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イラン攻撃1カ月で見えた欧米同盟の亀裂と中東リスクの実像とは

by 中村 壮志
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はじめに

米国とイスラエルが2026年2月28日にイランを攻撃してから、2026年3月27日で1カ月がたちました。この1カ月で明らかになったのは、欧州が米国と同じ温度でこの戦争に乗っていないこと、そしてホルムズ海峡の混乱が海運を揺らしたことです。

欧米同盟の「崩壊」とまで断定するのは早計です。NATOは防空や加盟国防衛では動き、英仏独もイランのミサイル攻撃を非難しています。ただし、攻撃参加や出口戦略ではずれが出ています。本記事では、2026年2月28日から3月27日までの公式声明と報道をもとに、同盟のどこが揺らぎ、何が中東リスクとして顕在化したのかを整理します。

欧米同盟に何が起きたのか

欧州は攻撃目的を共有しても参戦の仕方を共有していません

攻撃当日の2026年2月28日、英国政府が公表したE3共同声明で、英仏独は「攻撃には参加していない」と明言しつつ、イランに対し交渉再開を求めました。翌3月1日の追加声明では、イランによる域内諸国への無差別攻撃を強く非難し、防御的かつ比例的な行動で利益と同盟国を守る用意があるとしました。ここから見えるのは、欧州がイランの脅威認識では米国と重なりながら、先制的な対イラン軍事行動そのものには距離を置いたという構図です。

英国のスターマー首相は3月2日の議会演説で、英国が初期攻撃に参加しなかったのは「意図的な判断」だったと説明しました。そのうえで、英国は米軍の攻勢作戦には加わらず、自衛と友好国防衛の枠内で行動するとしました。米国が軍事圧力で秩序を作ろうとする一方、欧州主要国は戦争目的を限定し、法的正当化とエスカレーション管理を重視していることが分かります。

NATOは防衛では機能し、戦争遂行では線を引きました

NATOの3月5日の声明は象徴的です。北大西洋理事会はイランによる継続的な攻撃を受けて安全保障環境を協議し、トルコに対する連帯を表明しました。一方で、NATOが対イラン戦争そのものに参加するとはしていません。つまり、同盟の任務は加盟国防衛までであり、米国とイスラエルの軍事作戦をNATOの旗で包むことはしないという立場です。

ここに「欧米同盟の亀裂」が凝縮されています。米国は中東でも欧州の支援を当然視しがちですが、欧州側はNATOの本来任務を欧州・大西洋圏の防衛に限定したい。ロシアの脅威が続くなか、中東への深入りは兵力、政治資本、世論の面で重い負担だからです。3月26日から27日の報道でも、米政権内の対欧不満とホルムズ海峡の負担分担を巡る緊張が伝えられました。

中東リスクはどこまで広がったのか

最も深刻なのはホルムズ海峡の寸断です

1カ月で最大の経済リスクに発展したのはホルムズ海峡です。国際海事機関IMOは3月1日、民間船舶への攻撃は正当化できず、航行の自由は守られるべきだと異例の警告を出しました。さらに3月6日には、船員死亡と負傷、そして湾内で約2万人の船員が危険下に取り残されていると公表しました。軍事衝突が海運保険、乗組員安全、船舶運航を同時に傷つけた形です。

IEAの3月12日公表の石油市場報告は、今回の混乱を「世界の石油市場史上最大の供給障害」と表現しました。戦前は日量約2000万バレル規模が通っていたホルムズ経由の原油・石油製品フローがほぼ止まり、湾岸産油国は少なくとも日量1000万バレル規模の減産を迫られたとしています。Reuters配信の記事でも、3月13日時点でブレント原油は1バレル103ドル台まで上昇しました。

3月26日から27日にかけての報道では、ホルムズ海峡は完全閉鎖から一部の「友好国」船舶だけが通る極端に管理された状態へ移っています。ただし、これは正常化ではありません。通行の可否が軍事・外交シグナルに左右される時点で、海上交通路はすでに市場インフラではなく政治兵器になっています。

供給網リスクは原油だけで終わりません

UNCTADは3月10日の分析で、ホルムズ海峡は世界の海上石油輸送だけでなく、LNGや肥料貿易にも大きな比重を持つと指摘しました。肥料の海上輸送量の約3分の1がこの海峡を通るため、影響はエネルギー価格の上昇にとどまりません。電力コスト、食料生産コスト、海運運賃、保険料が連鎖的に上がり、特に脆弱な新興国に打撃が及びやすくなります。

EUとGCCの3月5日の共同声明も、自由航行、供給網の安全、エネルギー市場の安定をまとめて論点にしていました。欧州が今回の危機を単なる中東の戦争ではなく、自国経済に跳ね返る供給網危機として見ていることが分かります。ホルムズだけでなく、紅海まで緊張が波及すれば、アジアと欧州を結ぶ海上物流はさらに傷みます。

注意点・展望

注意すべきなのは、「欧州は米国を見放した」と単純化しないことです。現実には、欧州はイランの攻撃を非難し、防衛行動や域内防空では米国と協調しています。亀裂があるのは、攻撃開始の意思決定、参戦の範囲、そして戦後秩序の描き方です。欧州は、ロシア抑止を抱えたまま中東で無制限の軍事関与を拡大したくないという制約を抱えています。

今後の焦点は、2026年3月27日時点で続く間接交渉がホルムズの再開通と停戦の糸口になるか、そして欧州がエネルギー安全保障と海上輸送防衛をどこまで自前化するかです。米欧の戦略分業が崩れれば、中東危機は長期の同盟再編問題へ変わります。

まとめ

この1カ月で見えたのは、米国と欧州がイランの脅威認識を共有しても、武力行使の始め方と終わらせ方では一致していない現実です。英仏独は攻撃不参加を明言し、NATOも加盟国防衛に任務を絞りました。そこに、ホルムズ海峡の混乱が加わり、同盟の政治的ずれがエネルギーと物流の実害に直結しました。

したがって、今回の核心は「中東戦争が起きた」ことだけではありません。欧米同盟の結束が自動ではなくなり、その隙間をイランが海峡と地域ネットワークで突いたことです。企業と投資家にとって重要なのは、停戦の有無だけでなく、海上輸送の回復速度と欧州の対米距離感を継続的に見ることです。

参考資料:

中村 壮志

国際情勢・地政学・安全保障

中東・米中関係を中心に国際情勢を取材。地政学リスクが日本経済に与える影響を、現地の視点から分析する。

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