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スマートラウンド証券登録で進む未上場株セカンダリー市場の整備

by 山本 涼太
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未上場株流通が政策課題になった背景

スマートラウンドは2026年8月21日、子会社が「スマートラウンド証券株式会社」に商号変更し、第一種金融商品取引業のうち非上場有価証券特例仲介等業務の登録を完了したと発表しました。登録番号は関東財務局長(金商)第3539号です。日本証券業協会への加入などを経て、未上場株式のセカンダリー取引を中心とする証券サービスを始める計画です。

この動きが重要なのは、未上場株の売買が単なるニッチな金融取引ではなく、スタートアップ政策の中核に近づいているためです。政府はスタートアップ投資額を2027年度に10兆円規模へ拡大し、将来的にユニコーン100社を創出する目標を掲げています。資金調達だけでなく、株式の流動性をどう設計するかが、成長企業を長く未上場で支える前提になっています。

スマートラウンド証券登録の制度的意味

特例仲介業務という新しい入口

今回の登録は、通常の証券会社が幅広い上場・未上場の有価証券を扱う話とは性格が異なります。焦点は、非上場有価証券特例仲介等業務に絞った第一種金融商品取引業です。金融庁の監督指針では、この業務だけを行う業者について、第一種金融商品取引業の登録要件が一部緩和される一方、業務範囲を超えないための管理体制が求められています。

登録要件の緩和は、未上場株の仲介に特化した新規参入を促す狙いがあります。金融庁の登録手続ガイドブックでは、通常の第一種金融商品取引業では資本金や純財産額が5,000万円とされるところ、非上場有価証券特例仲介等業務のみの場合は1,000万円と示されています。自己資本規制比率の算出についても、同業務のみの場合は不要とされています。

ただし、緩和は無制限な自由化ではありません。監督指針は、一般投資家を相手方とする売買の媒介や、一般投資家への勧誘に基づく買付けの媒介を防ぐ措置を求めています。つまり、新制度の基本線は、リスク理解力や資産余力のある投資家を対象に、限定された非上場株流通を整えることです。

資本政策データを持つ事業者の優位

スマートラウンドの特徴は、単に証券免許を得たことではありません。同社はもともと、資本政策、株主総会、取締役会、ストックオプション管理、経営情報、株主・証券データを扱うスタートアップ向けプラットフォームを提供してきました。公式サイトでは、スタートアップ導入企業数を7,500社、導入投資家数を4,600人・社としています。

未上場株のセカンダリー取引では、売り手と買い手のマッチングだけでは不十分です。発行会社の定款、株主間契約、譲渡制限、先買権、取締役会承認、株主名簿、種類株式、SOの希薄化などを確認する必要があります。公開市場のように画面上で注文を出せば即座に約定・決済できる世界ではありません。

このため、資本政策や株主管理のデータを持つSaaS型事業者が証券サービスへ踏み込む意味は大きいです。取引に必要な情報が発行体側の業務フローと接続されれば、弁護士、証券会社、VC、発行会社が個別に確認していた手続きの重複を減らせます。スマートラウンドは2024年9月に、みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、野村ホールディングスとの資本提携を発表し、セカンダリー取引の実務をDXで効率化すると説明していました。

未上場株流通で最も難しいのは、信頼できるデータと価格形成を同時に整えることです。証券会社としての規制対応に加え、発行体の承認プロセスや投資家向け情報共有を扱えるかが、サービスの成否を分けます。

グロース市場改革が促す出口戦略の再設計

小型IPO依存からの転換圧力

未上場株のセカンダリー市場が注目される背景には、東京証券取引所グロース市場の改革があります。JPXはグロース市場の時価総額に関する上場維持基準について、現在の「上場後10年経過後から40億円以上」から、2030年3月1日以降は「上場後5年経過後から100億円以上」へ見直すとしています。

これは、スタートアップに早期上場を禁じる制度ではありません。むしろ東証は、グロース市場を「高い成長を目指す企業が集う市場」と位置づけ、機関投資家の投資対象になり得る規模への成長を促す狙いを示しています。ただ、現実の経営判断としては、小さく早く上場して公開市場で評価を待つ選択肢の魅力は下がります。

