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金融庁の地銀ALM調査、金利上昇で問う預金力と地域金融の耐性

by 田中 健司
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地銀ALM調査が映す金利ある世界の転換点

金融庁が全国の地方銀行を対象に、金利上昇に耐えられる経営体制を点検する局面に入りました。焦点は、銀行経営の土台であるALM、つまり資産と負債を一体で管理する力です。低金利が長く続いた時代には、貸出の利ざや不足が地銀経営の悩みでした。ところが政策金利が上がり、預金金利も動き始めると、収益機会と損失リスクが同時に表面化します。

全国地方銀行協会は地方銀行を61行、第二地方銀行協会は2026年3月末時点の加盟地方銀行を35行としています。合わせて100行弱の地域銀行が、地域の中小企業、自治体、住民の決済と資金供給を支えています。今回の点検は、個別行の財務健全性だけでなく、人口減少下の地域経済が安定した金融機能を維持できるかを問うものです。

預金獲得競争が変える地銀の収益構造

利ざや拡大を相殺する預金金利

金利上昇は、地銀にとってまず貸出利回りの改善要因です。全国地方銀行協会が公表した2025年度決算概要では、地方銀行の国内店分の貸出金利回りは前年同期比0.24ポイント上昇し、1.22%となりました。預金利回りも0.15ポイント上昇して0.21%になりましたが、預貸金利回り差は1.01%と、前年同期比0.09ポイント拡大しています。

この数字だけを見ると、金利上昇は地銀経営に追い風です。実際、地方銀行のコア業務純益は資金利益の増加などで前年同期比34.7%増の2兆2412億円、当期純利益も38.3%増の1兆5757億円でした。長く収益を圧迫してきた超低金利環境から抜け出し、本業の利ざやが回復したことは大きな変化です。

ただし、収益改善の持続性は預金の安定性に左右されます。預金者は、スマートフォンで複数の銀行金利を比べ、より高い金利や利便性を選びやすくなりました。法人も余剰資金を普通預金に置き続けるとは限らず、定期預金、MMF、国債、ネット銀行へ資金を移す選択肢を持っています。貸出利回りが上がっても、預金獲得のために金利やポイント還元を引き上げれば、利ざやは急速に薄くなります。

ALMで重要なのは、表面上の金利差ではなく、資金調達コストがどの速度で上がるかを読むことです。貸出金利の見直しには契約条件や顧客交渉の時間がかかります。一方、預金金利は競合行の動きに反応して短期間で変わります。この時間差が、金利上昇局面の地銀にとって収益変動の源になります。

預金流出が地域の貸出余力を左右

地方銀行の預金残高はなお大きな規模を保っています。全国地方銀行協会の2025年度決算概要では、地方銀行の国内店分の預金残高は前年同期比1.9%増の348兆円、貸出金残高は4.6%増の269兆円でした。第二地方銀行協会も、2026年3月末時点の加盟行35行について、預金残高71兆8426億円、貸出金残高57兆7394億円と公表しています。

問題は、総額が増えていても、すべての地域銀行で預金が同じように増えているわけではない点です。日本銀行の2026年4月金融システムレポートは、地域金融機関について、預金増加先と預金減少先を分けて預金金利や預貸率、金利リスク量を分析しています。日銀は金融システム全体を安定的と評価しつつ、金利環境が変わるもとで金融機関のバランスシートへの影響を点検しています。

預金が減る銀行では、貸出需要があっても手元の安定資金が細ります。市場から資金を調達することもできますが、コストは預金より高くなりやすく、調達期間も短くなりがちです。地域の企業から見れば、銀行の預金基盤が弱まることは、融資姿勢の慎重化、金利条件の上昇、担保や保証への依存につながりかねません。

自治体経営にも波及します。地方債の引き受け、指定金融機関業務、公共料金の収納、災害時の資金対応など、地域銀行は行政サービスの実務を支えています。預金競争に負けた銀行が収益維持のため店舗や人員を削れば、高齢者や小規模事業者の金融アクセスにも影響が出ます。金融庁の調査がALM全体を対象にする意味は、単なる銀行財務の検査にとどまらないところにあります。

保有債券の含み損が迫るALM再点検

長期金利上昇で膨らむ評価損

地銀のALMで、預金と並ぶもう一つの焦点が保有有価証券です。全国地方銀行協会の概要資料では、2025年3月末時点の地方銀行61行の有価証券残高は80兆2700億円でした。地方の貸出需要が伸びにくい時期、地銀は集めた預金の一部を国債や地方債、投資信託などで運用してきました。低金利下で少しでも利回りを確保するため、満期の長い債券を持つ動きもありました。

債券価格は金利が上がると下がります。満期まで保有すれば額面で償還される債券でも、途中で売却すれば評価損が実現します。会計上すぐ損益に出ない区分であっても、含み損は自己資本の余裕、配当政策、市場からの信認に影響します。預金流出が起きて手元資金を確保するために債券を売る必要が出れば、含み損は現実の損失に変わります。

