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金融大手7社が相続手続き一括化へ新会社設立の全容

by 田中 健司
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はじめに

日本の年間死亡者数は2024年に約160万人を超え、過去最多を更新しました。いわゆる「多死社会」の到来により、相続手続きの件数は増加の一途をたどっています。しかし、現行の相続手続きでは、遺族が複数の金融機関を個別に訪問し、それぞれ異なる書式の書類を提出しなければなりません。この煩雑さが遺族の大きな負担となっていました。

こうした課題を解消するため、銀行・証券の大手金融機関7社が共同で新会社を設立し、相続手続きの一括対応を可能にする取り組みが動き出しました。SMBC日興証券が主導し、大和証券グループ本社、野村ホールディングス、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などが参加する枠組みです。本記事では、この新たな仕組みの全容と、遺族にとっての具体的なメリットを解説します。

新会社設立の背景と狙い

多死社会が突きつける相続の課題

日本では高齢化の進展に伴い、毎年の死亡者数が増え続けています。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2050年頃まで毎年約160万人規模の死亡が続く見通しです。日本総合研究所のレポートによれば、相続に伴う資産移転額は足元で約46兆円に達しており、2040年には約51兆円に拡大すると予測されています。

これだけの規模の相続が毎年発生するにもかかわらず、手続きの仕組みは旧態依然としたままでした。遺族は故人がどの金融機関に口座を持っていたかを把握したうえで、各金融機関に死亡届や戸籍謄本、印鑑証明書などを個別に提出する必要があります。故人が複数の銀行・証券会社に口座を持っている場合、同じ書類を何度も用意する手間が生じていました。

7社連携による一括対応の枠組み

2026年秋に設立される新会社は、SMBC日興証券が主導する形で、大和証券グループ本社、野村ホールディングス、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の大手証券4社に加え、三井住友フィナンシャルグループ傘下の金融機関が参加します。これにより、銀行と証券の垣根を越えた包括的な相続対応が実現します。

新会社の最大の特徴は「ワンストップ対応」です。遺族は新会社の窓口に一度だけ書類を提出すれば、参加する7社すべての相続手続きが進められます。これまで金融機関ごとに必要だった書類提出が一度で完了するため、遺族の事務負担は大幅に軽減されます。

隠れ口座照会と資産の可視化

「隠れ口座」問題の深刻さ

相続手続きにおいて見落とされがちなのが、遺族が把握していない故人の口座、いわゆる「隠れ口座」の存在です。故人が複数の金融機関に口座を開設しながら、家族に伝えていなかったケースは珍しくありません。

金融庁の制度では、10年間取引のない口座は「休眠預金」として預金保険機構に移管されます。休眠預金は社会課題の解決に活用される仕組みですが、相続人が口座の存在に気づかないまま権利を失う恐れもあります。こうした資産が放置されることは、遺族にとっての損失であると同時に、経済全体の資産循環を阻害する要因にもなっていました。

横断的な口座照会の仕組み

新会社では、参加する7社の口座情報を横断的に照会できる仕組みが構築されます。遺族が故人の氏名や基本情報を提供するだけで、7社すべてに口座があるかどうかを一括で確認できるようになります。これにより、遺族が知らなかった証券口座や銀行口座が発見される可能性が高まります。

この仕組みは、2025年4月に施行された「口座管理法」(預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律)による「相続時口座照会制度」とも方向性が一致しています。口座管理法では、マイナンバーと紐付けられた口座について、預金保険機構を通じて一括照会が可能になりました。ただし、マイナンバーを届け出ていない口座は照会対象外となる制約があります。

新会社の照会サービスは、マイナンバーの届け出の有無にかかわらず、参加金融機関の口座を網羅的に確認できる点で、公的制度を補完する役割を果たすことが期待されています。

政策との連動と業界への波及

資産所得倍増プランとの整合性

政府が掲げる「資産所得倍増プラン」の実現には、高齢者世代から現役世代への円滑な資産移転が不可欠です。相続手続きの煩雑さは、この資産移転を滞らせる構造的なボトルネックとなっていました。

新会社による手続きの簡素化は、眠っている金融資産を可視化し、スムーズに次世代へ引き継ぐ基盤となります。これは単なる事務効率化にとどまらず、国の経済政策を金融インフラの面から支える意味を持っています。

他の金融機関への波及効果

現在参加が発表されているのは大手7社ですが、今後は地方銀行やネット証券などにも同様の動きが広がる可能性があります。相続手続きの一括化が業界標準となれば、金融機関間の情報連携の仕組みが整備され、顧客にとっての利便性はさらに向上するでしょう。

デジタル庁が推進する「死亡・相続ワンストップサービス」構想では、行政手続きも含めた包括的なデジタル化が目指されています。民間の金融機関による今回の取り組みは、こうした行政のデジタル化と連携することで、将来的にはより広範な相続手続きの簡素化につながる土台となり得ます。

注意点・展望

利用にあたっての留意事項

新会社のサービスは2026年秋の設立予定であり、サービス開始時期や具体的な手数料体系はまだ明らかになっていません。また、参加する7社以外の金融機関については、従来どおり個別に手続きが必要です。故人が地方銀行やネット銀行に口座を持っている場合は、別途の対応が求められます。

口座管理法に基づく「相続時口座照会制度」は、1回の申請につき5,060円(税込)の手数料がかかり、マイナンバーの届け出が前提条件となります。新会社のサービスと公的制度を併用する場合のコストや手続きの重複についても、今後の情報を確認する必要があるでしょう。

今後の見通し

相続手続きの簡素化は、多死社会の日本において避けて通れない課題です。今回の大手7社による新会社設立は、金融業界が本格的にこの課題に取り組み始めた転換点といえます。2025年4月の口座管理法施行、公正証書遺言のデジタル化の動き、そして今回の民間金融機関による連携と、官民双方で相続手続きの改革が加速しています。

今後は参加金融機関の拡大や、行政手続きとの連携強化が進むかどうかが注目されます。

まとめ

銀行・証券の大手7社が共同で新会社を設立し、相続手続きの一括対応を可能にする計画が動き出しました。SMBC日興証券主導のもと、大和証券グループ本社、野村ホールディングス、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などが参加し、2026年秋の設立を目指しています。

遺族にとっての最大のメリットは、書類提出の一本化と隠れ口座の照会機能です。高齢化が進み年間160万人以上が亡くなる日本において、相続手続きの効率化は社会的な急務となっています。口座管理法などの公的制度と民間の取り組みが連携することで、相続にまつわる遺族の負担が着実に軽減されていくことが期待されます。今後の具体的なサービス内容や参加金融機関の拡大に注目しておきましょう。

参考資料:

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