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ホルムズ危機で進む原油・ナフサ代替調達の実力と長期課題を検証

by 田中 健司
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ホルムズ危機で問われる原油・ナフサ調達

ホルムズ海峡危機を語るとき、話題は原油価格に集中しがちです。しかし、日本経済にとって本当に厄介なのは、原油とナフサが別々の問題として同時進行することです。原油は燃料と発電を直撃し、ナフサはプラスチックや包装材、塗料、電子部材など石油化学の川上を揺らします。生活コストと産業サプライチェーンが、同じチョークポイントに縛られているわけです。

2026年4月8日時点で、資源エネルギー庁は原油の代替調達について4月は前年実績比で2割超、5月は過半の確保にめどが付いたと説明しています。石油備蓄も約8カ月分あり、年を越えて供給を確保できる見通しだとしています。危機対応としてはかなり踏み込んだ内容です。ただし、それを「十分な解決」と見なすのは早計です。本稿では、いま進む代替調達の実力を確認したうえで、なぜ一時しのぎで終わらせてはいけないのかを整理します。

原油とナフサで異なる脆弱性

世界のチョークポイントとしてのホルムズ海峡

IEAによると、ホルムズ海峡では2025年に日量平均約2,000万バレルの原油・石油製品が通過し、世界の海上石油貿易の約4分の1を占めました。しかも、その約8割はアジア向けです。EIAも、2024年の同海峡通過量を日量2,000万バレルと推計しており、世界の石油液体消費の約2割に相当するとしています。日本はこのボトルネックの影響を最も受けやすい国の一つです。

資源エネルギー庁の2025年版エネルギー白書でも、日本は原油の約9割を中東から輸入しており、ホルムズ海峡を通らない輸入先の確保など供給源の多角化が重要課題だと明記しています。危機が起きてからの応急対応ではなく、平時からの調達構造そのものが問われているのです。

燃料問題に見えて実は化学原料問題

ナフサの重要性は、一般には原油ほど認識されていません。しかし資源エネルギー庁の2025年6月版エネルギー動向によれば、日本の石油製品販売量に占めるナフサの比率は2023年度で25.0%に達しています。ガソリンに次ぐ大きな用途であり、石油化学の基礎原料として産業全体に広がる存在です。

2026年3月16日に経済産業省が示した石油化学向け説明資料では、2024年のナフサ調達元は中東44.6%、国産39.4%、その他輸入16.0%でした。つまり、原油ほどではないにせよ、なお中東依存が大きい。さらに同資料は、ポリエチレンなど川下製品の在庫が国内需要の約2カ月分あり、中東以外からの輸入増と国内精製の積み増しでさらに約2カ月分の対応を進めていると説明しています。ここから分かるのは、ナフサ問題はガソリン不足より遅れて表面化しやすい一方、製造業への波及が深いということです。

代替調達が稼いでいる時間

備蓄放出とルート転換の同時進行

日本政府は2026年3月16日、民間備蓄義務量を70日から55日に15日分引き下げるとともに、当面1カ月分の国家備蓄石油放出を決定しました。続く3月24日には国家備蓄原油の放出総量を約850万klと公表し、3月26日以降に順次放出を始めています。危機初動として、需給緩和と市場心理の安定を同時に狙った形です。

そのうえで政府は、備蓄に依存し切らない調達転換も進めています。資源エネルギー庁の4月2日時点の説明では、原油の代替調達は4月に前年実績比2割超、5月には過半に達する見通しです。特に米国からは5月に前年比約4倍まで拡大する見込みとされました。実際、サウジアラビアのヤンブー港やUAEのフジャイラ港を使うホルムズ海峡回避ルートが動き始めており、4月3日配信の時事ベース報道でも、日本到着が確認されています。

