個人向け国債がネット証券で急伸、若年層が担う資産防衛の新潮流
金利ある世界で再評価される個人向け国債
個人向け国債が、退職世代だけの安全資産から、若年層も使うオンライン金融商品へ変わり始めています。背景にあるのは、金利上昇とネット証券の導線整備です。財務省によると、2026年9月募集分の表面利率は固定5年が年2.24%、固定3年が年1.96%、変動10年が初回年1.95%です。
ゼロ金利に近い時代には目立たなかった利子収入が、家計の運用判断で再び意味を持ち始めました。NISAでリスク資産を積み立てる若年層にとっても、値動きの小さい資金置き場は必要です。この記事では、個人向け国債の販売がネット証券で伸びる理由を、金利、商品設計、デジタル販売、家計ポートフォリオの4点から読み解きます。
ネット証券が広げる国債販売の若年化
スマホ注文とキャンペーンの導線設計
個人向け国債は、制度そのものだけを見ると新しい商品ではありません。変動10年、固定5年、固定3年の3種類が毎月募集され、1万円単位で買える設計は以前から用意されています。それでも足元で注目度が高まっているのは、購入体験が大きく変わったためです。
従来の販売は、銀行や証券会社の店頭で説明を受けて申し込む流れが中心でした。財務省の国債トップリテーラー会議の議事要旨でも、購入者層はなお60歳以降が中心で、販売方法は対面取引が約7割とされています。一方で、固定3年ではインターネット利用割合が比較的高い傾向も示されており、変化はすでに始まっています。
ネット証券は、この変化を加速させています。楽天証券は個人向け国債について、額面1万円から購入可能、買付手数料不要、毎月発行といった点を前面に出しています。SBI証券も、ログイン後の円貨建債券画面から個人向け国債を申し込む導線を案内しています。マネックス証券は2026年9月募集分の販売開始を告知し、変動10年、固定5年、固定3年の利率を一覧で示しています。
三菱UFJ eスマート証券も、2025年11月募集分から個人向け国債の取り扱いを始めました。三菱UFJ銀行の案内では、来店せずネットで口座開設から購入まで進められることが示されています。これは、銀行ブランドの安心感とネット証券の操作性を組み合わせる動きです。
販売現場の競争軸は、単なる金利表示から、アプリ、キャンペーン、口座連携、比較画面へ移っています。SBI新生銀行のキャンペーンでは、SBI証券で個人向け国債を一定額以上購入し、関連預金サービスを開設する条件が設定されていました。国債販売が預金、証券口座、ポイント施策とつながることで、若い利用者にも届きやすくなっています。
NISA世代に刺さる守りの資産
若年層の台頭を考えるうえで、NISAの浸透は欠かせません。日本証券業協会の資料によると、全金融機関のNISA口座数は2025年12月末時点で約2,821万口座に達しました。証券会社だけでも約2,025万口座です。2025年の買付額は全金融機関で18兆7,487億円、証券会社で15兆3,540億円となっています。
この数字は、若い世代が証券口座を持ち、スマートフォンで金融商品を選ぶことが日常化したことを示します。NISAでは株式や投資信託を使って長期の成長を取りにいきます。しかし、全ての資金を値動きのある商品に置くことは、多くの家計にとって現実的ではありません。
そこで個人向け国債が、投資行動の周辺にある「待機資金」や「生活防衛資金に近い余裕資金」の受け皿になります。株式市場が荒れたときにも元本価格が市場で変動しない設計は、初めて投資を経験した世代にとって理解しやすい特徴です。金利が上がったことで、守りの資産にも利回りを求められるようになった点が大きいです。
財務省も若年層への訴求を強めています。2026年度の広告では、20〜30代の勤労世代を新たな主要ターゲットに据え、投資の入り口としての安心感と手軽さを伝える方針が示されています。国債は退職金運用の商品というイメージから、資産形成の土台をつくる商品へ位置づけを変えつつあります。
預金とNISAを補完する商品設計
固定5年に集まる利回り確定ニーズ
個人向け国債の魅力は、商品性が比較的シンプルなことです。財務省の商品概要では、変動10年は半年ごとに適用利率が変わる変動金利型、固定5年と固定3年は発行時の利率が満期まで変わらない固定金利型と説明されています。いずれも最低金利は年0.05%で、利子は年2回支払われます。
2026年9月募集分では、固定5年の年2.24%が3商品の中で最も高い水準です。募集期間は2026年9月3日から30日まで、発行日は10月15日です。償還期限は固定5年が2031年10月15日、固定3年が2029年10月15日、変動10年が2036年10月15日です。
固定5年が注目されるのは、利率を5年間確定できるためです。将来の金利がさらに上がれば機会損失はありますが、下がった場合には高めの利率を確保した効果が残ります。教育費、住宅購入の頭金、数年後に使う予定の資金など、使う時期がおおよそ見えているお金には、固定型の分かりやすさがあります。
預金との比較も販売増の背景です。三井住友銀行の円預金金利では、2026年9月5日時点のスーパー定期は3年が年0.800%、5年が年1.000%、普通預金は年0.400%です。預金は決済性と流動性に優れますが、同じ期間で利率を比べると、足元の個人向け国債は存在感があります。
