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ナフサ不足の影響はいつまで?在庫4カ月の実態と値上げの波

(公開: 2026年4月8日 07:15) by 田中 健司
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ホルムズ封鎖5週間とナフサ4カ月在庫の実態

ホルムズ海峡の事実上の封鎖から5週間が経過し、石油化学製品の原料であるナフサ(粗製ガソリン)の供給不安が日本の産業界に広がっています。高市早苗首相は2026年4月5日、国内需要の「少なくとも4カ月分」を確保していると表明し、政府として火消しに動きました。しかし、この「4カ月」という数字の内訳を見ると、純粋なナフサ在庫だけでなく中間製品の在庫も含まれており、現場の安心感とは距離があります。

ナフサはプラスチック、合成繊維、塗料、洗剤など私たちの日常生活に欠かせない製品の出発原料です。本記事では、ナフサ供給の現状と「4カ月分確保」の実態、化学品への影響、そして今後の見通しについて解説します。

ナフサ供給の現状と「4カ月」の内訳

高市首相の発言と在庫の実態

高市首相が示した「国内需要4カ月分の確保」は、2つの要素から構成されています。1つ目は、調達済みの輸入ナフサと国内精製分を合わせた約2カ月分です。2つ目は、ポリエチレンやポリプロピレンなどナフサから製造される中間化学製品の在庫約2カ月分です。

ここで注意すべきは、後者の2カ月分はすでにナフサから変換された製品在庫であり、新たな化学品の製造には使えないという点です。経済産業省のデータによると、純粋なナフサとしての国内在庫は約20日分とされており、これは決して潤沢とは言えません。

ホルムズ海峡封鎖の影響

2026年2月末の米国・イスラエルによるイラン攻撃をきっかけに、ホルムズ海峡は事実上の封鎖状態に陥りました。日本の輸入ナフサのうち約7割が中東産であり、国内で使用するナフサ全体でも約45%を中東からの輸入に依存しています。アジア全体では、海上輸送されるナフサの60〜70%がホルムズ海峡を経由しており、この封鎖の影響は甚大です。

中東危機以前、原油の国家備蓄は250日分あった一方で、ナフサの国内在庫は2〜3週間分にとどまっていました。原油とナフサでは備蓄の厚みに大きな差があり、これがナフサ供給問題が先鋭化した背景の一つです。

エチレン減産と化学品供給への波及

国内石化プラントの減産状況

ナフサ不足を受けて、国内のエチレン生産拠点に減産の波が広がっています。国内に約12カ所あるエチレン生産設備のうち、6基が減産に入っている状況です。三菱ケミカルグループは茨城県の鹿島事業所でエチレンの減産を開始し、水島(岡山県)でも共同運営するエチレンクラッカーの稼働を絞っています。出光興産もエチレン生産設備の停止可能性を取引先に通知しました。

4月上旬時点では追加停止の広がりは抑えられていますが、ナフサ在庫が尽きれば設備停止がさらに拡大するリスクは残っています。

川下製品への連鎖的影響

エチレンの減産は、ポリエチレン、塩化ビニル(PVC)、ポリスチレンなどの汎用樹脂の供給不足に直結します。これらの樹脂は食品包装材、建材、日用品など幅広い用途に使われています。

プロピレン系列ではポリプロピレン(PP)への影響が深刻です。PPは自動車の内外装部品や家電の筐体などに使われ、日本の自動車メーカーは世界でも上位のPP消費国です。ナフサ供給の制約が続けば、自動車生産にも影響が及ぶ可能性があります。

信越化学工業は2026年4月1日出荷分から塩化ビニル樹脂で1キログラムあたり30円以上の値上げを実施しています。住宅用断熱材の価格は約4割引き上げられ、塗料原料のシンナーには最大8割の値上げ事例も報じられています。

非中東調達の拡大と価格高騰の課題

代替調達先の確保状況

政府と民間企業は中東以外からのナフサ調達を急ピッチで進めています。経済産業省は3月31日、4月の非中東産ナフサ入着量が約90万キロリットルになる見通しを示しました。これは平時の約45万キロリットルから倍増する規模です。

調達先としては、米国からの約30万キロリットルを筆頭に、インド、ペルー、アルジェリア、オーストラリアなどからの調達が進んでいます。石化メーカーや商社がアフリカや欧州を含む多方面で調達交渉を展開しており、従来は「国内4割、中東4割、非中東2割」だった構成のうち、非中東部分を大幅に拡大する形です。

価格高騰という新たな壁

量の確保が進む一方で、ナフサ価格の急騰が新たな課題として浮上しています。日本着のナフサスポット価格は4月3日時点で1トンあたり約1,190ドルに達し、封鎖前の600ドル台から約92%上昇しました。この水準は2008年の過去最高値を上回るものです。

非中東産のナフサは輸送距離が長く、調達コストも中東産より高くなる傾向があります。化学メーカーにとっては「原料は手に入るが、作れば作るほど赤字」という厳しい状況が生まれており、供給量の確保だけでは問題が解決しないことを示しています。

ナフサ在庫20日分と5月以降の供給リスク

「4カ月分確保」をどう読むか

政府が示す「4カ月分」という数字は、中間製品在庫を含めた広義の数字です。純粋なナフサ在庫は約20日分にとどまるため、「4カ月分あるから安心」とは言い切れません。中間製品の在庫は一時的な需要には対応できますが、その在庫が消費された後に新たな製品を作るための原料が確保されていなければ、供給途絶のリスクは残ります。

今後の見通し

東洋経済オンラインの報道によれば、現在の調達計画ではゴールデンウイーク前までの分に目処が立っている状況です。5月以降については、ホルムズ海峡の情勢次第で見通しが大きく変わります。非中東調達の拡大は進んでいますが、中東からの減少分を完全に補うには至っていません。

家計への影響も無視できません。ナフサ価格の高騰はプラスチック製品全般の値上げにつながり、食品トレーやゴミ袋、日用品まで幅広く波及します。4人家族で年間1万8,000〜2万5,500円の追加負担が見込まれるとの試算もあります。

非中東ナフサ倍増と価格2倍下の調達多角化

ナフサ供給問題は、量の確保と価格の安定という二つの課題を抱えています。政府は「4カ月分の確保」を強調していますが、その内訳には中間製品在庫が含まれており、純粋なナフサ在庫は限定的です。非中東産ナフサの調達は倍増しているものの、価格は約2倍に高騰し、化学メーカーの収益を圧迫しています。

今後の焦点は、5月以降の供給見通しとホルムズ海峡の情勢の行方です。ナフサは目に見えにくい原料ですが、プラスチックから自動車部品まで、私たちの生活を支える広範なサプライチェーンの起点です。政府と産業界が一体となった中長期的な調達多角化の取り組みが求められます。

参考資料:

田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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