日本銀行は2025年1月、無担保コールレートを0.5%程度で推移するよう促す方針を決めました。発表文では、実質金利は大幅なマイナスが続き、見通しが実現すれば政策金利を引き上げていく考えも示しています。政策金利の水準だけでなく、市場が将来の利上げをどう織り込むかが長期金利を動かし、銀行の保有債券に影響します。

金融庁の2025事務年度金融行政方針も、「金利のある世界」への移行を行政運営の前提に置いています。地域金融機関には、事業者支援を続ける力と同時に、環境変化に耐える経営管理が求められます。保有債券の含み損は、単独では直ちに危機を意味しません。しかし、預金流出、貸出先の信用悪化、債券売却損が重なると、地域銀行の損失吸収力を一気に削る可能性があります。

自己資本と期間ミスマッチの管理

ALMの難しさは、資産と負債の期間がそろわない点にあります。銀行は、預金という短めの負債で資金を集め、住宅ローンや企業融資、債券という長めの資産で運用します。金利が安定している時期には、この期間差が収益の源泉になります。ところが金利が大きく動くと、負債コストが早く上がり、資産収益の上昇が遅れるというミスマッチが発生します。

地方銀行の自己資本比率は、足元では十分な水準に見えます。全国地方銀行協会の2025年度決算概要では、国際統一基準行9行の自己資本比率は13.96%、国内基準行52行は10.21%でした。日銀の金融システムレポートも、日本の金融機関について、さまざまなストレスに耐え得る資本基盤と安定的な資金調達基盤を有すると評価しています。

それでも監督当局が見るべき点は、平均値ではなく個別行のばらつきです。地域の人口動態、産業構造、競合銀行の数、ネット銀行への資金流出の度合いは地域ごとに違います。製造業集積地の銀行と、人口減少が速い中山間地域の銀行では、貸出需要、預金者層、担保不動産の流動性がまったく異なります。

ALM点検では、少なくとも三つの問いが欠かせません。第一に、預金がどの程度まで流出しても、貸出と決済を維持できるかです。第二に、金利がさらに上がった場合、債券評価損と預金コスト増をどの程度吸収できるかです。第三に、収益確保のために不動産融資や高利回り投資へ過度に傾いていないかです。金融庁の調査は、これらを経営陣が自分の言葉で説明できるかを試す場になります。

監督強化が地域金融に及ぼす3つの波及

今回の調査が強い意味を持つのは、地銀が地域の最後の金融インフラであるからです。第一の波及は、事業者支援の選別です。金利上昇で銀行の資本余力が意識されると、収益性の低い融資や再生支援先への対応が厳しくなる可能性があります。資金繰りに余裕のない中小企業ほど、早めに返済計画や価格転嫁の説明力を整える必要があります。

第二の波及は、自治体との関係です。指定金融機関業務は手数料負担や事務コストが重く、低金利時代から採算が課題でした。預金競争が激しくなれば、地銀は公共部門向けサービスの採算も見直さざるを得ません。自治体は、地域金融機関を当然の受け皿とみなすのではなく、収納、決済、災害対応を含む金融インフラの維持コストを議論する段階に入っています。

第三の波及は、再編や共同化です。金融庁は2025事務年度方針で、地域金融機関が顧客支援に注力できるよう、共通課題の共同化やシステム共同利用を促す考えを示しました。ALM管理、人材確保、サイバー対策、マネロン対応は小規模行ほど負担が重くなります。単独行での体制整備が難しい場合、持株会社内の統合や業務共同化が進む余地があります。

重要なのは、監督強化を単純な締め付けと見ないことです。むしろ、危うい利回り追求や過度な預金金利競争を早期に抑え、地域金融の持久力を守るための予防措置です。行政処分に至る前に、経営陣が自らリスク量を把握し、取締役会で議論し、地域への説明責任を果たせるかが問われます。

自治体と企業が注視すべき地銀の健全性

読者が見るべき指標は、銀行の最終利益だけではありません。預金残高の増減、預金利回り、貸出利回り、有価証券の含み損益、自己資本比率、そして不良債権の動きです。利益が増えていても、預金を高い金利で集め直している銀行や、債券含み損を抱えている銀行では、将来の収益が不安定になりやすいからです。

自治体は、指定金融機関との契約条件や災害時の資金対応を点検する必要があります。企業は、取引銀行を一行に依存せず、資金繰り表と事業計画を複数行に説明できる状態にしておくことが重要です。金利ある世界では、銀行も借り手も「これまで通り」では済みません。金融庁の地銀ALM調査は、地域経済が次の金利局面に耐えるための早期診断として受け止めるべきです。

地域住民にとっても、銀行の健全性は預金保護だけの問題ではありません。支店網、ATM、事業承継支援、創業融資、自治体の公金収納は、採算が悪化すれば縮小対象になります。地銀の決算を見る際は、利益の大きさと同時に、地域で金融サービスを続ける体力が残っているかを確認する視点が欠かせません。

参考資料:

田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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