中東情勢長期化で日本にスタグフレーションの恐れ
はじめに
2026年2月28日の米国・イスラエルによるイラン攻撃を受け、中東情勢が急速に緊迫化しています。イランによるホルムズ海峡の事実上の封鎖により、原油価格はブレント原油で1バレル120ドルを超える水準まで急騰しました。エネルギーの多くを中東からの輸入に頼る日本では、物価上昇と景気悪化が同時に進む「スタグフレーション」への懸念が高まっています。
本記事では、中東情勢の長期化が日本経済に及ぼす影響と、高市早苗政権の対応策について、複数の専門家の分析をもとに整理します。
ホルムズ海峡封鎖が日本経済を直撃する構図
中東依存度9割の脆弱性
日本は原油輸入の約94%を中東地域に依存しており、そのうち大部分がホルムズ海峡を経由して運ばれています。イランが対抗措置として海峡を事実上封鎖したことにより、サウジアラビア、UAE、イラク、クウェートからの原油輸送が停滞しています。世界の原油供給の約20%がこの海峡を通過するため、その影響は日本にとどまらず世界規模で広がっています。
原油だけでなく液化天然ガス(LNG)の供給にも深刻な影響が出ています。カタールからのLNG輸出が困難になったことで、日本・韓国向けLNGの価格指標であるJKMは、2月27日の1MMBtu当たり10ドルから3月6日には15ドルまで50%上昇しました。
原油価格高騰の3つのシナリオ
野村総合研究所は、中東情勢の展開に応じた複数のシナリオを提示しています。メインシナリオでは、軍事衝突の長期化により原油価格が1バレル87ドルまで上昇し、日本の実質GDPが0.18%押し下げられ、物価が0.31%押し上げられると試算しています。
より深刻なシナリオとして、ホルムズ海峡が長期的に完全封鎖された場合、原油価格は2008年のリーマンショック前の最高値である1バレル140ドルに達する可能性が指摘されています。この場合、日本経済は景気後退と物価高騰が共存するスタグフレーションに陥る恐れがあります。一部のアナリストは最悪の場合、150ドル超えもあり得ると警告しています。
実際に2026年3月時点ではブレント原油が120ドル台で推移しており、原油価格が持続的にこの水準を維持した場合、日本のGDPは想定比0.6%低下すると見込まれています。
スタグフレーションリスクの現実味
物価と景気の二重苦
スタグフレーションとは、物価上昇(インフレ)と景気停滞(スタグネーション)が同時に発生する経済状態です。通常、景気が悪化すれば物価は下がりますが、原油高などの供給ショックが原因の場合、物価が上がり続ける一方で経済活動は縮小するという厳しい状況が生まれます。
日本では、エネルギー価格の上昇が電気・ガス料金、輸送コスト、原材料費に波及し、消費者物価を押し上げます。同時に、企業のコスト増は利益を圧迫し、設備投資や雇用の抑制につながります。家計の実質購買力が低下することで個人消費が冷え込み、景気の悪循環に陥る恐れがあります。
1970年代のオイルショックとの比較
今回の中東情勢は、1970年代のオイルショック以来最悪の供給途絶になり得るとの見方も出ています。世界経済フォーラムは、今回の紛争の経済的影響を1970年代以来最大と評しています。ただし、当時と比較すると世界経済における石油依存度は低下しており、再生可能エネルギーや省エネ技術の進展もあるため、影響の度合いは異なる可能性もあります。
とはいえ、日本は先進国の中でも突出して中東原油への依存度が高く、エネルギー転換の遅れが今回のリスクを増幅させている側面があります。
高市政権の対応策と課題
緊急エネルギー対策
高市早苗首相は原油高への迅速な対応をアピールし、複数の対策を打ち出しています。ガソリン価格については、全国平均で1リットル当たり170円程度に抑制する補助を3月19日から実施します。石油備蓄についても、民間備蓄15日分の放出を先行させ、その後に国家備蓄1カ月分を放出する計画です。日本は合計で約254日分の石油備蓄を保有しています。
電気・ガス料金についても「これまでよりも深掘りした支援を行い、金額も上げる方向で対応する」との方針を示し、灯油やLPガスなどの地域事情に応じた支援策も検討されています。
中長期的なエネルギー政策の転換
高市政権は原子力発電や核融合の推進を掲げており、再生可能エネルギー重視の従来路線からの転換が図られています。2026年2月の施政方針演説では「脱炭素電源の最大限活用」とGX(グリーントランスフォーメーション)投資の推進が盛り込まれました。
しかし、短期的な備蓄放出や補助金は一時しのぎに過ぎず、予算の裏付けや対策規模の妥当性が今後の焦点となります。中東依存度を構造的に引き下げるエネルギー政策の再構築が急務です。
注意点・今後の展望
中東情勢の先行きについては、大きな不確実性が残ります。軍事衝突が短期間で収束すれば、原油価格は比較的早期に正常化に向かう可能性もあります。一方で、紛争が長期化し周辺国を巻き込む事態になれば、影響はさらに深刻化します。
日本経済にとっての最大のリスクは、原油高が長期化する中で日銀の金融政策が難しい舵取りを迫られることです。物価上昇に対応して利上げを進めれば景気を冷やし、景気を優先して金融緩和を続ければインフレが加速するというジレンマに直面します。
ニッセイ基礎研究所の2026年2月時点の経済見通しでは、2026年度の実質GDP成長率を1.0%と予測していますが、中東情勢の悪化が長引けば下方修正は避けられないでしょう。企業や家計は、エネルギーコスト上昇に備えた省エネ対策や、サプライチェーンの見直しを検討する必要があります。
まとめ
米・イスラエルのイラン攻撃に端を発する中東情勢の緊迫化は、中東に原油の9割以上を依存する日本に深刻なリスクをもたらしています。ホルムズ海峡の事実上の封鎖により原油価格は120ドル台に急騰し、スタグフレーションの懸念は現実味を帯びてきました。
高市政権はガソリン補助や備蓄放出などの緊急対策を打ち出していますが、根本的な解決にはエネルギー調達先の多角化や脱炭素電源の拡充が不可欠です。今回の危機を、日本のエネルギー安全保障を見直す契機とすることが求められています。
参考資料:
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