ただし、保護の仕組みは異なります。金融庁は預金保険制度について、一般預金等は1金融機関ごとに預金者1人当たり元本1,000万円までと破綻日までの利息等が保護されると説明しています。個人向け国債は預金保険の対象ではなく、日本国が元本と利子の支払いを行う債券です。この違いを理解したうえで、預金と国債を組み合わせる必要があります。
変動10年が担う金利上昇への備え
変動10年は、固定型とは別の役割を持ちます。財務省の金利FAQでは、変動10年の適用利率は基準金利に0.66を掛けた値と説明されています。基準金利は10年固定利付国債の入札結果をもとに計算されるため、長期金利の動きが半年ごとに反映されます。
日銀は2024年夏以降、国債買入れ額を段階的に減らしています。日本銀行のレビューでは、最近の長期金利上昇には基調的な物価上昇率などファンダメンタルズの変化が相応に作用しており、国債市場の機能度も改善していると整理されています。長期金利が市場でより自由に形成される局面では、変動10年の意味が増します。
もっとも、変動10年は市場金利をそのまま受け取れる商品ではありません。基準金利に0.66を掛ける設計であり、利率見直しは半年ごとです。金利上昇を取り込みやすい一方で、上昇分が一対一で反映されるわけではありません。金利が下がれば受取利子も下がりますが、最低金利の年0.05%は下回りません。
NISAとの関係でも、個人向け国債は代替ではなく補完です。NISAは長期で成長を取りにいく制度で、値動きのある資産を保有する前提があります。個人向け国債は利子に税金がかかりますが、元本価格が額面で管理され、中途換金時も額面金額100円につき100円で国が買い取る設計です。
若年層にとって重要なのは、リスク資産を増やすほど、安全資産の設計も必要になることです。給与収入、生活費、数年内の支出、長期投資資金を同じ箱に入れると、相場下落時に売りたくない資産を売ることになりかねません。個人向け国債は、投資を続けるためのクッションとして使えます。
利上げ局面で見落としやすい制約
個人向け国債は扱いやすい商品ですが、万能ではありません。最も大きい制約は流動性です。原則として発行後1年間は中途換金できません。1年経過後は1万円単位で中途換金できますが、直前2回分の各利子相当額に一定係数を掛けた中途換金調整額が差し引かれます。
インフレに対する弱さもあります。表面利率が上がっても、物価上昇率がそれを上回れば実質的な購買力は目減りします。個人向け国債は元本の名目額を守る商品であり、実質価値まで保証する商品ではありません。生活費が上がる局面では、預金や国債だけで資産全体を守る発想には限界があります。
固定型には機会損失、変動型には将来利率の不確実性があります。固定5年を買ったあとに金利がさらに上がると、新しく発行される国債の方が高い利率になる可能性があります。一方で、変動10年は将来の利率が読めず、半年ごとの見直しまで時間差もあります。どちらが正解かは、金利予測ではなく資金の使途で決める方が現実的です。
キャンペーンにも注意が必要です。購入額に応じた現金還元やポイント施策は魅力的ですが、条件を満たすために必要以上の金額を固定してしまうと本末転倒です。税引後利率、換金制約、資金の必要時期を見たうえで、特典は最後に確認する程度が健全です。
国の側から見ると、個人向け国債の広がりは国債の安定保有層を増やす意味を持ちます。財務省は2026年度の国債発行総額を180.7兆円、個人向け販売分を5.9兆円としています。半導体・AI債など新たな財源債も含め、国債発行は高水準です。個人の保有拡大は市場の厚みを増しますが、財政運営への信認を置き換えるものではありません。
家計が安全資産を組み直す判断軸
個人向け国債の販売増は、若年層が保守的になったというより、資産形成が一段成熟したサインです。NISAで成長資産を持つ人ほど、値動きしにくい資金置き場の重要性に気づきます。ネット証券は、その判断をスマートフォン上で完結できるようにしました。
家計では、まず1年以内に使うお金を預金に置き、数年先まで使わない安全資金を固定3年や固定5年に分ける考え方が有効です。金利上昇に備えたい部分は変動10年を使い、長期の成長を狙う資金はNISAの投資信託や株式に振り向けます。満期をずらして毎月少しずつ買う方法も、金利変動への過度な依存を避けられます。
確認すべき点は、利率の高さだけではありません。使う時期、途中で現金化する可能性、税引後の受取額、預金との役割分担、証券会社の操作性です。金利ある世界では、安全資産も放置する対象ではなく、設計する対象になります。個人向け国債の再評価は、その変化を映しています。
参考資料:
- 財務省「現在募集中の個人向け国債・新窓販国債」
- 財務省「個人向け国債商品概要」
- 財務省「個人向け国債の金利についてのよくある質問」
- 財務省「個人向け国債の商品性についてのよくある質問」
- 財務省「国債トップリテーラー会議(第25回)議事要旨」
- 財務省「個人向け国債の法人等への販売対象拡大について」
- 財務省「特集 令和8年度国債発行計画について」
- 日本銀行「日本銀行による国債買入れ減額の国債市場への影響」
- 日本銀行「資金循環」
- 日本証券業協会「NISA口座の開設・利用状況(2025年12月末時点)」
- 楽天証券「個人向け国債」
- マネックス証券「9月分販売開始 個人向け国債」
- SBI証券「利付国債・個人向け国債を購入するにはどうすればいいですか?」
- 三菱UFJ銀行「三菱UFJ eスマート証券」
- 金融庁「預金保険制度」
- 三井住友銀行「円預金金利」
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