NewsHub.JP
NewsHub.JP

サザン関口氏の会社の申告漏れ、節税スキーム統制が今問われる理由

by 鈴木 麻衣子
URLをコピーしました

申告漏れ報道の核心と読者が見るべき論点

サザンオールスターズの関口和之氏が代表を務める有限会社のほほんが、東京国税局から5億8650万円の申告漏れを指摘されたと複数のメディアが報じました。追徴税額は過少申告加算税を含め約5300万円とされ、会社側は国税当局の判断を受け入れて納付を終えたと説明しています。

この問題は、有名人の会社に起きた税務トラブルというだけではありません。焦点は、外部の税理士が提案したとされる節税策を、会社がどのように検証し、経営判断として承認したのかにあります。節税と租税回避の境界、税理士への依存、代表者個人と法人の距離感を整理することで、中小企業にも共通する税務ガバナンスの課題が見えてきます。

株式売買と配当を使った節税策の構造

5億8650万円は収入額ではない事実

まず確認すべきなのは、報じられた5億8650万円が会社の売上高や関口氏個人の所得を意味する数字ではないことです。報道によれば、有限会社のほほんは2021年2月、当時の顧問税理士法人側が用意した会社の株式を5億8800万円で取得しました。その後、配当を受け取り、価値が下がった株式を関口氏側に150万円で売却したとされています。

会社は取得額と売却額の差にあたる5億8650万円を損失として計上したとされます。東京国税局はこの損失を税務上認めず、2023年9月期までの3年間で申告漏れを指摘したと報じられています。会社側の公式コメントでは、指摘対象は令和3年9月期に計上した損金算入であり、複数年にわたって収入や所得を申告していなかった事実はないと説明しています。

この違いは重要です。報道上の「3年間の申告漏れ」は、ある期に計上した損失が翌期以降の税額にも影響した可能性を含む表現です。一方で、会社側は問題となった会計処理の起点を令和3年9月期の損金算入に置いています。読者は「5.8億円を隠した」という単純な話ではなく、損失計上の可否をめぐる税務判断だったと理解する必要があります。

経済的合理性を欠く取引という判断

今回の節税策の特徴は、株式取得、配当、株式売却を短期間に組み合わせ、税務上の損失を作り出す構造にあります。配当によって株式の価値が下がり、その後に低い価格で売却すれば、帳簿上は大きな売却損が発生します。税務上その損失が認められれば、法人所得を圧縮し、納税額を減らす効果が生じます。

ただし、税務では形式が整っているだけでは足りません。報道では、東京国税局が株式売買や配当を組み合わせた取引について、経済的合理性を欠き、実態のない取引だと判断したとされています。FNNは、実際の代金のやりとりがなかったことなども判断材料になったと報じました。共同通信系の記事では、同様のスキームが少なくとも数十社に紹介されていたとも伝えられています。

どの条文や法的構成で否認されたのかは、公表資料だけでは断定できません。ただ、国税庁の税務大学校資料や裁決例を見ると、租税回避の判断では、取引が通常の経済人として不自然でないか、税負担の減少だけを主な効果としていないかが重視されます。今回も、事業目的や資金移動の実体よりも、損失を作る効果が前面に出た点が問題視されたとみられます。

税務上の節税策は、結果として税負担を減らすこと自体が直ちに違法になるわけではありません。設備投資、退職金、研究開発税制など、政策的に認められた選択肢は多くあります。問題は、会社の事業活動との関連が薄く、形式だけを動かして損金を作るような取引です。そこでは「合法と説明された」という一言だけでは、経営判断としての説明責任を果たしにくくなります。

重加算税なしでも残る経営責任の所在

過少申告加算税と重加算税の違い

会社側は公式コメントで、本税と過少申告加算税をすべて納付したと説明しています。また、事実の隠蔽または仮装があった場合に課される重加算税は課されておらず、そのような指摘も受けていないとしています。所属事務所アミューズも、国税当局から事実を偽った、または隠したとの指摘はなく、重加算税も課されていないことを確認したと報じられました。

この点は、企業不祥事としての評価を考えるうえで大きな意味を持ちます。過少申告加算税は、期限内申告後に修正申告や更正で追加納付が生じた場合に課される附帯税です。一方、重加算税は、課税の基礎となる事実を隠蔽または仮装した場合に、過少申告加算税などに代えて重く課される制度です。国税庁資料でも、過少申告に代わる重加算税の税率は35%と整理されています。

つまり、今回の公表情報から読み取れるのは、国税当局が「損金算入は認められない」と判断した一方で、会社側が事実を隠したり、仮装したりしたという認定まではされていないということです。これは、刑事事件や悪質な所得隠しとは区別して考えるべき事情です。

ただし、重加算税がないから経営責任がない、という結論にはなりません。税務リスクは、意図的な不正があるかどうかだけでなく、事前の検証体制があったか、取締役や代表者が十分に理解していたか、関係者への説明可能性を確保していたかで評価されます。法人が多額の損失計上を行う以上、外部専門家の提案であっても、会社側が検討過程を記録しておく必要があります。