上場後5年で時価総額100億円を維持する必要が強まれば、未上場段階でより大きく成長し、売上、粗利、継続率、海外展開、ガバナンスを整えてからIPOする企業が増えます。これは米国で起きた「上場までの長期化」と同じ構図です。スマートラウンドも子会社設立時の説明で、米国では創業からイグジットまでの期間が平均7年から14年に延び、創業者、役職員、VCの流動性ニーズが高まったと説明しています。

VCと従業員に広がる流動性需要

セカンダリー取引は、会社に新しい資金が入るプライマリー調達とは異なります。既存株主が持つ株式を別の投資家に売る取引です。そのため、発行会社に直接の資金調達メリットはありません。一方で、創業者や初期従業員、エンジェル投資家、VCにとっては、IPOやM&Aを待たずに保有株の一部を現金化できる手段になります。

この機能は、長期成長を目指す企業ほど重要です。たとえばAI、宇宙、核融合、創薬、半導体、ロボティクスのような領域では、研究開発と市場形成に時間がかかります。優秀な人材を採用し続けるには、ストックオプションや株式報酬が「いつか価値になる」だけでなく、一定のタイミングで流動性を持つことが望まれます。

VCにも同じ問題があります。ファンドには通常、運用期間があります。投資先が順調に成長していても、IPO市場が停滞すればLPへの分配が遅れます。スピーダの調査では、2025年の国内スタートアップ資金調達額はデットを除き7,613億円で、総額は比較的安定した一方、中央値は低下し、投資家の選別姿勢が強まったとされています。2025年上半期だけを見ても、調達総額は3,399億円、資金調達社数は1,377社で横ばいに近いものの、1社当たり中央値は前年同期の8,360万円から6,790万円へ低下しました。

資金がすべての企業に広く流れる局面ではなく、成長確度の高い企業に集中する局面です。こうした環境では、既存投資家が一部を売却し、新たな成長投資家が入るセカンダリーの役割が増します。米国では、Cartaが2024年7月から2025年6月までのVCセカンダリー取引額を推計611億ドルと紹介し、同期間のVC支援企業IPO総額を上回ったとしています。Nasdaq Private Marketも2024年上半期に30件超の構造化セカンダリーを支援し、42億ドルの取引額を扱ったと公表しています。

日本で同じ規模の市場がすぐ生まれるわけではありません。ただ、未上場企業が長く大きく成長するには、途中の流動性を支える仕組みが必要です。スマートラウンド証券の登録は、その仕組みを制度の内側で実装する第一歩と位置づけられます。

透明な価格形成に残る三つの難題

第一の難題は、価格の透明性です。未上場企業は上場企業ほど詳細で継続的な開示義務を負いません。売上成長率、解約率、粗利率、受注残、研究開発の進捗、顧客集中など、価値評価に直結する情報が限定的になりがちです。情報の非対称性が大きいまま取引が広がると、売り手にも買い手にも不信が残ります。

第二の難題は、発行会社の統制です。多くの未上場株には譲渡制限があり、会社や既存株主に先買権が設定されている場合もあります。Forgeのレポートも、未上場株では会社側が売却承認や参加者、売却量を制限できる点をリスクとして挙げています。流動性を高めすぎれば株主構成が乱れ、低すぎれば人材や投資家の不満が高まります。

第三の難題は、投資家保護です。金融庁は未公開株の不審な勧誘について以前から注意喚起してきました。今回の制度は、一般投資家に広く販売するためのものではありません。特定投資家や準特定投資家など、リスク許容度と理解力を前提にした市場設計です。ここを曖昧にすると、ユニコーン創出のための市場インフラが、逆にトラブルの温床になりかねません。

起業家と投資家が注視すべき関門

スマートラウンド証券の登録で、未上場株セカンダリー市場が一気に完成するわけではありません。次の関門は、日本証券業協会への加入、取扱要領、対象投資家の範囲、発行会社の承認実務、価格算定の標準化、情報開示の粒度です。特に発行会社にとっては、既存株主の換金を認める条件を早い段階で資本政策に織り込む必要があります。

投資家にとっても、未上場株は「IPO前に買える有望株」という単純な商品ではありません。流動性、情報、譲渡制限、ガバナンス、税務を総合して判断する市場です。制度内の仲介者が増え、データ基盤と監督ルールが機能すれば、日本のスタートアップは上場を急がずに成長する選択肢を持てます。その成否は、セカンダリーを投機の場ではなく、長期成長を支える金融インフラとして定着させられるかにかかっています。

参考資料:

山本 涼太

AI・半導体・先端技術・SaaS

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