ナフサ調達の広がり

原油より注目度は低いものの、ナフサでも動きは速いです。ロイター報道ベースの3月31日情報では、日本はナフサの中東外調達を平常月の45万klから4月は90万klへ倍増させる見込みで、そのうち30万klを米国から確保するとされました。供給先候補も、米国に加え、アルジェリア、豪州、インド、ペルーまで広がっています。

これは単なる数量確保ではありません。石油化学の操業停止を避けるための時間稼ぎです。ナフサは原油のように国家備蓄で直接持つというより、川下在庫、国内精製、輸入先多角化を組み合わせて耐える構造です。公開資料を総合すると、日本は原油では備蓄と代替輸入の二段構え、ナフサでは川下在庫と非中東調達の二段構えで危機をしのごうとしていると読めます。

一時しのぎで終わらせてはいけない理由

代替ルートの物理的限界

ここで見落としてはいけないのが、回避ルートにも上限があることです。IEAは、ホルムズ海峡を迂回できる実効的な代替輸送能力は、サウジアラビアの東西パイプラインとUAEのADCOPを合わせても日量350万〜550万バレル程度に限られるとみています。ホルムズ経由の総量は日量約2,000万バレルですから、全量代替にはほど遠い水準です。しかもヤンブー経由は紅海からバブ・エル・マンデブ海峡を通るため、地政学リスクが消えるわけでもありません。

供給量だけでなく、価格と品質の問題もあります。EIAは4月7日時点の見通しで、ホルムズ閉鎖が4月いっぱい続く前提なら、産油国の生産停止は4月に日量910万バレルへ拡大し、ブレント原油は2026年第2四半期に1バレル115ドルまで上がると予測しました。つまり、物理的に届く原油があっても、運賃、保険料、品質調整コスト込みでは安定調達とは言い切れません。

ここから先に必要な構造転換

以下は公開資料から導ける政策論点です。第一に、代替調達を危機時のスポット調達で終わらせず、平時の長期契約に落とし込むことです。米州、中央アジア、アフリカからの原油・ナフサ調達は、今回限りの緊急避難ではなく、常設ポートフォリオに組み込む必要があります。

第二に、ナフサを含む石油化学原料の安全保障を、燃料安全保障の付属物として扱わないことです。原油備蓄は制度化されていても、ナフサは川下在庫と各社努力への依存が大きい。石油化学の稼働継続が産業政策上どこまで重要かを明確にし、必要なら共同在庫や物流支援の枠組みを強めるべきです。

第三に、回避ルートを前提にした物流・精製の適応力を高めることです。ヤンブーやフジャイラ経由の中継、非中東原油の性状差、国内精製でのナフサ取り回しなど、平時から試していない供給網は危機時に詰まりやすいからです。エネルギー安全保障は備蓄量だけでなく、切り替え速度と運用訓練の問題でもあります。

安い中東調達回帰が招く次の危機

足元の対応を過小評価する必要はありません。2026年4月8日時点の政府説明だけ見ても、日本は備蓄放出、官民調整、代替ルート確保、ナフサの非中東調達拡大まで動かしています。短期対応としては相当に厚い布陣です。

ただし、ここで安心してしまうと、次の危機で同じ議論を繰り返します。ホルムズ海峡が再開して価格が落ち着けば、企業も政策当局も「安い中東調達」に戻りやすいからです。安さを最優先すると、危機時の保険料を平時に払い損ねます。今回の危機は、備蓄が重要だと示しただけでなく、備蓄だけでは足りないと証明しました。

原油・ナフサ代替調達から恒久策への転換

ホルムズ危機の裏で進んでいる原油・ナフサの代替調達は、たしかに日本へ時間をもたらしています。原油では備蓄放出と代替輸入、ナフサでは川下在庫と非中東調達が、供給断絶を回避する防波堤になっています。

しかし、それはあくまで時間の購入です。真に必要なのは、その時間を使って調達先、物流、備蓄、石油化学原料政策を作り替えることです。危機対応が成功している今こそ、次の危機に備えた恒久策へ移るべき局面に入っています。

参考資料:

田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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