外部専門家を使う取締役の注意義務

有限会社のほほんは、ウクレレを中心とした楽器小売、教室運営、イベント企画、通信販売などを行う会社です。こうした事業会社が、短期間で数億円規模の株式取引を行い、損金算入によって税負担を減らす場合、通常の仕入れや販売とは性質がまったく異なります。代表者や経理担当者は、事業目的、取引相手との関係、資金の流れ、税務上の根拠を確認する必要があります。

税理士制度は、税理士が独立した公正な立場から納税義務の適正な実現を援助することを前提にしています。国税庁も、税理士による書面添付制度を、申告書がどのように調製されたかを明らかにし、正確な申告に資する仕組みとして位置づけています。税理士は重要な専門家ですが、経営者の判断を完全に代替する存在ではありません。

会社側は、当時の顧問税理士から適法な取引であるとの説明とともに提案を受けたとしています。さらに、指摘後に当該税理士および税理士法人との契約を解除し、税務体制を整備すると説明しました。この対応は再発防止の出発点になりますが、今後の焦点は、契約解除そのものよりも、同じような提案を受けた場合に社内で止められる仕組みを作れるかです。

特にオーナー系企業では、代表者個人と法人の距離が近くなりがちです。今回も、株式の売却先が関口氏側だったと報じられています。関連当事者が登場する取引では、価格の妥当性、会社にとっての必要性、個人側への利益移転の有無が問われます。形式上の契約書だけでなく、なぜその相手に、なぜその価格で、なぜその時期に売却したのかを説明できる資料が必要です。

税理士依存が招く中小企業の統制リスク

提案型スキームの検証プロセス

中小企業の税務は、顧問税理士との信頼関係に支えられています。月次決算、申告書作成、税務相談までを一体で任せる会社は多く、経営者が税法の細部まで理解することは現実的ではありません。だからこそ、通常業務から外れる大型の節税策には、通常業務とは別の承認手続きが必要です。

まず必要なのは、提案内容を書面で受け取ることです。口頭で「適法です」と説明されただけでは、後から検証できません。取引の目的、税務上の根拠、否認されるリスク、否認された場合の追徴税額、同種事例、報酬体系を文書化すべきです。特に、節税効果に応じて報酬が発生するような提案では、専門家側のインセンティブも確認する必要があります。

次に、事業目的の有無を検討します。会社の本業と関係が薄い株式取得や資金移動を行う場合、税負担の軽減以外にどのような合理性があるのかを説明できなければなりません。投資としての収益性、事業提携の実体、リスク負担、資金拘束の必要性が見えない取引は、税務上だけでなく経営上も危険です。

第三に、セカンドオピニオンです。高額な節税策ほど、別の税理士、弁護士、公認会計士に確認する価値があります。顧問税理士を疑うためではなく、経営者が判断材料を増やすためです。今回のように、報道ベースで数億円の損金算入が問題になった場合、事前に独立した専門家の意見書を得ていたかどうかは、社内外への説明力を大きく左右します。

再発防止で必要な社内ルール

税務ガバナンスの実務は、大企業だけのものではありません。国税庁は大企業向けに、トップマネジメントの関与や指導の下で税務に関するコーポレートガバナンスを充実させることが重要だとしています。この考え方は、中小企業にも応用できます。規模に応じて簡素化しつつ、経営者が税務を「経理任せ」「先生任せ」にしない仕組みが要ります。

具体的には、一定金額を超える税務効果のある取引について、代表者、経理責任者、外部専門家の三者で検討記録を残すことが考えられます。関連当事者が関わる取引は、価格算定資料と承認記録を必須にします。決算直前に持ち込まれる節税提案は、通常より高いリスク区分に置き、緊急承認を認めない運用も有効です。

また、税務調査の結果を経営者に報告し、再発防止策を次年度の経理ルールに反映することも欠かせません。追徴税を払って終わりにすると、同じ構造の問題が形を変えて再発します。今回、会社側は税務体制を改めて整備すると説明しています。信頼回復には、誰が、どの段階で、どのような基準で高リスク取引を止めるのかを明確にすることが求められます。

有名アーティストの関連会社の場合、税務問題は会社単体にとどまりません。ファン、取引先、所属事務所、イベント関係者に波及します。重加算税がない事案でも、「節税スキーム」という言葉が独り歩きすれば、ブランドへの影響は避けられません。税務判断は、法令遵守だけでなく、レピュテーション管理の一部として扱うべき時代になっています。

申告漏れが示す税務ガバナンス強化の急務

今回の事案で、有限会社のほほんは納税を完了し、重加算税も課されていないと説明しています。そのため、過度に悪質事案として断定することは避けるべきです。一方で、数億円規模の損金算入が否認された事実は、外部専門家の提案を経営者がどう検証するかという重い課題を残しました。

