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社債発行が過去最高を更新 個人マネーが企業成長を後押し

by 鈴木 麻衣子
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2025年度社債最高額と個人マネー台頭

国内企業による社債の発行額が2025年度(2026年3月期)に過去最高を更新しました。M&A(合併・買収)の活発化を背景に企業の資金需要が高まるなか、従来は機関投資家中心だった社債市場に個人投資家が新たな買い手として存在感を増しています。

日本の企業金融は長らく銀行借入に依存する「間接金融」が主流でしたが、「金利のある世界」への転換が社債市場の構造変化を促しています。本記事では、社債発行が記録的水準に達した背景、個人投資家の参入拡大の実態、そして今後の日本の社債市場の課題と展望を解説します。

社債発行が過去最高に達した背景

M&Aの急拡大が資金需要を牽引

社債発行額が過去最高を更新した最大の要因は、企業のM&A活動の活発化です。2025年の日本関連M&Aは件数・金額ともに過去最高を記録しました。レコフデータの集計によると、2025年のM&A件数は5,115件に達し、取引総額は過去最高水準となっています。

大型のクロスボーダーM&Aや国内再編が相次ぐなか、企業は銀行借入だけでなく社債による資金調達を積極的に活用しています。日本総研のレポートによれば、クロスボーダーM&Aや海外の大型設備投資(AIやデータセンター投資を含む)など成長投資を活発化する企業が増加した結果、外貨建て社債の発行額も過去最高を更新しました。

金利上昇環境での発行戦略の変化

日銀の金融政策正常化に伴い、社債の調達コストは上昇しています。日本総研の分析では、2025年には利率1%以下での発行がほぼなくなるなど、金利環境の変化が顕著でした。

こうしたなか、企業は発行年限を短期化することで調達コストを抑制する戦略をとる傾向が見られます。一方で、国債のイールドカーブがスティープ化するなかでも社債への需要は旺盛であり、Bloombergの報道によれば2026年も高水準の発行が続く見通しとされています。

個人投資家の台頭と社債市場の構造変化

個人向け社債の発行額が過去最高を更新

社債市場で最も注目すべき変化は、個人投資家の存在感の高まりです。日本総研のレポートによると、金利上昇に伴い個人投資家にとって債券投資の妙味が増すなか、2025年の個人向け社債の発行額は過去最高を更新しました。

銀行預金の金利が依然として低水準にとどまるなか、年利2〜5%台の利回りが期待できる社債は、安定的な資産運用を求める個人にとって魅力的な選択肢となっています。個人向け社債は10万円程度の少額から購入可能な商品もあり、投資のハードルが下がっていることも普及を後押ししています。

ソフトバンクグループの大型個人向け社債

個人投資家向け社債の象徴的な事例が、ソフトバンクグループの取り組みです。同社は2026年3月30日、第8回ハイブリッド社債(劣後特約付)の発行を発表しました。発行総額は4,180億円で、同社の個人向けハイブリッド債としては過去最大規模です。

この社債は年限35年(実質5年)で、仮条件は年4.65〜5.25%と高い利回りが設定されています。申込期間は2026年4月13日〜4月21日で、調達資金は2026年6月に初回任意償還日を迎える第5回ハイブリッド社債(4,050億円)の借り換えなどに充当される予定です。

ソフトバンクグループは国内普通社債でも大規模な発行を行っており、2025年11月には第67回無担保社債を発行するなど、社債市場における最大級の発行体として存在感を示しています。

機関投資家から個人へ広がる買い手の裾野

従来、日本の社債市場の買い手は銀行や保険会社などの機関投資家が中心でした。金融庁の資料によると、日本では預金取扱機関が社債保有全体の約4割を占めており、米国のように保険・年金基金や投資信託が中心となる構造とは大きく異なっています。

しかし、金利上昇局面で個人投資家が社債市場に参入することで、買い手の多様化が進みつつあります。この動きは企業にとっても資金調達先の分散につながり、金融システム全体の安定性向上にも寄与すると期待されています。

日本の社債市場が抱える構造的課題

米国の10分の1にとどまる市場規模

日本の社債市場は拡大基調にあるものの、国際的に見るとまだ発展途上です。日本の上場企業の資金調達は8割超が銀行などからの借入であり、社債による調達は約1割にすぎません。市場規模は米国の10分の1に満たない水準とされています。

この背景には、日本の金融システムが戦後一貫して「間接金融」を中心に発展してきたという歴史的な経緯があります。内閣府の分析によれば、高度経済成長期に旺盛な資金需要に対応できたのは銀行借入のみであり、その構造が長く定着してきました。

政府主導の社債市場活性化の動き

こうした課題を受け、経済産業省は2025年10月に「企業金融の高度化に向けた社債市場の在り方に関する研究会」を設置しました。この研究会は、社債を「成長資金の調達手段」と「資産運用の投資対象」の両面から捉え、市場の活性化を通じた成長と分配の好循環を目指しています。

研究会では、事業会社の視点から社債市場の課題を整理し、官民連携で議論すべき制度的・規制的な枠組みについて検討が進められています。2026年3月時点で第4回まで開催されており、具体的な政策提言に向けた議論が続いています。

ハイブリッド社債のリスクと2026年拡大余地

社債は預金や国債と比べて高い利回りが期待できる一方、元本保証がないことに注意が必要です。特にハイブリッド社債(劣後債)は、発行体の経営悪化時に弁済順位が低くなるリスクがあります。ソフトバンクグループのような大型発行体であっても、格付けや財務状況を十分に確認したうえで投資判断を行うことが重要です。

今後の展望としては、金利上昇が続くなか社債市場のさらなる拡大が見込まれます。Bloombergの報道では、2026年も企業と投資家双方の需要が旺盛で高水準の発行が続くとの見方が示されています。経済産業省の研究会での議論が具体化すれば、制度面からも社債市場の活性化が進む可能性があります。

個人投資家の参入拡大は、日本の金融システムにおける間接金融から直接金融への転換を象徴する動きです。企業の成長投資を支える資金の出し手として個人マネーが定着するかどうかが、今後の日本の資本市場の発展を左右する重要なポイントとなるでしょう。

2025年度最高額社債と個人マネー定着課題

国内の社債発行額が2025年度に過去最高を更新し、M&Aの活発化や成長投資の拡大が資金需要を押し上げています。特に注目すべきは個人投資家の台頭であり、金利上昇を背景に個人向け社債の発行額も過去最高を記録しました。ソフトバンクグループの4,180億円規模のハイブリッド社債に代表されるように、個人マネーが企業の成長を支える新たな担い手として浮上しています。

一方で、日本の社債市場は米国と比較するとまだ小規模であり、銀行借入中心の金融構造からの転換は道半ばです。経済産業省の研究会など制度面での整備も始まっており、今後の社債市場の発展動向に引き続き注目が必要です。

参考資料:

鈴木 麻衣子

企業経営・コーポレートガバナンス

企業経営・コーポレートガバナンスを専門に取材。経営戦略の成功事例から不正会計の構造的問題まで、企業の「あり方」を鋭く問う。

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