。預金が伸びなければ、地域企業への融資余力も制約を受けます。預金金利を引き上げれば資金調達費用が増え、引き上げなければ顧客資金が他の金融商品や他行へ流れる可能性があります。金利上昇は、貸出利息の増加と預金コストの増加を同時にもたらすため、採算管理の難度を上げます。

自治体経済に波及する金融仲介の目詰まり

信用金庫の収益悪化は、地域の資金循環に影響します。信用金庫は中小企業の運転資金、設備投資、事業承継、創業支援、災害時のつなぎ融資などを担います。地域金融が慎重姿勢を強めると、資金繰りに余裕のない小規模事業者ほど影響を受けやすくなります。

自治体にとっても、これは無関係ではありません。地元企業の資金繰りが細れば、雇用、法人住民税、固定資産税、商店街の消費に波及します。公共施設更新、地域交通、医療・介護、防災投資を抱える自治体ほど、地域金融機関の仲介機能に依存しています。

ただし、信用不安を過度にあおる必要はありません。金融庁は過去の会見で、信用金庫全体としては充実した資本基盤を有し、総体として安定しているとの認識を示しています。同時に、有価証券運用の状況、財務の健全性、リスク管理体制をモニタリングする考えも示しています。問題は破綻リスクの拡大というより、金利正常化に合わせた経営の組み替えがどこまで進むかです。

資本支援と早期警戒が促す再編圧力

金利上昇が続けば、含み損はさらに膨らむ可能性があります。反対に金利が落ち着けば評価損は和らぎますが、低利回り債券を抱えたままの機会損失は残ります。信用コストが低い間は耐えられても、景気減速で倒産や条件変更が増えれば、債券損失と貸倒費用が重なる展開もあり得ます。

稚内信用金庫を巡っては、稚内プレスが2026年3月末の国債評価損を649億円、自己資本を534億8400万円と報じ、信金中央金庫から200億円の資本支援を受ける見通しを伝えました。時事通信も、稚内信金が金利上昇に伴う国債評価損拡大を受け、信金中央金庫から200億円の資本支援を受けると報じています。栃木信用金庫についても、金融庁会見で信金中央金庫の支援活用が言及されています。

金融庁の中小・地域金融機関向け監督指針は、早期是正措置について、自己資本比率を客観的基準として迅速かつ適切に発動する考え方を示しています。国内基準では4%以上の水準を重視し、改善計画は原則として1年以内にその水準を達成する内容とされています。含み損がただちに業務停止を意味するわけではありませんが、資本の厚みは経営の自由度を左右します。

今後は、単独で債券損失を処理できる金庫、信金中央金庫の支援を使う金庫、合併や店舗再編で固定費を下げる金庫に分かれる可能性があります。地方財政の視点では、金融機関の再編は店舗統廃合だけでなく、自治体の指定金融機関、商工団体との連携、災害時の資金供給体制にも影響します。地域金融の再編は、地域行政の設計課題でもあります。

自治体と中小企業が点検すべき取引環境

信用金庫の17庫赤字は、金利が戻った日本で地域金融の体力差が見え始めた出来事です。本業収益は改善しても、債券損失、預金コスト、人口減少が同時に重なると、最終利益は簡単に揺らぎます。

中小企業は、取引信金のディスクロージャーで当期純利益、コア業務純益、債券関係損益、有価証券評価差額、自己資本比率を確認すべきです。資金繰り表も、借入金利がさらに上がる前提で見直す必要があります。自治体は、地域金融機関を単なる収納・指定金融機関としてではなく、地元産業政策の基盤として点検する時期です。

次に注視すべきは、2026年度中間決算での債券損失処理、預金金利引き上げの影響、信金中央金庫による支援の広がりです。赤字の数だけでなく、損失を処理する順番と資本の余力を見ることが、地域経済の先行きを読む手がかりになります。

参考資料:

田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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