今後注視すべきは、会社がどのような税務体制を整えるかです。高額取引の事前承認、関連当事者取引の記録、セカンドオピニオン、税務調査結果の経営報告という基本動作が整えば、同じ問題の再発可能性は下げられます。読者である経営者にとっても、今回の教訓は明確です。節税策を採用する前に、それが本業の合理性と説明可能性に耐えるかを確認することが、最も確実なリスク管理です。

参考資料:

鈴
鈴木 麻衣子

企業経営・コーポレートガバナンス

企業経営・コーポレートガバナンスを専門に取材。経営戦略の成功事例から不正会計の構造的問題まで、企業の「あり方」を鋭く問う。

関連記事

セブン巨額自社株買いが映すASR拡大と日本企業統治の新たな転機

セブン&アイがToSTNeT-3で約4000億円の自己株式取得を即日完了し、ASRへの関心が高まっています。通常の市場買付では買い切れない大型還元を、証券会社の借株とVWAP調整でどう実現するのか。資本効率経営の圧力、成長投資との配分、株主保護の論点、日本企業で広がる背景と今後の開示で見るべき指標を読み解く。

事業ポートフォリオ改革で問われる取締役会の資本配分と説明責任

東証要請とコーポレートガバナンス・コード改訂で、事業ポートフォリオの説明責任は経営課題の中心に移った。ROIC、資本コスト、脱炭素、株主提案の圧力を踏まえ、取締役会が「残す事業」と「切り出す事業」をどう判断し、政策保有株の見直しと結び付けて、資本配分の優先順位として投資家に語る条件を解説。

非公開株売買が海外市場へ、スタートアップ成長資金の新局面を拓く

HiJoJo Partnersが非上場有価証券特例仲介の登録を完了し、Nasdaq Private Marketなど海外市場との接続が現実味を帯びた。創業者やVCの換金機会を増やし、小粒上場を避ける出口多様化、投資家保護、価格形成、企業統治、海外投資家の選別基準の課題から日本の成長資金改革を読み解く。

CGコード改訂で問われる稼ぐ力と現預金、取締役会の新たな説明責任

2026年7月適用のCGコード改訂は、現預金を含む経営資源の使途、成長投資、地政学リスク、取締役会の監督を一体で問う。東証の資本コスト要請や有識者会議の議論、147件の意見募集結果を踏まえ、株主還元だけでは足りない実質対応と、企業が市場に選ばれるための説明責任を法務と投資家対話の視点から丁寧に読み解く。

みんなで大家さん伊勢から読む城郭ホテル投資の虚実と制度問題の深層

伊勢忍者キングダムを対象にした「みんなで大家さん」伊勢案件は、年7%商品が観光施設の賃料をどう説明したかを映します。成田で許可取消しに至った賃料不払、償還遅延、2881億円の債務超過の構造と重ね、出資金の回収可能性を左右する資産評価、利害関係者取引、不特法商品の開示とガバナンス上の制度問題を読み解く。

最新ニュース

中小監査法人再編加速、AI投資格差と監査品質危機の市場への影響

仰星監査法人と三優監査法人の統合検討は、上場会社監査の担い手が中小へ広がる中で起きた構造変化です。AI監査ツール、登録制度、監査報酬、人材不足、サステナビリティ開示への対応が再編を促す背景を整理し、企業と投資家が監査品質を見極める判断軸とリスクを、公開データと行政資料、各社発表からいま丁寧に読み解く。

個人向け国債変動10年は金利上昇局面で有利か固定5年徹底比較

日銀利上げで個人向け国債の利率は上昇中です。2026年9月募集分は変動10年1.95%、固定5年2.24%。ただし変動10年は基準金利×0.66で、5年で使う資金なら中途換金調整額も影響します。預金保険や固定型との違い、家計の安全資金の置き場まで含め「変動10年一択」と言えるかを実務的に検証します。

サウジ・UAE石油備蓄協力が映す日本主導のアジア経済安保戦略

サウジアラビアとUAEによるアジア石油備蓄協力は、ホルムズ海峡リスクに揺れるASEANの供給網を補強する一手です。日本が培った産油国共同備蓄、約100億ドル規模のPOWERR Asia、AZECとAPSAの制度連携を軸に、日本企業への影響も含め、脱炭素と化石燃料依存が併存する地域安保の課題を読み解く。

損保ジャパンAIレンジャーが拓く全員型AI人材戦略と現場変革

損保ジャパンのAIレンジャーは、生成AI活用を一部の若手任せにしない現場主導の仕組みです。SOMPOが約3万人に導入したAIエージェント、管理職向け研修、国内企業に広がるDX人材不足を手掛かりに、保険業務の品質責任や評価制度、心理的安全性まで含めた全員参加型の人材戦略とAI時代のリーダー像を読み解く。

国産ヒューマノイド月産千台計画、製造現場の関節技術で中国勢に挑む

三菱自動車とHighlandersが進める国産ヒューマノイド量産計画は、月産1000台という数字以上に、関節アクチュエータや現場データを押さえる産業戦略が焦点です。中国勢が量産で先行し、米欧勢も実工場で検証を進める中、自動車工場から始まる実装競争と日本の製造品質、フィジカルAIの勝ち筋と戦略を読み解く。