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高市首相ナフサ4カ月分確保を表明、供給不安の実態

by 中村 壮志
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はじめに

高市早苗首相は2026年4月5日、自身のX(旧ツイッター)で、石油化学製品の原料となるナフサ(粗製ガソリン)について「少なくとも国内需要4カ月分を確保している」と表明しました。これは、一部報道番組が「日本は6月にはナフサ供給が詰む」と指摘したことに対する直接の反論です。

ホルムズ海峡の実質封鎖を背景に、日本の石油化学産業は原料調達に大きな不安を抱えています。ナフサはプラスチックや建材、医療品など私たちの生活に欠かせない製品の出発原料であり、その供給安定は産業界全体に関わる問題です。本記事では、首相が示した「4カ月分確保」の内訳と、日本が直面するナフサ供給リスクの実態を解説します。

「4カ月分確保」の内訳と政府の説明

二段構えの在庫構成

高市首相がXで説明した4カ月分の内訳は、大きく2つの要素で構成されています。第1に、すでに調達済みの輸入ナフサと国内製油所で精製可能な分を合わせた約2カ月分です。第2に、ポリエチレンなどナフサを原料とする中間段階の化学製品の在庫として約2カ月分が確保されているとしています。

さらに首相は、中東以外からのナフサ輸入量を倍増させる方針を強調しました。この取り組みが実現すれば、国内在庫は半年以上に相当する水準になるとの見通しも示しています。

報道への反論と情報発信

この発言の背景には、4月4日に放送された報道番組での「日本は6月にはナフサ供給が確保できなくなる」という指摘があります。高市首相はこれを「事実誤認」と明確に否定し、Xを通じて直接反論する異例の対応を取りました。時事通信によると、首相は報道内容への不満をあらわにしたとされています。

ホルムズ海峡封鎖がもたらすナフサ危機の構造

中東依存の脆弱性

日本のナフサ供給構造には深刻な脆弱性があります。国内エチレン設備が使用するナフサは、国内産が約4割、中東産が約4割、その他の輸入品が約2割という構成です。日本石油化学工業協会によると、海外から輸入するナフサのうち中東依存度は7割を超えています。

2026年2月末に米国・イスラエルによるイラン攻撃を契機としてホルムズ海峡が実質的な封鎖状態に陥ったことで、この中東依存の構造が直接的なリスクとして顕在化しました。

エチレン減産の連鎖的影響

ナフサ調達難を受けて、国内12基のエチレンクラッカー(エチレン生産設備)のうち半数の6基が大幅な減産または稼働調整に入ったとされています。三井化学などの大手石化メーカーがエチレンの減産に踏み切りました。

エチレンの減産は、ポリエチレン、PVC(塩化ビニル)、ポリスチレンなどの汎用樹脂の供給不足と価格高騰を招きます。これらの素材は食品包装フィルム、レジ袋、建築用配管、医療器具など、幅広い産業で使用されています。特にポリプロピレンは自動車の内外装部品や家電製品にも使われており、自動車生産への直接的な影響も懸念されています。

ナフサ価格の急騰

供給不安を背景に、ナフサの国際価格は急騰しています。シンガポール市場のスポット価格は3月25日に1トンあたり1,000ドルの大台を突破し、北東アジア向けベンチマーク(C&F Japan)は1,010〜1,050ドル/トンの水準で推移しているとされています。価格高騰は、石油化学製品を原料とする川下産業のコスト増加に直結する問題です。

代替調達と供給多角化の取り組み

非中東ルートの開拓

石化メーカーや商社は、中東以外からのナフサ調達を急ピッチで進めています。化学工業日報によると、インドやアフリカなどからの調達が具体化しています。政府もインドとの間で、日本がLPG(液化石油ガス)を提供する代わりにナフサや原油を輸入するバーター取引の可能性を模索しています。

経済産業省は平時にはない危機対応モードに入り、調達先候補国の関係当局との調整を通じて情報共有や交渉支援を行っているとされています。

原料の多様化(フィードストック・フレキシビリティ)

長期的な対策として、エチレンクラッカーの原料をナフサだけに頼らない体制づくりも進んでいます。かつてはナフサ専用だったクラッカーを改造し、LPG、コンデンセート(超軽質原油)、さらには灯油や軽油までも原料として投入できる設備への転換が進められています。こうした「マルチソーシング」と原料柔軟性の確保は、将来の供給リスクに対する構造的な備えとなります。

注意点・今後の展望

在庫の「質」に対する慎重な見方

首相が示した「4カ月分」には、中間化学製品の在庫2カ月分が含まれている点に注意が必要です。石油化学業界が独自に保有するナフサの専用在庫は業界推計で約20日分程度とされており、「4カ月分」という数字の解釈には幅があります。中間製品の在庫は、そのまま新たな製品に加工し直せるわけではないため、実質的な供給余力は数字通りではない可能性があります。

停戦交渉と中長期リスク

ホルムズ海峡の封鎖状態がどの程度続くかは、中東情勢の行方次第です。停戦機運が高まったとしても、企業のサプライチェーン見直しは急務とされています。東洋経済オンラインは、一度露呈した供給網の脆弱性は短期間では解消されず、「化学×物流」の構造的な課題として中長期的に取り組む必要があると指摘しています。

また、非中東ルートからの調達が本格化したとしても、輸送距離の増加によるリードタイムの長期化やコスト上昇は避けられません。日本の石油化学産業が国際競争力を維持できるかどうかは、こうした構造転換のスピードにかかっています。

まとめ

高市首相がXで表明した「ナフサ国内需要4カ月分の確保」は、調達済み輸入ナフサ・国内精製分と中間化学製品在庫の合算です。ホルムズ海峡の封鎖によって日本の石油化学産業が直面するナフサ危機は深刻ですが、政府は中東以外からの輸入倍増や非中東ルートの開拓によって供給安定を図る方針を示しています。

ただし、業界が保有するナフサ専用在庫は限られており、エチレン減産の影響はプラスチック製品から自動車部品まで広範な産業に波及する可能性があります。消費者や企業にとっては、石油化学製品の価格動向や供給状況を注視しつつ、代替素材の検討や在庫管理の見直しを進めることが重要です。

参考資料:

中村 壮志

国際情勢・地政学・安全保障

中東・米中関係を中心に国際情勢を取材。地政学リスクが日本経済に与える影響を、現地の視点から分析する。

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